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リアクション
イコン・ザ・フィナーレバトル! 2
「派手な花火に後押しされちゃ、やってやらなあかんわなぁ!
いくで、朋美ん! ロレンツォ!」
「オーケー! ずっとコンビ組んできた大久保君も、
チームのロレンツォさんも頼りにしてるよ!」
「オ〜! 私ももっと早く大久保君に高崎さんとコンビ組みたかったヨ!
でも今があるからそれでいいネ! オールオーケー!」
先行するイコン部隊【タイム】である、
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)、高崎 朋美(たかさき・ともみ)、ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)の三人が勢いそのままに空を行く。
無数のゴーストイコンに臆することもない。数がなんだと言わんばかりに。
前衛、並ぶように飛ぶ泰輔のトレーロと朋美のゼフィロス。
二人のイコンはどちらも短期決戦用機体でもあるセラフィム。
その後方には外装は和の心を主張した機体、ソプラノ・リリコが控える。
三機の接近に、ゴーストイコンも既に気付き、倍の機体数でもって迎撃に向かって来る。
「おおうおおう、今回も数かいな? まあええわ、いけるだけいくだけやさかい!」
「それじゃ行こうか大久保君!」
泰輔と朋美が左右に分かれる。と、間髪いれずに光弾が敵へと向かう。
二機のイコンの動きに気を取られたゴーストインの一機を光弾がかする。
「惜しいネ! でも、適当に撃った割には上出来ヨ!」
「ちゃんと狙いなさいよ!」
ロレンツォの発言に逐一ツッコミを入れる頼れるアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)。
彼女がいなければソプラノ・リリコも十全の力を発揮することは難しいだろう。
「ノーノー、あの二人がこんな攻撃に当たるわけないコトよー!!
故に、これは信頼が成せる業なのネー!」
「それで当たったら信頼も何もなくなるけどね」
後方でロレンツォとアリアンナが信頼について語る。
「にしても、あのマンドレイコー、喚き散らしてうるさいよ!
もっと美しい音で世界を満たすのコトよ!」
ロレンツォはそう言った後、コックピット内で歌い始めた。
綺麗でいて通りのよい声はアリアンナの耳にも聞こえてくる。
だが、演歌だ。それもコブシ効きまくりのド演歌。
「そっちなの? まあいいけどさ」
アリアンナはやや意表をつかれながらもロレンツォの歌声に自分の歌声を絡ませていく。
「……何やら、ロレンツォたちが歌いだした気がする。僕の勘がそう言うてる」
「シックスセンス、という奴か? 泰輔も強くなったものだ」
讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が泰輔の成長―勘違いではあるが―を嬉しむ。
「何やら勘違いしてみるたいやけども、ええか。
んじゃ今回も変わらぬフォロー、よろしゅうな顕仁」
泰輔の極上の笑顔と、飾らぬ物言いに顕仁は酔いしれる。
(……ああ。
泰輔が我を必要としてくれる……これほどうれしいことはない……。
が障害のなくなってしまった恋路は、順風満帆すぎてちと寂しいかのう)
「ちょ、顕仁! よけーよけー!」
「……っと! すまない、少し考え事をしていた」
ゴーストイコンからの攻撃をかすり気味に回避する泰輔と顕仁。
だが攻撃は止まらず、追撃するためにゴーストイコンが突っ込んでくる。
「……! 障害、奴等は障害! ……ふふふ、燃えてきたぞえ!
行くぞ泰輔!
今を生きてあることが、これほど愛しくあることはないわ!」
「お、なんややる気やなぁ! ほな、あの突っ込んでくる阿呆を止めるで!」
朋美のゼフィロスよりも前に出てゴーストイコンと真っ向から対峙する泰輔。
敵の攻撃をシールドで受け止めた後、シールドに搭載された機晶ライフルを胴体に撃ち込む。
「そこだー!」
追いついてきた朋美がゴーストイコンの顔面目掛けて、マニピュレーターで直接殴りつけて、
海面へと無理やり落とす。
「よっし! ナイスだよシマック!」
「へっ、当然だ……」
ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)の言葉、それ自体は威勢がいいが、しかして彼の声色は迷いそのものだった。
彼はずっと考えていた、これからのこと、朋美のことを。
朋美は、戦友なのか?ということを。
(戦友? パートナー?
いや、もっとそれ以上の……存在だな、ちきしょう)
破壊魔である自分。衝動的にモノに八つ当たりをしては皆を困らせてきた。
だがいつからそれもなくなった。朋美がいたからだ。
一体、何に惹かれたのか――。
その時だ。ゴーストイコンが二体、朋美を囲みそうになる。
だが、シマックの位置制御のアシストにより、一瞬で窮地になりそうな展開を回避する。
「いやーやっぱりちょっとカンが鈍ってるなぁ。
でもシマックがついててくれるから、大丈夫だったよ!」
そう言って零れたの笑顔を見て、シマックは確信した。
こいつが、いけねぇんだと。
そして踏ん切りはもう、ついていた。
「おい、朋美」
「あ、ちょっと待って。今皆と――」
「いいから聞きやがれ。……この任務終わったらな
あの強烈な姑たちとも、俺は一生耐えてなんとか折り合いをつけていく覚悟、決めたから……
だから」
シマックが小声で何かを呟くが、周りの戦闘音にかき消されて朋美の耳に届くことは無い。
「……えっ、何か言った、シマック?」
「だから、俺で――!」
しかし、敵はお構いなしにやってくる。
今残存する五機がまとめて、朋美を狙う。
けれど彼女たちはチームだ。一機ではない、三組一機のイコン。
「おっとおっと、今いいとこなんやで? ちょいとは空気ってモンを読むんやな!」
超電磁ネットを発射し、敵の移動を阻害する泰輔。
周りに散ろうとするゴーストイコンだが、後方のロレンツォがそれを許さない。
結局、移動することもままならず、一箇所にまとめられたゴーストイコンに、
朋美、もといシマックと泰輔が斬り込む。
「行くで顕仁!」
「そなたの望むままに!」
「俺で、我慢しろ!」
「……あ、え?」
それぞれの叫びと共にゴーストイコンが一機、また一機と散っていく。
そのラストを結ぶのは、機晶ブレード搭載型ライフルの一射。
一点集中砲火にあったゴーストイコンはバラバラと海へと落ちていく。
「今日のお空は、恋模様〜♪ のコトよ〜!」
「そうみたいね。いやーどこも熱いのこと」
ロレンツォとアリアンナは四者の声を聞き届けていた。
特に、シマックの熱い一言はことさら耳に残っただろう。
そう、チームで動いていた彼らは常に回線を繋げているため、丸聞こえになっていたのだ。
シマック、いささか声を抑えるべきだったかもしれない。
「そ、それは、告白、的なことでいいのかな?」
「……ノーコメントだ! 次行くぞ次!」
「ちょっとシマック! それはずるくないかな!?」
「ええなー朋美んたち、楽しそうや」
「望むなら我らもしようではないか」
「さあ、演歌の続きを歌うのコトよー!」
「いや戦いなさいよ」
三位一体イコン部隊【タイム】は、更に敵を撃墜していく。
が、結局戦闘中はシマックが先ほどの言葉の真意を朋美に言うことはなかった。戦闘中は。