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リアクション
『あ――――っと!
黒六道三の一撃が、ステージを叩き割ったァ――!
そのまま、毒島大佐を割れ目に落とし込む!
審判の手が上がった! リングアウト! リングアウトぉ!』
一回戦第13試合は、東 朱鷺(あずま・とき)と、ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)の対戦である。
「こういった腕試しも悪くないのう」
乗り気の魔道書、シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)に対して、正直、あまり出たくなかった、というのがラムズの心情だった。
「大体私に、山葉校長や天才剣士に挑めるほどの力があるわけが無いじゃないですか」
喋る髑髏にも興味は沸かないし、毎日、それまでの記憶を失いながら生きている自分には、経験というものも全く無い。
「ん? 何じゃラムズ、臆したか」
「臆してますよ。あなたは楽しそうですね」
「ぶつぶつと往生際の悪いことよな。ならば何故参加した?」
「無理やり」
だけではない。
確かに、出ようと思ったのだ。
勝てるとは思っていない。思っていないけれど、心は今日一日しか生きていない自分でも、この体には、何らかの記憶が残っているのかもしれない。
そう、思ったら。
(ええ、そうですとも。
ねえ、ラムズ・シュリュズベリィ?)
昨日までの自分に、呼びかける。
(貴方が昨日まで生きてきたその糧を、今日の私に少しだけお貸し願えませんか?)
そうすればきっと、明日の自分が今日を忘れても、今日の自分は、明日の自分に、何かを貸してあげられる。
そう、思う。
「ふっふ。
心配せずとも、前は我が行く。後は主が何とかせよ。
何、主が死んだら、黙祷くらいは捧げてやるさね、くくっ……」
「それは有難いですが、あなたは死なないで下さいね」
「ほう? 何故じゃ」
「何故って」
ラムズは苦笑する。
「あなたは、私も知らない、私が生きていた証でしょう」
「……」
二人が対戦する相手、朱鷺は一人での参加だった。
「最近、式神やペットにばかり戦わせていましたからね。
たまには自身で戦ってみましょうか」
そんな理由で参戦したのだが、実のところ、まともな戦いをするつもりなど毛頭ない。
いや、これが、朱鷺のまともな戦い方なのだ。
試合開始と同時に、『手記』は虚無霊、ボロスゲイブを召還した。
一時的に三対一となることで、数的有利を計ろうとしたのだ。
しかし、朱鷺は数的不利など最初からものともしない。
試合開始と同時に、朱鷺は呪詛を唱えた。
距離を縮める気など始めからなく、喰らい付く巨大な口を躱せば、数秒後に虚無霊は消える。
だが、ラムズの弓引くものの攻撃で、朱鷺の動きが止まった。
ぴく、と朱鷺は眉を寄せる。
そこを狙って『手記』が錆びた両剣を振るい、斬りかかった。
寸前で振り切った朱鷺の服が裂かれ、肩口に傷を負う。
朱鷺は、それでも冷静だった。ただひたすらに、呪詛。呪詛呪詛。
相手がかかるまで、同じ攻撃をし続ける。
「く……」
体に違和感を感じて、『手記』は顔をしかめる。
かかってしまったか。そう思った時、
「……う」
ごと、とラムズが両膝を付いた。
朱鷺の、最初の呪詛にかかっていたのだ。
「ラムズ!」
それを見た朱鷺が、次の攻撃に移る。
数多の紙が集まった裂神吹雪を六芒星の形状にした時、審判が手を上げた。
「戦闘不能と判断する。勝者、東朱鷺」
「くっ……」
『手記』は苦々しく奥歯を噛む。
す、と歩み寄った朱鷺が、二人に呪詛返しを施した。
体の自由が利くようになると、『手記』はラムズに歩み寄る。
「……ふう。駄目でしたね……」
「何を言うか。結果ではなかろうが」
「……そうでしょうか」
「案ずるな。我が憶えていてやるわ。明日の主が忘れても」
『手記』の言葉に、ふ、とラムズは微笑んだ。
「俺達と分かれた後、そんなことになってたとはな」
ドワーフの坑道でセルウス達と分かれた後、合流した桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と英霊の織田 信長(おだ・のぶなが)は驚いていた。
「武闘大会には、元々腕試しとして参加するつもりでいたんだけど、目的があった方がやる気が出ていいかもな」
「馬鹿者」
信長が軽くしかりつける。
「えっ、何で?」
「腕試しとは、自分より強い相手とするものじゃ。
今回は、弱い相手だとしても容赦せぬ。
むしろ、勝ち進む為なら相手の弱いところを見つけ出して攻めるのじゃ」
「それも含めて、腕試しじゃねーの?」
「口答えなど覚えおって。
まあよい、やるからには優勝を目指すぞ!」
「張り切ってるなあ」
信長は負けず嫌いだからな、と、忍は笑う。
二人の相手は、志方 綾乃(しかた・あやの)と、パートナーのヴァルキリー、リオ・レギンレイヴ(りお・れぎんれいぶ)だった。
リオが、初手でブリザードを放つ。
忍と信長はそれを受けつつも耐え抜き、素早さを強化して、両側から綾乃に攻め込んだ。
「甘いですね!」
綾乃は余裕で受け返す。
リングアウトを避ける為に、常に舞台の中央に位置しつつ、二人の攻撃を捌いた。
槍先を返されて、信長は飛び退き、距離を置く。綾乃は深追いしなかった。
「……?」
信長は綾乃とリオを交互に見る。
綾乃は強い。彼女と正面から戦うのは不利だ。
だが、綾乃は防御に徹しているようだった。向こうから攻めて来ることはしない。
ならば狙いはリオだろう。彼女相手ならば、忍と二人で対峙すれば確実に取れる、と判断する。
綾乃の攻撃を凌げさえすれば。
「忍!」
信長の合図に忍は頷いた。二人は同時に駆け出す。
「一気に行け! 飛び込んでしまえば、範囲魔法は使えぬ!」
「おうっ」
この際、多少のダメージは構わない。
信長は綾乃に攻め込み、忍はリオに攻め込む。
「サンダーバードちゃん、いらっしゃーい!」
リオに召還されたサンダーバードが、忍に雷撃を放つ。
「くっ……!」
死ななければ、すぐに信長が治してくれる! 忍は突っ込む勢いを止めなかった。
一方、ヒット&アウェイ――と見せかけて、信長はリオのいる方向へ跳ぶ。
リオの顔色が変わった。
「ちょ、ちょっとっ……!?」
「リオ!」
綾乃が信長を追う。しかし間に合わなかった。
審判の手が上がり、忍と信長の勝利を宣言する。
「やった! まずは一勝!!」
ガッツポーズを決めた後、忍はへろりと座り込んだ。
「忍っ?」
「い、痛かった……」
「辛勝、というところじゃのう。これでは次を越せぬぞ」
「次?」
信長の回復を受けながら、忍は訊き返す。
信長の視線の先、次の試合の対戦相手が控えている。この勝者が、次の相手だ。
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