空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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水上闘技大会第三試合(2/2)



 爽麻が巫女装束を裂かれる様の一部始終を見ていた6本腕の大男は―――
「素晴らしい」
 と呟いた。
 受付時には名乗らなかったようだが、あの巨体に6本腕。間違いない、ソウルアベレイターの一人業魔だ。
 素性や狙いに不明な点は多々あれど、まさか半裸に剥かれた爽麻に興味を示すとは……

「喰いついたでござるっ!」
 その様に誰よりも早くに気付いた頤 歪(おとがい・ひずみ)は力の限りに叫び指摘した。
「七篠殿っ、聞いたでござるか? あんな成りをして女子の肌に興味津々でござるよ! スッポン並の喰いつきでござるよぉ!」
「あぁ……」
 雑な相づちで返したのは七篠 類(ななしの・たぐい)、正直パートナーであるのウザさには嫌気が指しているようで―――
「あぁ……………………そうかもな」ぞんざいな態度で一応に応えた。
 しかしそんな事ではウザ男は、めげたりしない!
「やはり男たるもの、体の大きさはアレの大きさに比例するとも言うでござるからな。あれだけの体をしていれば……あぁ! ご心配なされまするな七篠殿! 体が小さければそれだけ性欲は強まるという説もあるでござる。何というか、こう「ぎゅっ」と凝縮されることでより濃くなるのでしょうな。いやぁ〜、体は子供でも性欲は大人っ、一番質が悪いですなぁ、はっはっはっ」
……くだらねぇ事をダラダラと
「ん? 何でござる? 聞こえないでござるよ、七篠殿!」
 ウザいウザいウザいウザい、いつもながらに、いやいつも以上にはウザかった。
「ん? 七篠殿? 聞こえているでありますか? なーなーしーどーのー?」
「うるさいわボケが!」
 どうにも我慢できずにはキレた。
 頭に一発、思い切り拳を振り下ろす。と、一発殴ったら日頃の鬱憤も爆発したようで。
「いっつもいっつも! 名前を呼びすぎだ! このタコ!」
「いや、ちょっ、七篠殿っ……おふっ……」
 ぼっこぼこのぎったぎた。
 大会参加者は数多くに居れど、他でもない、パートナーにボコられてリタイアしたのはただ一人だけだった。


「なるほど、奴もヤル気マンマンなわけじゃな」
 実を言えば業魔のそれは爽麻の肌に一つの傷を付けることなく巫女装束のみを剥いてみせた鑑 鏨(かがみ・たがね)の太刀筋に対しての言葉だったのだが―――
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)もエロ発言だと受け止ったようで、
「まぁ、それが男というものじゃ、何も恥じる事は―――なかろう!」
 巨大な鉄扇を難なくと。語尾を強めるつもりはなかったが、敵が迫ってきては振らぬわけにはいかない。
 美しき鉄扇『花鳥風月』は一振りで5人もの相手をぶっ飛ばしてみせた。
「さぁて、お次は」
 ルール無用万歳!
  怨恨、信念、利害に損益。そうした物に囚われる事なく、単純に他人との戦いを、それもこれだけの人数を相手にできるなんて。
 なんとも楽しそうにエクスは『闇黒死球』で巨大な魔力の塊を空に生み出した。


「何か出たー!!」
 巨大な球体を見上げて麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)が叫んだ。
 球体を作り出したエクスのパートナーである紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の反応が「また派手な事を……」と呟く程度だった事を考えると、いささかオーバーリアクションな気もするが……
「ねぇ、ちょっ、沙耶ちゃん、あれ見て」
「見てますわ」
 言われた瀬田 沙耶(せた・さや)は表情を変える事なく、
「闇黒死球ですね、非常に濃度の高い魔力の塊です」
「えっ?! 沙耶ちゃん知ってるの?!」
「当然です。魔女ですから」
「なるほど……年齢に関係なく魔女は博識って事か。深いね」
「……どうやら、喧嘩を売られたようですわね」
「へ? 何で?」
 年齢に触れた事も、彼女の知識を努力の賜物ではなく種族ゆえのデフォのように言った事も、またそれに気づかぬ事も全てアウト。しかもどこも何も一切にちっとも「深く」はない。
「まぁいいですわ。そんな事より、アレ、見て下さい。業魔も釘付けです」
「ん……んん? まぁ……そうか」
 釘付けと言うのは大げさな気もするが、確かに業魔は魔力球に目を向けていた。ただでさえ巨大で異質な物体は既にゆっくりと動き出していた。
「と、いう訳で由紀也、今がチャンスです」
「へ?」
 気付けば腕を取られ背負われていて―――ぶん投げられた。
「逝ってきなさい!!」
「どういうことだー!!! 沙耶ちゃーーーーん!」
 一直線に業魔の元へ。よそ見をしている内ならば、と思ってもみたが、やはりに気付かれて―――
「あふっ!!」
 ペイっと払われてそのまま湖に落ちた。
「!!!」
 間もなく。力なく飛びゆく由紀也をブラインドに、神条 和麻(しんじょう・かずま)が仕掛けた。
 脚部に生やした紅い翼で一気に跳んで業魔に迫る。
 『緋色ノ翼(強化光翼)』の速度は『小型飛空艇』のおおよそ2倍。そこから『抜刀術』へと繋ぐのが和麻の最速技―――
「ぬぅ……」
 激しい打突音がした。抜刀したのは二刀。それでいて音は一つ。それすなわち―――
 しかしながら目の前に広がっていた光景は―――右の『戒魂刀【迦楼羅】』を【蛇刀・裏】が、左の『柳葉刀』を【蛇刀・表】が受け防いでいる光景だった。
 先の戦いで見せた業魔の刀。【蛇刀・表】と【蛇刀・裏】。なるほど、腰に携えているもう一振を披露するまでもないということか。
 全身全霊、渾身の一撃を防がれた。
 これが今の全力である以上、受け止められたなら潔く負けを認めよう。
「いいぜ。やれよ」
「ふふ。あっぱれ」
 敗北のそれと興喜の笑み。全てを受け入れた和麻は力なく両手を広げたままに業魔の【蛇刀・表】に斬られゆく―――
「ダメですよー!」
 不意に和麻の視界を深紅のスカーフが舞い遮った。
 スカーフはそのまま【蛇刀・表】の腹に突進をかますと、その軌道を僅かに逸らしてみせた。
 スカーフの正体は魔鎧として和麻に装着していたエリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)であった。
「マスターが頑固なのは知ってるです。でも、だからって、そんな簡単に諦めたらダメですよー!」
 たった一撃で、それも直撃をしていないというのにエリスの体はボロボロだった。
「やるなら本気で、目指すは優勝なのですよー!!」
「エリス……」
 こんな小さな子に……いや見た目が小さな子に教えられるなんて。
 異論も反論もない。和麻は今一度、瞳に闘志を宿して業魔に向いた。
「ふん、面白い」
「そんな余裕こいてて良いのか?」
「なに?」


 ここまでの戦いは全て視てきた。
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は『風読みの髪飾り』の効果を十二分に実感しながらにその機を狙っていた。
 【蛇刀・表】と【蛇刀・裏】は業魔本人の意志を汲むことなく動く傾向にある。いわゆるオートメーションというやつだ。先の戦いの際に奴が言っていたように2つの刀はどちらも武器の先端に異常なまでの執着をみせる
 つまり2刀それぞれが己が得物に狙いを定めている今ならば―――
「いきます」
 頭上から迫り、業魔の脳天に『雷術』をお見舞いした。この程度ではダメージにならない事は承知している。狙いはここから。
「ぬっ!」
 気付いたか、しかし遅い。
 頭上から業魔の懐に飛び込むと、着地と同時に自らの霊気の全てを『霊気剣』に込めて放った。
 わずか1m弱の刀身が一瞬で5mにまで伸び過ぎる。その切っ先は弾丸の如くに空を裂き、業魔の腹部へと突き刺さった。
「ぬぅおおおおおおお」
 『霊気剣』の最大出力は10m。思った通り腹部の鎧は貫けないが、ここからは剣の推進力と業魔の脚力との勝負。押し出せるか、踏みとどまるか―――
「ぐ……ぬぉぉおおお」
 【蛇刀・表】も【蛇刀・裏】もそれぞれの得物にご執心、こうなってしまってはこちらからは動かせない。
 やむなし、と業魔は腰に手を回すと新たに2刀を抜いて地面に突き立てようとしたのだが―――
「ぬっ! しまった……」
 抜いた刀はどちらも小太刀。真紅に輝くその刀身も、地面に届かなければ意味を成さない。
 脚力だけでは踏みとどまれず。業魔はそのまま闘技場から押し出され、その巨体を湖へと沈めたのだった。


「おぉ! 本当にやりおったわ!」
 唯斗の雄志を間近で見ていたエクスだったが、彼女は彼女で喜んでばかりもいられなかった。
 彼女が生みだし、業魔めがけて放った『闇黒死球』は、ゆっくりと周囲の物を巻き込みながらに闘技場を横切っている。
 元より球体は巨大、それに加えて巻き込む力も強い。『闇黒死球』は多くの参加者たちをも巻き込みながらに一直線に場外を目指していた。
 そしてその中にはなぜかエクスの姿もあったりして―――
「……なぜそんなことに」
「まぁ、何だ…………近づきすぎてしまってのぅ」
 何をしているのか、と問いつめる間もなく、唯斗もまた『闇黒死球』に引き寄せられてしまった。


 まったくどうしてこんな事に。
 身動きのとれないまま、多くの参加者たちが『闇黒死球』に連れられて場外へと落ちてゆく。
 湖面に顔を出した業魔が「はっはっは、やられたわ。面白い奴らが居るではないか」なんて言っていたが、彼にそう言わしめた数名もまた黒球の餌食となって失格になったようで……。
 先の2試合同様最後には、ポツリと数名が残っただけだった。