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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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 ツァンダ上空では、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)と、パートナーの剣の花嫁、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)、花妖精のリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が空からの警戒に当たっていた。

 宵一は、レッサーフォトンドラゴンに乗って、ツァンダ上空を旋回する。
 宵一とヨルディアは、外からの敵の警戒を、リィムは上空から会場を見て、内部からの敵の警戒をした。

「……何だ、あれは?」
 それは、午後、三回戦が始まってすぐの頃だった。
 何かが飛来してくる。
 漆黒の、鳥のような何か。
「大きいですわ」
 ヨルディアが、正体を見極めようと目を凝らす。
 会場を見ていたリィムが、双眼鏡を向けた。
「カラスでふ! 大きいでふ! ゾンビでふ!」
「アンデッドカラス!?」
 三人は、一直線に向かって来るアンデッドカラスに向かう。
「人は乗っていない……撃墜する!」
 怪しすぎる、と判断した宵一は、それを倒すことに決めた。
「解りましたわ!」
 ヨルディアも応じる。
「攻撃を地上に落とすなよ」
「解っておりますわ」
 リィムは、後方からの援護の為に下がった。
「当たり給え、神威の矢」
 ヨルディアは、呟きながら、アンデッドのカラスに弓を射る。
 矢はカラスの体を貫き、ヨルディアは、すかさずそれを避雷針として天のいかづちを撃った。
「……!?
 手応えが無いですわ。当たっているのに!」
「それなら、これでどうだっ!」
 龍殺しの槍を手に、宵一がアンデッドカラスに向かう。
「ダブルインペイル!」
 攻撃を受けて、アンデッドカラスの動きが止まる。
 しかし、宵一ははっとした。
「しまった、会場に落下する」
 アンデッドカラスは、レッサーフォトンドラゴンとほぼ同じ大きさだ。
 受け止めきれない。
「落下、というか……?」
 はっ、とヨルディアが後を追おうとした。間に合わない。
「降下でふ!」
 アンデッドカラスは死んでいない。大会会場に、一気に降下して行く。
「下に連絡を!」


「ん?」
 屋上から、会場の様子を監視していた国頭武尊が、ふと上を見た。
 その視界の上から下へ、一気に何かが降下する。
「何だっ!?」
 その黒い物体は、会場内に飛び込み、そして消えた。
「……溶けた?」
 会場内に変化はなく、騒ぎも起きない。
 一瞬、何か幻でも見たのかと思ったほどだ。
 しかし俄かに、会場の一部に動きがあり、武尊は双眼鏡を手に取った。
「騒ぎか?」
 猫井又吉が訊ねた。
「ああ、だが……俺達が出るまでもねえな」
 双眼鏡を覗いて、ちっ、と武尊は舌打ちする。
「このままだと、大会は何事もなく済みそうだ。
 あとは、終わった後だな」


 ルカルカ・ルーは、本部からの通信を受け取って上空を見上げた。
「空から襲撃!?」
 見れば、会場上空から、漆黒の物体が落下してくる。
「避難を」
とルカルカが言いかけた時、その物体が、ふわりと消滅した。
 ように見えた。
「消えた?」
 ダリルが親衛隊員に連絡し、落下場所に向かわせる。
「殺気は感じなかった……」
 ルカルカが呟いた。
「襲撃者ではないのか?」
 涼司の側を固めながら、二人は親衛隊からの連絡を待つ。


 最も近くにいたのは、会場を見回っていた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だった。
 キリアナ派の自分達が動くのは、大会の後。
 それまでは、不審者を警戒し、会場の警備に当たっていたのだ。
 パートナーのハーフフェアリー、アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)も同行している。
 傍目から見ると、迷子の二人組のようだった。
「アルミナは、ゆっくり大会を見物していてよいのじゃぞ」
「ううん、せっちゃんと一緒がいいんだもん」
 刹那の言葉に、アルミナは首を横に振る。
「せっちゃんこそ、大会に出場しなくていいの?」
「キリアナと戦うことには興味あるがの。
 大会には興味が無いし、目立つ。
 それに、今はセルウスを捕らえるという依頼を請けている最中じゃ」
「ふうん」
 そう言ってから、アルミナははっと上を見た。
 何かが落ちてくる。
 怖い。ぎゅっ、と刹那の服を握り締める。
「なにか、来るよ?」
 刹那もそれを確認すると、すぐさま走り出した。

 そこに居たのは、漆黒の物体ではなく、ローブをまとった不気味な者だった。
 深く被ったフードの中は漆黒に隠れ、顔は見えない。
 一種異様な雰囲気が漂っていたが、祭のようなざわめきの中で、埋没している様子でもある。
 だが、気をつけて見れば、すぐに異質と解った。
 ゆら、ゆら、と、ローブの者は佇んだまま、周囲を見渡す。
「おぬし、誰じゃ」
 刹那は、服の裾の中に隠し持っている、暗器代わりの携帯用の刀に密かに手を忍ばせつつ、誰何した。
「名、……?」
 ローブの者は、刹那を見下ろし、首を傾げる。
 声は低く、男のようだった。
 その身長は、小柄な二人の、倍ほどもある。
 アルミナは、震えながら刹那の背後に隠れた。
「名は、無い。
 ……ナッシング、とでも、呼べ」
 刹那は眉を寄せ、男を睨んだ。
「何者じゃ、と訊いておる。目的は何じゃ」
 目的、と、ナッシングは呟いた。
「目は、何処だ」
「目?」
 ぽかん、と、アルミナは訊き返す。
 問答は無駄だ、と刹那は感じた。
「……近くに居る。探す」
 ナッシングは、ゆらり、と動いて、何処かへ向かおうとする。
 その手には、いつの間にか、刃を下に引きずり、首狩り鎌を持っていた。
「行かせぬ!」
 動きを封じた後、運営に連絡して連行させた方がいい。
 そう判断した刹那は、アルティマ・トゥーレを仕掛けた刀を投げ放つ。
 その刀はまともにナッシングを貫き、ナッシングは倒れた、ように見えた。
「……えっ?」
 アルミナが、目を丸くする。
 倒れた時には既に、そこにあったのは、ボロボロの布、だけだった。
「いなくなってる……」
 呆然とする二人の下に、ルカルカの親衛隊員が走って来た。



 蒼空学園の保健室が、大会の医療本部である。
 簡易テントは舞台の近くにあるが、大きな負傷をした者は、保健室の方に運ばれるのだ。
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は、簡易テントの方で治療スタッフを担当していた。
 パートナーの英霊、長尾 顕景(ながお・あきかげ)が、医療スタッフながら、すぐに飽きて選手の案内の助っ人に行ったりしてしまうので、校舎の方に引っ込んでいられないのだ。
 ちなみに、もう一人のパートナー、ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)は試合の実況を担当している。
 会場には音声は流れないが、控え室や本部のモニターでは、彼の実況を聞くことができた。

「またあの龍騎士、保健室のベッドで休んでいる」
 呆れた様子で戻ってきた顕景に、ルファンは呆れる。
「そなた、また本部の方に寄り道しておったのか?」
 二回戦終了の時から、キリアナが保健室を休憩場所として利用しているのだ。
 負傷をしているのではなく、控え室よりも快適にゆっくり休める、というのが理由らしい。
「ベッドは余っておるので構わんがの」
 契約者達は何とも丈夫で、ベッドが必要なほどの重傷者は殆ど出ない。
「適当だな」
「治療も適当な者がおるのじゃ、構わんじゃろう」
「私は適当なのではない。遠慮をしないだけだ」
 顕景は、不遜な様子でそう言い放った。
 傷を見れば消毒液をぶっかけて、絆創膏をぱしんと貼っておしまい、では、確かに遠慮が無い。
「戦いに身を投じた者相手に、治療ひとつで気を使う必要などあるまい」
「それは構わんがの。
 ベッドは余っていても、負傷者は続々来るのじゃ、手を貸してくれると助かるのじゃが」
「ふむ。遠慮がなくてもよいならばな」
 顕景は、艶然と笑って消毒瓶を手に取った。