校長室
リアクション
● 叶 白竜(よう・ぱいろん)、世 羅儀(せい・らぎ)、ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)、タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)の四人は、すでに神殿内部の暗部へと密かに潜入していた。 他にも数十名の部下がいるが、そのほとんどは白竜から連絡が取れる場所へ散り散りになっている。 彼らの目的は特殊工作。グランツ教の内部資料を調査したり、敵の裏をかいた爆破や誘導が狙いだった。 その白竜たちはいま、天井裏の通気孔に潜んでいる。目下、神殿内では全警備システムが作動し、機晶警備兵が次々と敵の迎撃に向かっていた。 「こいつは……、随分と派手に始まりましたね」 白竜が群を成す機晶警備兵を見てゆるやかにつぶやいた。 「ああ。早いとこ、警備システムをどうにかしないとな」 羅儀が答える。二人の視線はニキータへ移り、彼の気持ちを窺った。 「いけるか? ニキータ」 「もちろんよ。あたしを誰だと思ってるの? 部下たちと連携して、工作に向かうわよ。ね、タマーラ」 「……意義なし」 ニキータはタマーラを連れ、さっそく通気孔から這い出て通路に降り立った。 すでに機晶警備兵たちの姿はなくなっている。通路を駆け抜けていた警備兵のほとんどは、突入班の連合軍のもとに向かったようだった。 ニキータとタマーラが通路からいなくなったところで、白竜と羅儀も着地した。 「さて……。私たちも行きますか。信者たちの保護に向かないと」 「そうだな。連中の中にゃ戦意のないやつもいるだろ。本部にも伝えておかないとな」 ニキータとは別方向へ動き、信者たちの保護に向かう。 その途中、白竜は散り散りになった部下たちにもそれぞれ命令を下していた。 ● 一方、突入班のティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)たちは、迎撃してくる機晶警備兵の相手に奮闘していた。 「こんのぉっ! 邪魔よッ――!!」 刀形態のギフト宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)を振り回すのは祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)だった。 恋人にして伴侶のティセラと共に、迫りくる警備兵との戦闘を務める。凄まじい気合いで相手をひるませた祥子は、そのまま衝撃波を放ち、敵を一掃した。続けざまに振るった刀が、警備兵の胴体を打ち破る。断ち切られた機晶機械のボディはバチバチと音を立て、ガシャンッとその場に崩れ落ちた。 「さて、と――」 「敵は物言わぬ機晶兵。とにかく数を討ち倒さねばなりませんわね」 気を落ち着けた祥子にティセラが言う。 祥子は力強くうなずいた。 「そうね。こうなったらやるだけやるしかない。どっからでもかかってきなさい!」 「その意気ですわ」 くすっと笑ったティセラの前で、祥子は機晶警備兵のボディを切り裂いた。 同時にティセラも動いている。星剣ビックディッパーが煌めき、複数の機晶警備兵を一気に断裁した。 その間に他の連合部隊も前へ進み出している。スウェル・アルト(すうぇる・あると)、アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)は刀と剣で応戦。激しい羅刹の剣技を垣間見せ、剛胆な気合いで敵の関節を狙い突いた。 「悪党は、成敗」 スウェルの木訥とした声が響く。 返す刀が機晶警備兵のボディを切り裂き、アームを断ち切った。 「うひょー、やりますねぇスウェル! アンちゃん、こういうの大好きです!」 アンドロマリウスがスウェルの盾となるべく前に進み出る。 突きだした手から発生したアイスフィールドが機晶警備兵の剣を受け止め、氷の煌めいた光を散らした。 「では、ご賞味あれ! 小人の舞いを!」 取り出したるは小人の鞄で、中から大小様々な親指サイズの小人たちがわーっと出てきた。 「……かわいい」 思わずスウェルは一言つぶやく。小人たちはわらわらと機晶警備兵にすがりつき、その動きを牽制した。 「ほいっと」 その瞬間にアンドロマリウスのファルシオンが一閃する。 打ち倒された警備兵は倒れ伏し、小人たちが「かったぞー」「おー?」と小さな拳を振り上げた。 そんなメルヘンちっくな戦いの最中に、影月 銀(かげつき・しろがね)が戦いに奔走する。 「ヅィィアッ――!!」 忍者が使用する忍びの刀を用い、軽快に機晶警備兵のアームを切断する銀。 ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)が剣の結界を張り、バニッシュで近づいてきた敵の視界を眩ませた。 「すまん、ミシェル!」 「いいんだよ! 銀の助けになるなら!」 二人は力を合わせて警備兵の排除に回った。 パワーブレスで援護してくれるミシェルの力を借り、底上げされたパワーを刀に乗せる。機晶警備兵のボディを断ち切ったとき、銀の脳裏にふいに昔のことが思い出された。 (里では日常茶飯事だったな、こんなことは――) 忍者の里出身の銀にとって、戦いはなくてはならないものだった。 しかし今は、それだけではない。守るモノを見つけた。守るべき人を見つけた。 滅びの運命がどうなるかやシャンバラの未来の行く末は銀には分からないが――。それでも、少なくとも自分のその刀が誰かの為に役に立つのは確かだ。 (だから俺は……戦うッ――!) ミシェルを守るために。仲間たちやその家族の未来を守るために、銀は刀を振るった。 その時神崎 輝(かんざき・ひかる)と一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)は、信者の拘束と機晶警備兵の戦いに従事していた。 「マスター、いきますよーっ!」 真鈴の魔導砲や魔導剣から、電撃の塊が撃ち放たれた。 それは信者や機晶警備兵に直撃するとバチバチと激しい稲光を起こし、相手の動きを拘束する。言い方を変えれば、ぷすぷすと煙を立ちのぼらせる。 そこに輝が防御へと転じ、隙を見て挑みかかってきた機晶兵から真鈴を守った。 「マ、マスターっ!?」 「いいから、真鈴! ここはボクに任せて!」 龍鱗化した輝の身体は機晶兵の剣を弾き返し、続けざまの槍の一閃が機晶兵のボディを貫いた。 いわゆる投擲槍の一種で、名を『魔槍プラーナ』と言う。輝の射出したひと振りの槍は、凄まじい勢いで機晶兵を一閃すると、今度は青い炎を先端に燃えあがらせて敵を貫いた。 見事な武器。そして戦いである。 そうして輝が戦う裏で、真鈴の放った真空波が機晶兵を切り裂いたところだった。 「さっすが真鈴♪ やるぅ」 「マスターには負けてられませんから」 真鈴がくすっと笑う。輝も同じように笑みを返した。 それに比べればリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)とアルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)の戦いは戦々恐々としたものだった。 「近づく者は一人とて許さぬ――。粛清だッ!!」 リブロの放つ銃弾の嵐が機晶警備兵を続々と破壊し、物言わぬスクラップに変えてゆく。 それから撃ち放つライフルの一弾が、接近していた機晶兵の一体をふき飛ばした。 「ふん――。アルビダ、ぬかるなよ」 「わぁってるって」 アルビダはハルバードを振るい、近づく敵を容赦なく排除していった。 迫る機晶兵のボディを一閃し、信者の腕を無慈悲に断ち切る。血を流した信者を隅に追いやると、次に機晶警備兵の一団を一気に粉砕した。 まさに鬼神のごとき戦い方である。 もちろんそれに誰かが意を介することだけはない。戦いに従事し者たちはみな、それぞれの思惑を持って戦っているのだった。 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)も、その一人――。 「グーランツーくーんあーそびまっしょー!」 友達の前のような軽快な呼び声とともに、ハイコドが大地に向けて放ったのは『震天駭地』だった。 地震や地割れを引き起こす天変地異の極意。地面にめり込んだ拳から衝撃波が広がり、床が一気にぐらぐらと揺れ出した。 「ぐ、ぐおおぉぉぉ……!!」 思わず足を取られて動けなくなる信者たちに、ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が近づいた。 「おハロー! それじゃ、一発どーぞ!」 ずびしっと一発どつかれて気絶する信者。 それをすかさずハイコドが簀巻きにした。糸や触手で。 「ぐおおぉぉ、抜けないぃぃ!」 見事にグランツ信者ぐるぐる巻きの一丁上がりである。 二人には未来がどーなるだのあーだこーだはよく分からない。しかし、双子の子どもも生まれたばかりだ。そこで世界が滅ぶなんてことになるのは否が応でも避けたいのだった。 もちろん、羽切 緋菜(はぎり・ひな)や羽切 碧葉(はぎり・あおば)も同じであることを願いたい。 しかし碧葉はともかく緋菜はさほどグランツ教徒に興味はないようで、明日の食事のメニューや予定に頭がいっぱいだった。 「よく知らないけどそんなに有名なの? このグラッチェ教」 などと、のたまう始末。 「グランツ教です。興味無いのは分かりますけど名前を間違えるのは失礼ですよ、緋菜?」 碧葉はそんな緋菜をたしなめ、戦いに集中した。 緋菜は『ケルベロス』と呼ばれる魔銃を使って、敵を撃ちぬいてゆく。遠距離からもだが、近づく敵も刀で一閃。自然と敵は誘導されるような形になった。碧葉は緋菜と事前に計画を立て、すでに罠を仕掛けてあったのだ。 「いきます。食らってください」 「なにっ!?」 驚いた信者たちが魔術の重圧で地面に押し潰された。 同時に蛇が動きだし、信者たちを縛り上げてゆく。碧葉が放ったウロボロスの蛇たちだった。 「うぎぃぃ!」 悲鳴を上げる信者たち。一方、緋菜は何食わぬ顔だ。 「茶葉がなくなってたかなー」 自宅のお茶っ葉のストックを心配し、ふうっとため息をついていた。 その頃長原 淳二(ながはら・じゅんじ)の剣が敵を一掃する。ボディを叩き斬られた機晶警備兵はその場にがしゃんっと崩れ落ちた。 「ふうっ……。これでだいぶ数は減ったかな……」 機晶警備兵の姿は最初に比べればかなり減っていた。 ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)もそれには気づいていたようで、喜んでいる。 「やっぱりみんなで力を合わせたからだね! これならきっと救世の間までもすぐだよ!」 「うーん、でも……」 しかし淳二は浮かない顔だった。 「淳二?」 思わずミーナが訊き返した。治癒の魔法はかけたが、どこかまだ傷が癒えていないところがあっただろうか? だが、違った。淳二は別のことで気をかけていたのだ。 なにか見逃している気がする。そんな気がしてならない。これで終わるはずがない、という予感。 ズゥン……! ズゥンッ……! 「え?」 その予感は、大きな足音とともにやって来た。 淳二が気づいてふり返ったその刹那、どごぉぉっと馬鹿でかい音で壁が粉砕される。 そこからのっそりと顔をあらわしたのは、機晶警備兵を五十体ほど積み上げたような体躯をした巨大な機晶兵だった。 「うそん」 もちろん、嘘ではない。 現実だと知った淳二は、仲間たちに一斉に呼びかけた。 「に、逃げろ――――――っ!!」 かくして巨人兵と連合軍の追いかけっこが始まった。 |
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