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リアクション
――オオオオオオ……ッ!
と、突然霊廟から不気味な咆哮が上がった。
それを聞いた契約者たちは、それぞれの動きを止めて霊廟へと視線を向ける。
「どうやら、事態は一刻を争う状況のようだな」
口調の変わったアリス・ハーディングがそういった。
「そのようだ」
レンはそう答えると踵を返し、皆に声をかけ始める。
――何かが起ころうとしている。
そんな危機感を持った契約者たちはレンの呼びかけに集まり、話し合う。
その中で、遺体や遺品、霊廟などをサイコメトリして情報を得たルシェイメアや菜織、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)と、人の心、草の心で植物から情報を得たリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)の話から、エンヘドゥたちは教授によって霊廟の中へと連れ去られたことがわかった。
そして契約者たちは、生きている可能性の高いエンヘドゥを救うため、霊廟の中に突入することを決めた。
「俺はここに残って、この場所を確保しておく」
と、皆の前に出てそういったのは佐野和輝だ。
彼は斥候や飛装兵を使い、周囲の情報を得ていた。
和輝はその場にしゃがみこむと、土の上に絵を描きながら皆に説明をはじめる。
「この霊廟は十字架の上に丸いドーム状の聖堂がくっついてるような形をしている。空から見ると”♀”みたいな感じの建物だな」
「この形はビーナスシンボル。いや、エジプト文明のヒエログリフで生命を表す”アンク”とも考えられるか……」
魔法使いの家系に生まれた故に、古代文明などについても博識な知識を持っている涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が、和輝の描いた絵を見てつぶやく。
そんな涼介のつぶやきを聞いていたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)がいった。
「生命ですか……死んだ者が眠る場所にそんな意味を持たせるとは不思議ですね」
「――いや、不思議なことではないじゃろう」
と、ラムズのパートナーであるシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が、主の言葉を否定する。
「千年王の霊廟を作った者たちは、いつか必ず王が目を覚ますと信じていたという話じゃたろう……つまり、生き返ると思っておったということじゃ」
『手記』の話を聞いた涼介は手を打った。
「そうか、アンクのヒエログリフには”命を吹き込む”という意味もある。しかもアンクは魔力のようなものを表現していると言われている」
「おい、待てよ。それはつまり、この霊廟は遺体を安置するためだけの場所じゃなくて、復活させる場所でもあるってことか?」
と、下から涼介たちを見上げていた和輝がそういった。
涼介は、神妙な面持ちでうなずく。
「死者の復活か――ふっ、とても興味深い話だ」
遺体を調べていたリモン・ミュラーが、作業の手をとめてそういった。
契約者たちはその言葉に何か不気味なものを感じ、押し黙る。
「なんだか、だいぶ話がそれたな。元に戻そう」
と、和輝が沈黙を破った。
そして、地面に描いた絵を指差す。
「いいか、みんな。俺が従者たちに調べさせた結果、外から見た感じだと、霊廟の出入り口になりそうな場所はここしかないみたいなんだ」
和輝は地面に描いた”♀”の十字部分の下。そこをトントンと指し示した。
「つまり、あそこに見える正面の入り口だけってことだ。そう考えると、俺は誰かがここに残って出口を確保しといた方がいいと思うんだ。だから、言いだしっぺの俺はここに残らせてもらう――エンヘドゥを救っても、帰れなかったら意味がないしな」
「そういうことなら、私も残ろう」
と、綺雲菜織が皆の中から声をあげる。
「エンヘドゥ君の救出を優先するとしても確かに退路は必要だ。それに相手は既に騙し討ちをした連中でもある以上、私たちがいなくなった隙に飛空艇を襲うやもしれない。警戒はね」
菜織がそういい終わると、和輝は立ち上がって仲間たちへと視線を向けた。
「ま、そういうことだ。俺と……」
「綺雲菜織だ」
「そうか、じゃあ俺と綺雲は、ここに残る。ここはまかせてくれ。その代わり、エンヘドゥのことはまかせたぜ」
その言葉に契約者たちはうなずいて答えた。
そして残る者たちに背中をまかせ、彼らは次々と霊廟の中に向かって駆け出しいく。
そんな中、レン・オズワルドはひとり立ち止まり、ティフォンにテレパシーを送っていた。
≪聞こえるか、学長≫
≪何者だ≫
レンは自分のことを告げ、事のあらましをティフォンに知らせる。
≪……そうか≫
レンから話を聞いたティフォンは重くつぶやいた。
≪学長、これは俺の推測だが……ウォルター教授は千年王を復活させ、利用しようとしているのではないかと思っている≫
≪……≫
≪もしこの推測が現実のものとなった時、俺たちは千年王と戦うことになるだろう≫
≪伝説の英雄と戦おうとは、無謀な話だな≫
≪無謀だろうがやるしかない。英雄の彼の名に、傷がつくようなことはさせられないからな≫
≪……≫
≪学長。俺たちはこれより、エンヘドゥの救出に向かう。だがその前に、彼の友人である貴方にこれだけは言っておきたい――かつての友を取り戻す。それは俺たちの仕事ではなく、友である学長にだけ成せる業だと思っている≫
レンはそういうと、ティフォンの返答を待たずにテレパシーを切った。
そして皆と同じように、霊廟の中へと向かって走り出す。
何かが起こるまで、時間はあまり残されていない。
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