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リアクション
『第6試合は、一回戦にして一体誰のくじ運か! 今大会の最強カードと言っても過言ではない一戦!
ラルク・アントゥールスバーサス氷室カイ!
最強の豪腕対最強の剛剣は、どちらが勝利するのか! 刮・目!!』
「ブルーズが、試合に出るの? しかも一人で? 無茶じゃないの、それ」
鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、話を聞いて驚いた。
ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、全くだ、とむっつりとしている。
パートナーの黒崎 天音(くろさき・あまね)に、勝手に申し込まれてしまったのだ。
「面白そうかと思って」
激励に来た天音は、けろりとした様子で言った後で、
「控え室は分かれたんだね」
と声を潜めた。
Cブロックのブルーズは、セルウス達とは控え室が分かれた。
ブルーズは頷いたが、別に気になることができていて、天音達が来るまでは、そちらに注意を向けていた。
「あの、黒いローブの男。妙に気になる」
「確かに、奇妙な雰囲気を持っているね」
天音も頷く。
「ちょっと話しかけてこようかな」
「話って何を?」
「世間話でも」
「無茶は尋人も変わりませんよ」
一方で、尋人のパートナー、吸血鬼の西条 霧神(さいじょう・きりがみ)が、深々と溜め息を伴いながらそう零していた。
大会の話を聞いた時は、
「紅茶でも飲みながら観戦させてもらいましょうかねえ。頑張ってくださいね」
と優雅にエールを送りつつ、観客席の一角のテーブルに薔薇のティーセットを持ち込み、お茶を振舞う気満々だったのに、尋人の返答は
「霧神も出るに決まってるだろ」
だった。
「私そういうキャラじゃないんですけど」
悲鳴を上げた霧神に、尋人はにっこり笑った。
「協力してよ。
『痛みを知らぬ我が躯』って技も覚えたんだし、試してみる絶好の機会じゃない?」
「……尋人が黒い」
どこの友人の影響ですかとぶつぶつ言いつつも、諦める。
たまには自分にも試練が必要でしょうか、と言い聞かせつつ、尋人の頼みごとは珍しいと思うと、断りきれなかった。
「君も出場するんだね。
優勝したら、ご褒美あげるよ」
ぴくっ、と、尋人への天音の応援の言葉に、ブルーズが反応した。
今は所属校が違っているが、憧れの先輩である天音の激励に、尋人は一瞬顔を輝かせる。
が、すぐにそれを引き締めた。
今迄なら勿論、それで気合入りまくりで飛び出して行ったに違いない。だが、今回は違った。
「返って動きが固くなっちゃうから……。今回はいいや」
本当は欲しい、と思うが、そんな風にお尻を叩かれないとダメみたいな、そんな自分では、そもそも優勝などできはしないだろう。
だから、強がってでも、断った。
やがて天音を護れるほどに強くなり、騎士として成長し、彼に認められたいと、そう思うから。
尋人の意外な返答に、天音も微妙な表情になる。
そこへ、キリアナ達が控え室に入って来て、中にいた者達の注意が向いた。
「僕達も行ってみようか」
「警戒されるぞ」
「大丈夫。坑道で遭遇した時は、ちゃんと隠れていたから」
「……ちゃっかりしてる」
天音とブルーズの会話に、尋人は苦笑した。
「騎士は第三龍騎士団、龍は第一龍騎士団、て言われてるんだっけ?」
話を振られて、キリアナは苦笑した。
「シャンバラでは、そないな風に言われとるん? 尾ひれ、というやつやろか」
そんなことはないよ、と天音は微笑む。
「ナラカ探索の時にはお世話になったけれど、ダイヤモンドの騎士と同じ、首都防衛の要の騎士団に所属していると、中々外に出る機会もなさそうだよね」
そうやね、とキリアナは頷いた。
「あなた、あの人に会うたん?
無愛想なお人やったけど、何や、最近変わってきましたなあ。
こないだ一度見たけど、ええ方にも悪い方にも変わっとるようやった。
……あの人も今は、第三を離れて行動してはりますけど」
ところで、と、天音はキリアナの腰を見た。
そこにはクトニウスが括りつけられているのだが、今は口をぐるぐるに布で巻かれている。
「……一体どうしたの」
「この子、始終ぶちぶちうるさいんですもん。
大会の間だけでも、ちょい黙っててもらお思うて」
何かを言いたげに、クトニウスの頭が揺れた。
天音は、クトニウスをじっと見つめる。
「彼に訊いてもいいかな?
偉いスパルトイって龍騎士の師だと聞いてるんだけど……普通のスパルトイには、人権とか無いの?」
「けったいなこと考えはりますね」
キリアナは肩を竦めて、クトニウスの布を解く。
クトニウスはむすっとキリアナを睨んだ後で、天音に答えた。
「生まれは等しくトモ、資質は違う。
しかし、使命は皆同じジャ」
そしてこの機会を逃すかと、キリアナに言い放つ。
「お前は、そんなワシへの扱いが軽すぎル!!」
「頭しかないんですもん、軽いのは仕方ないどす」
キリアナは、冗談で返してぺしぺしと頭を叩く。
「ペシペシするナ!!」
「使命?」
天音は訊ねる。
「そうジャ。
我等は皆、龍神族への敬意を持って、生きる価値とスル。
それは誰しも、変わらないのジャ」
「へえ」
「そやし、強き者の手に渡ることに意味がある、そう思います」
キリアナが言った。
「賞品としたのは、その為?」
「セルウスを釣る意味も、勿論おましたけど。
別に軽んじてるわけやおまへんよ。
シャンバラのお人は、あまり興味ないようですけど」
キリアナは肩を竦める。
「ありがとう。参考になったよ」
「ところで」
キリアナは苦笑した。
「これ、何どす?」
「バレたか」
会話中にこっそりと、天音はクトニウスを括り付ける紐に、日本の観光地で地味によく見かける土産物キーホルダーをぶら下げたのだった。
ペナント、木刀、提灯に続く、何で買っちゃったのか後で冷静に考えるとよく解らない地味に定番お土産ナンバー4(※黒崎天音調べ)、銀色の骸骨キーホルダーで、目にはめられた赤いガラスが後頭部のボタンで光る。
「一戦仕掛けるのかと思うほどの動きで、何をするのかと思って見てたら……」
「ほんの御守りのようなものだけど」
「ふうん……」
胡散臭そうに、キリアナはそれを見たが、外そうとはしなかった。
相手に対して真正面から、スキルも使わず剣の腕のみで勝負する戦い方で、尋人は一回戦を突破したが、二回戦で負けた。
これに勝てば、次の相手はキリアナだったのだが、負けたものは仕方がない。
まだ、龍騎士と相手できるほどには、強くなっていないということなのだろう。
控え室に戻ろうとする尋人は、次の試合に出るキリアナと出くわす。
「残念でしたね」
キリアナは、尋人に笑いかけた。
「でも、あなたの戦い方は、うちは好きやわ。頑張って」
「……ありがとう」
礼を言って、控え室に戻ると、そこでは天音が待っている。
「お疲れ様」
そう言って天音は、キスをした絆創膏を、尋人の頬の傷にぺたりと貼り付けた。
ちなみにブルーズは、そこそこの強さを持っていたのだが、やはり一人で二人を相手取るには分が悪く、一回戦敗退という結果に終わった。
キリアナと話をしてみたい、と、パートナーの真田 幸村(さなだ・ゆきむら)が言うので、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は、渋々それに付き合った。
「……何なんだ、幸村の奴、随分あの女騎士に興味があるみたいだが……。
あの髪の色がそそられるのかっ? いや、ツインテールフェチかっ!?
……お、俺も思い切ってイメチェンしてみるか…………?」
ぶつぶつと呟く氷藍の思いなど露知らず、幸村は、
「キリアナ殿、龍を従える手練れの騎士か。
そのような者の集うエリュシオンという国、興味が尽きぬな。
学び舎があれば、一度視察に向かってみたいものだが」
と、目を輝かせて語っている。
控え室は、基本的に関係者以外立入禁止だったが、結局部外者も多く入り込んでいる。
ミア・マハなどのスタッフは、控え室に騒ぎを起こす輩が入り込まないようにと警戒しているのだが、キリアナ自身は気にしないようで、来客と聞くと、どうぞと迎えた。
「お初にお目にかかる、龍騎士殿。俺は真田幸村」
「よろしく。キリアナどす」
「俺も龍というか、レッサーワイバーンを連れていて、先達の話を聞きたいと思って来た。
キリアナ殿の龍は今は、会場の何処かに?」
「エニセイなら……」
キリアナはエニセイを呼ぶ。
「ぷちエニセイ、おいで」
子犬くらいの大きさの龍がニ、三匹、ちょろちょろとキリアナの足元に出て来た。
「分裂中か?」
氷藍が訊ねた。
「ええまあ。
えーと、大きいままやと、一般のお客さんに怖がられるかな、と思うて」
「他の分裂龍は?」
「今、あちこちを走り回ってます」
「放し飼いは危険じゃないか? 警備の連中に排除されるぜ」
「ええ、他の皆さんにも言われたので、ほら」
キリアナは抱き上げて見せる。
「首輪つけてあるから、大丈夫やないやろか」
「面白い特性を持っているな」
幸村は、しげしげとエニセイを見つめた。
「龍の飼育方法には、何かコツのようなものはあるのか? 俺の鬼灯の参考にさせて貰いたいが」
「それは、龍によって違うと思いますえ。
その特性を知ることと、同じなのは、愛情を持って接するということくらいやないやろか。
人任せにしないで、できることは自分でやる、とかやね」
キリアナはそう答える。
キリアナは、エニセイを大事にしている。
それは、会話の中からも伝わってきていた。幸村は頷く。
「憶えておく」
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