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リアクション
「セルウスくんは狙われているんだよ!」
「な、何だってェ――!!?」
画面を埋め尽くす巨大ドクロを背景に、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)が叫ぶ。
「……いや、それは最初から解っていたことだから。前回のシナリオガイド時点で既に」
付き合いというかノリの良いセルウスに、軽くこめかみを押さえつつ、光一郎のパートナー、ドラゴニュートのオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が深々と息を吐く。
「冷静な突っ込みノーセンキュウ!
俺様は、勝ちに拘るあまり、緊張してカチンコチンこになりそうなセルウスの緊張をほぐしてやろうとしてるだけだっ」
「どこかに余計な一字が」
「余計な突っ込みノーセンキュー!
本場タシガンに着く前に、プリンス・オブ・ゲイバーの触りだけでも味あわせてやる!
見よ、俺様の『ドキッ、カンテミールも思わず昇天』『帝国最硬もほぐしたウルテク』!
コンロンへはタシガン経由で! タシガン経由でヨロシクドーゾー!!」
大声で思惑を語ってるんじゃない特にタシガン経由のところ、とオットーは思ったが、聞こえなかったフリをした。
「俺、緊張してないよ」
「馬っ鹿、ほぐすのはそこじゃねえ。いいから全てを俺様に委ねりゃいいんだぜ……?」
くくく、と笑う光一郎から、流石に身の危険を感じたのか、ドミトリエがセルウスを引き剥がす。
「もうすぐ試合だ」
「あ、じゃあ行かなきゃ」
またねー、と、二人は控え室を出て行く。
「はっ、そういえば、キリアナの姿が見えないな?」
光一郎は控え室を見渡した。
そう此処は控え室だった。他の参加選手の視線が痛い。
ものともしない光一郎は、恐らくマゾである。
「……何でそこで、そういえばなんだ?」
大会の控え室は二つある。
トーナメントは四つのブロックに分かれているが、A、Bブロックの参加者が第一控え室、C、Dブロックの参加者が第二控え室に割り振られている。
Bブロックのセルウスは第一控え室、Dブロックのキリアナは第二控え室だ。
「いざ! ルパンダーイブ!!」
意味不明の叫びと共に、控え室を飛び出そうとした光一郎を、流石にオットーは止めた。
一回戦第4試合が、セルウスの出番だった。
直前まで光一郎と漫才をしていたセルウスは、ドミトリエに引っ張られて舞台に上がる。
「よーし、やるぞー!」
気合を入れて相手を見て、あれっ、と目を丸くした。
事前にトーナメント表を見ていなかったのだ。
相手は、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)組。
「当たっちゃったね」
美羽も苦笑する。
「仕方ない、勝負だもんね、本気で行くよ」
「うん!」
セルウスも頷く。
「言っておくが」
ドミトリエがセルウスに囁いた。
「俺は手出ししないぞ」
「解ってる」
大丈夫、とセルウスは頷く。
「二人とも、頑張れや!」
セコンドの光臣翔一朗が声援を送った。
ラブ・リトルも応援する。
「フレーフレーセールーウース♪
頑張れ頑張れセールーウース
あたしに賞品貢ぐため〜♪ 相手をぶっ飛ばせー! おー!」
「こらー!
リングサイドから部外者が堂々と回復魔法かけるのは反則!」
審判が怒鳴る。
「回復じゃないわよーだ。
これは、あたしが開発した、回復しない妖精のチアリング!」
「おま、いつの間に、そんなサボり技を……」
偉そうに言い放つラブに、ハーティオンが呆れる。
まあ、ただ歌うだけとも言うのだが。
セルウスの攻撃をコハクが受け止め、その横から美羽が蹴り技で仕掛ける。
セルウスは飛び退いてそれを躱し、再び攻め込んで行った。
「今じゃ!
そこでガーッといって、バーッとかまして、ドカンといてこましたれや!!」
ぐっと拳を握り締め、翔一朗が叫んだ。
アドバイスとしては、あまり役に立っていない。
「おー!」
セルウスは応えながら突っ込むが、うるさい、とドミトリエの反応は冷ややかである。
セルウスの強さに、美羽とコハクは驚いたが、それでも、二人を相手にセルウスはやりにくそうだったし、分が悪そうでもあった。
ドミトリエは迷っている様子だったが、それでも、手出しはして来ない。
ただ、注意深く見守ってはいた。
美羽の蹴りを剣で受け止めたまま、セルウスが大きく飛ばされた。
「今だっ!」
狙った場外に落とすことはできなかったが、コハクと美羽は、同時に風術でセルウスのリングアウトを狙う。
「うわ!」
体勢を崩されていたセルウスは、そのまま吹き飛ばされそうになった。
「何をやってる」
姿勢を低く、その攻撃を凌いだドミトリエが、セルウスを支える。
「まだ、一回戦だぞ」
「うん、ごめん!」
体勢を整えたセルウスは、剣を足元に思い切り突き立て、それに捕まって、その風をやり過ごした。
そして風術の効果が薄れると同時に、剣をその場に残したまま、一気に攻め返す。
美羽達は、魔法を放った後の、隙をつかれた。
ドミトリエが剣を抜き、セルウスに向かって投げる。
受け取りざま、セルウスは思い切り薙ぎ払った。
「わわっ!」
横薙ぎの剣に飛ばされ、今度は美羽が場外に転がる。
「美羽!」
美羽は飛べるはずだが、それより先に落ちてしまう。
コハクが美羽の手を掴まえようとしたが、セルウスはそれを阻んでコハクに斬りかかった。
「リングアウト! 勝者、セルウス!」
審判のトオルが手を上げる。
「あーっ、もう! 負けちゃった!」
がばっ、と場外で美羽は立ち上がり、はー、とセルウスは息を吐いた。
「美羽達、強いね! 負けるかと思った」
「セルウスもだよ。
もー、私達がクトニウス取り戻してあげたかったのに!」
美羽はそう言って苦笑する。コハクも笑った。
「頑張って、優勝してね」
「うん」
セルウスは大きく頷いた。
「一回戦突破、おめでとう! 次も頑張れや!」
舞台を降りたセルウス達を迎えて、翔一朗やハーティオンらが背中や頭をばしばし叩く。
「次の出番は午後じゃない。お昼まで会場でも見て回ろうか?」
「うん、行こう!」
他の試合には興味の無いラブの提案に、セルウスは目を輝かせて頷く。
舞台以外の大会会場が、実はとても気になっていたのだ。行ってみたくてうずうずしていた。
「あまりあちこち出歩かない方がいいとは思うが……まあ少しくらいいいか」
ハーティオン達は顔を見合わせ、肩を竦めた。
笹奈紅鵡は、売店のバイトでドリンクを売っていた。
隅の方にはキリアナグッズも少し置いて、天気も良く、売れ行きはどちらも好調だ。
ここなら、稼ぎながら特等席で試合が見られて一石二鳥、と思ったのだが、実際は、舞台を囲む観客席の、更に後ろに売店があるので、あまりよく見えない。
それでも、セルウスの試合の時には、注意して舞台の方を見た。
一回戦の試合の後、ドミトリエとセルウスが、翔一朗達と売店を眺めて回って再会した。
「あっ、あんぱんの!」
紅鵡に気付いたセルウスが指差し、ドミトリエが馬鹿、と言っている。
「一回戦突破おめでとう。
次も頑張ってね。これ、奢り」
「ありがとう!」
セルウス達に、ドリンクを渡す。
激励に対する礼なのか、ドリンクに対する礼なのか、判断がつきかねるところだが、別にどちらでも構わなかった。
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