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リアクション
『さて、注目の一戦は、エリュシオン人の少年、セルウス、ドミトリエ組と、蒼空学園のアイドル、美羽、コハク組!
彼女の多彩な蹴り技に、あのマイクロミニの中がカメラに写るのか写らないのか、カメラさんの技術が期待される所です!』
第二控え室のモニターで、試合の様子を見つめているローブの男がいた。
それまでぼんやり佇むだけだったのだが、その試合が始まると、不意にモニターに向かう。
「あれが、夢で見たセルウス君ですか。
さて、お手並み拝見ですね」
彼の近くで、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が、同じようにモニター観戦をしている。
「見た顔がいると思ったが、やっぱりお前か」
掛けられた声に、男は振り向いた。そこに、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が立っている。
「何処へ行けばいいとか言ってた奴が、こんな所に流れ付いていたとはな。
何だてめえ、大会参加者か?」
「違う」
男はゆらりと体を向けた。
少し離れたところに、全身黒ずくめの男がいる。
「我は、秘密結社オ、リュンポス、死霊騎士団、団長ナッシ、ング。
総統クロノ、スの大会参、加に、付き添いで、来ている」
「チンケな徒党に加わったもんだな……。
で、そこで興味深いものを発見、てとこか?
それともそれも、斥候、哨戒とやらの一端か?
フン、こんな武闘大会なんぞ糞みたいなもんだが」
竜造は、大会参加には全く興味はない。
殺し合わない見世物の戦いなど、彼にとって露程の価値もないからだ。
だが、何か騒動が起きそうな気配を、竜造は感じた。
自分から面倒ごとを起こす気はないが、起きるものなら大歓迎だ。
このまま一緒に観戦していて、何かが起きるなら、そこで彼に再戦を吹っかけてもいい。
うまく行けば、キリアナと戦うこともできそうだと思った。
竜造は、そのままナッシングの側にいることに決めた。
ナッシングには現在、特に此処にいる理由はないらしい。
密かに彼を観察していたメンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)は、そう判断した。
ただ、セルウスを特別気にかけているのは確かのようだ。
しかしセルウスの味方ではないようだし、キリアナの味方でもないようだった。
(接触してみたいが……)
人目のつかないところに誘い出したかったが、ナッシングは、殆ど不動で、ただじっとモニターを観ている。
「おまえに、訊きたいことがある」
メンテナンスはナッシングの傍らに歩み寄り、なるべく他の者には聞こえないよう、小声で声をかけた。
「目的は何だ?
セルウスを助けることか、それとも捕らえることか」
「違う」
男は答えた。
「見て、いる」
「?」
「目的は、見ること。
斥候、哨戒、そんなとこ、ろか」
「何を? セルウスをか」
「違う。そうかもし、れない」
男は答え、言い直した。
「じゃあ、何を?」
「運命を」
また、そのメンテナンスの動向を警戒していたのは、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)のパートナー、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)だ。
騒ぎを起こさないよう、密かに仲間達に注意を促しつつ、自らも注意していたのだが、メンテナンス自身、今回は騒ぎを起こさず、傍観に徹しているようだった。
「クハハハ!
余の名は秘密結社オリュンポスの大首領、魔王クロノス!!」
第二控え室の一角では、ドクター・ハデス(どくたー・はです)、もとい、その正体は謎に包まれた魔王クロノスが高らかな笑い声を上げていた。
「そんな大声で名乗ってしまっている時点で秘密結社ではないですけどね」
などと、今更十六凪は突っ込んだりしない。
その辺が、漫才結社と呼ばれる所以なわけだが。魔王クロノスは、フルフェイス兜の全身鎧に黒マント、という完璧な暗黒騎士である魔鎧アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)を身にまとい、剣の花嫁、聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)を伴っての参加である。
「武闘大会か。面白い。
この余自らが出場し、オリュンポスの実力を余に知らしめてやろう!」
「あの人が、第一試合の相手ですね……」
微妙に遠い目をしながら、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)がその様子を見ている。
パートナーのゆる族、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は、ぐっと拳を握った。
「あれに対抗するには、ご主人にもインパクトが必要だぜ!」
「え? ……インパクト?」
「大体、キリアナが美少女天才剣士とかで盛り上がってんだ。
まずそこから対抗すべきだよな!」
「あ、あの、ベア?」
「一回戦第11試合、ソア・ウェンボリス対魔王クロノス!」
審判の声と共に、それぞれ選手が舞台に上がる。
黒マントの暗黒騎士と、変身を終えた魔法少女。
その対比に観客席からどよめきが上がった。
「秘密結社オリュンポス首領、魔王クロノス、推参!!」
「魔法少女、ストレイ☆ソア、ただいま参上です!」
「こりゃまた、イロモノ対決だなあ」
「審判は私語厳禁!」
「おっと」
トオルは、苦笑して口を押さえる。
「いえ、これはですね、
ベアがこの姿の方がイベント的に盛り上がるだろうって言ったからで……」
名前を呼ばれると同時に変身し、魔法少女コスチュームに身を固めたソアは、ごにょごにょ、と言葉を濁す。
「うん、可愛くていいんじゃねーか?」
トオルが再びぽろっと私語を漏らす。
「審判!」
「へいへい。
それじゃ、二人とも頑張れよ。始め!」
「よろしくお願いしますっ」
ソアはぺこりと礼をした。
ソア達の戦法は、ベアが前衛に出ながら、ソアが魔法で攻撃を仕掛けるものだ。
対して、魔王クロノス達は、カリバーンが前衛に出、魔王クロノスは魔鎧で防御機能を上げ、防戦に徹しながら、神獣鏡で魔法を弾きつつ、後方からのライフルの射撃攻撃だった。
魔法は完全に防げるものではなかったが、ダメージを受けた分は、メジャーヒールで一気に治す。
ベアとカリバーンが組み合う。
カリバーンは神速で死角を取ったが、ベアは力ずくでそれを返した。
カリバーンを投げ飛ばし、ベアは魔王クロノスに向かう。
「魔法が効かねえんなら、これでどうだっ!」
ベアが魔糸を仕掛けた。
しかし、魔王クロノスはその動きを読んでいる。
既に下がって、ライフルを撃った。
「ぐうっ!」
「ベア!」
箒に乗ったソアは、空からサンダーブラストを撃つ。
弾かれても構わなかった。
「我が元に戻れ、カリバーン!
今こそ、余の真の力を見せる時!」
クハハハ! と魔王は笑う。
一人倒せば勝ちだ。今がチャンス、と魔王は読んだ。
「よかろう。
今こそ、俺の真の力を見せる時だ!
魔王クロノスよ、この俺の力を使うがいい!」
魔王クロノスは、ニルヴァーナライフルを手放し、剣の花嫁、カリバーンの光条兵器を装備する。
「くらえ、必殺! ライトニング・ブレイク!」
「馬鹿野郎、演出で勝てるか――ッ!!!」
ベアは、剣を構える魔王クロノスの懐に、神速で飛び込んだ。
殴り飛ばした魔王クロノスを、更にソアが風術で飛ばす。
転がった魔王クロノスは、舞台から落ちた。
「リングアウト! 勝者、ソア・ウェンボリス!」
審判が、ぱっと手を上げた。
「くっ……! 余が負けるとはっ……」
魔王クロノスは、無念そうに起き上がる。
「いや、すごかったけどな。俺の中で今日一番の一戦だったぜ」
トオルはほれぼれと頷いた。
◇ ◇ ◇
「あっ、いたいた」
試合を終えて控え室に戻って来るセルウスとドミトリエの姿を見つけて、物部
九十九が声をかけた。
「あのねー、ボク達これから試合なんだ。
その間、ちょっとこのコ預かっててくれない?」
はいっ、と
いーとみーを渡されたドミトリエの顔には、何で俺が、と書いてある。
「よろしくね〜☆」
九十九は構わず、走って行く。
「い〜とみ〜」
いーとみーが、何事かを訴えた。勿論、解らない。
「い〜とみ〜、い〜とみ〜」
「何て言ってんの?」
いーとみーを手に取り、セルウスが訊ねる。
「食べて」
返答に、セルウスは、くわっと口を開けた。
「よせ、腹を壊すぞ」
ドミトリエは、呆れていーとみーを取り上げる。
「こんな物体を、よく食べる気になれるな」
「美味しいかも……」
「いや、不味いから」
名残惜しそうなセルウスに、ドミトリエ以下、翔一朗達が一斉に突っ込んだ。
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