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終焉の絆

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終焉の絆
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【2】大聖堂vs連合軍 2

 立入禁止区域の神殿へと突入した契約者たちは、よりいっそう激しい戦いに見舞われていた。
 シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)硯 爽麻(すずり・そうま)鑑 鏨(かがみ・たがね)トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)が、その筆頭に立っていた。
 グレゴワールは騎士の誇りに追従する男だった。剣と盾を手に、立ちはだかるグランツ教徒へ迷うことなく挑みかかった。
「我は十字軍騎士、テンプル騎士団上級騎士グレゴワール・ド・ギー! 神の御心のまま、聖戦を執行する!」
 剣で敵を突き、切り裂き、突き進み、時には盾で敵を殴打した。
 それはまさにかつて聖戦を生き抜いたテンプル騎士そのもので、全身を使って獅子奮迅の戦いを繰り広げた。
 シャノンはそんなグレゴの援護をするだけだった。もちろん、手は抜いたりしないけども。命のうねりがグレゴを癒し、ヒールがその身に刻まれた傷を修復した。
「グレゴさーん、こっちにグレゴさんみたいな騎士なんてくだらないって言ってる人がいるよー。あたし聞いたよー」
「なにぐをおおぉぉぉ! 許すまじ!!」
 棒読みに踊らされるグレゴはシャノンに操られるまま、素直に敵陣に突っ込んでいった。
 鑑 鏨(かがみ・たがね)は羅刹馬を駆った暴走の徒だった。硯 爽麻(すずり・そうま)をジャイアントポメラニアンに乗せ、自らは羅刹馬に乗ってグランツ教徒たちの集団へ突っ込み、乗り捨て、敵を巻き込んでいくという荒技を繰り返す。しかるにその動きは自制の取れぬものだったが、鏨は構わず続け、長さ四尺を越える刀で敵を切り裂いた。
(――この事が済めば、また業魔に遭う事もあるだろう。その時の為にいまは、地力を鍛える必要がある……)
 鏨の心にはその思いただ一つだった。
 そんな彼の動きを爽麻はサポートし、大立ち回りを繰り広げる鏨が取り残した敵を、全長六尺余りもある居合刀で斬り伏せた。鏨の手はグランツ教徒の頭部を掴み、そのまま地面へと叩きつける。突きつけられた槍は手刀で砕き、膝蹴りが飛びこんで顔面を打ちつけた。
 まさに修羅のごとき振る舞いだったと言えよう。
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は部下たちを引き連れて包囲網を作り、グランツ教徒たちの指揮官らしき人物に狙いをつけた。その身体には『PCM−NV01パワードエクソスケルトン』と呼ばれる強化外骨格型のコンピュータが装着されている。身体能力と知覚が強化され、トマスは普段の何倍ものスピードで敵を翻弄した。
「いくよ、ミカエラ!」
「ええ、任せといて」
 トマスはパートナーのミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)と連携し、立ちふさがるグランツ教徒たちを戦闘不能に陥らせるため攻撃した。トマスと同じく、ミカエラも『PCM−NV01パワードエクソスケルトン』を装着していた。二人の動きの息はピタリと合う。剣による攻撃を繰り返して敵の指揮官を斬り伏せたトマスは、部下たちに拘束を命じ、不殺を徹底させた。
「命までは取るな! 彼らはただグランツ教の教えに囚われているだけなんだ! 拘束し、動きを封じるだけにするんだ!」
 若き大尉の命令に部下たちは素直に従った。拘束されたグランツ教徒は大聖堂外の連合軍本部へと連行される。その後ろ姿を見ながら、ミカエラは思い深げな顔をした。
「彼らもいつか改心出来るときが来るかしらね……」
 トマスは希望を見出すようにうなずいた。
「ああ。いつかきっとそうなるさ。その為にも、僕らはいるんだ」
 大言めいた言葉だが、そこにトマスの嘘はなかった。ミカエラは嬉しそうに微笑んだ。
 大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)兵長とヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)は、自らが無力化させたグランツ教徒が連行される様子をすぐ傍で見ていた。上官の命令に対し迷いというものはない。だが、心なしかほっとしている自分がいることにも丈二は気づいていた。
 もちろん、善悪の判断は一兵長がすることではない。それは上官の判断能力に委ねる。自分の生死でさえも。
「さあ、行きましょう、ヒルダ!」
「分かったわ」
 丈二は銃剣銃で敵を撃ちぬいていき、ヒルダが自前の光翼とバーストダッシュの加速を使って瞬時に敵の距離を詰めた。
 いつも通りの戦い方に、コンビネーションが発揮される。再び無力化されていくグランツ教徒たちを、他の兵士が拘束・連行へと移送していった。
 オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)には難しいことは分からない。けれど、仲間が皆悲しむのはいけないことだというのは分かっているつもりでいた。
「だから……オルフェはみんなのために戦うんですよ!」
 震える魂や奨励といった支援用の魔法が仲間たちの心を鼓舞し、立ち上がらせる。
 ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)もそんなオルフェリアの支援を受けながら、パイロキネシスやカタクリズムといった念能力を使って敵と戦っていった。
 アルティメットクイーンやグランツ教徒が善なのか悪なのかどうかは、ミリオンにはどうでもいいことだった。大事なのは目の前の友人が何かをするとき、それを助けたいと思う心だ。ミリオンはそんな心を大切にしていた。
(オルフェリア様が戦いたいっていうのなら……我は助けるのを惜しみません)
 オルフェリアを助けたいが為に、ミリオンは戦う。
 やがてグランツ教徒たちの数も次第に減っていき、神殿では不吉な静寂さえも漂う気配がしていた。
 一体なんだ? 丈二が不審に思った顔をあげた。そのとき、緊張の糸を張り巡らす警報が鳴り響いたのは同時だった。
「マズイっ――!」
 真っ先に気づいたのは丈二だった。
 連合軍の突入で神殿の警備システムが作動し、奥から次々と機晶警備兵があらわれたのだ。その数と無慈悲な戦闘マシンの外観に、思わず青ざめる。
「て、撤退! 一時撤退!」
 上官の指示が響き渡り、丈二たちは一度その場を退くことを余儀なくされた。



 叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)の四人は、すでに神殿内部の暗部へと密かに潜入していた。
 他にも数十名の部下がいるが、そのほとんどは白竜から連絡が取れる場所へ散り散りになっている。
 彼らの目的は特殊工作。グランツ教の内部資料を調査したり、敵の裏をかいた爆破や誘導が狙いだった。
 その白竜たちはいま、天井裏の通気孔に潜んでいる。目下、神殿内では全警備システムが作動し、機晶警備兵が次々と敵の迎撃に向かっていた。
「こいつは……、随分と派手に始まりましたね」
 白竜が群を成す機晶警備兵を見てゆるやかにつぶやいた。
「ああ。早いとこ、警備システムをどうにかしないとな」
 羅儀が答える。二人の視線はニキータへ移り、彼の気持ちを窺った。
「いけるか? ニキータ」
「もちろんよ。あたしを誰だと思ってるの? 部下たちと連携して、工作に向かうわよ。ね、タマーラ」
「……意義なし」
 ニキータはタマーラを連れ、さっそく通気孔から這い出て通路に降り立った。
 すでに機晶警備兵たちの姿はなくなっている。通路を駆け抜けていた警備兵のほとんどは、突入班の連合軍のもとに向かったようだった。
 ニキータとタマーラが通路からいなくなったところで、白竜と羅儀も着地した。
「さて……。私たちも行きますか。信者たちの保護に向かないと」
「そうだな。連中の中にゃ戦意のないやつもいるだろ。本部にも伝えておかないとな」
 ニキータとは別方向へ動き、信者たちの保護に向かう。
 その途中、白竜は散り散りになった部下たちにもそれぞれ命令を下していた。



 一方、突入班のティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)たちは、迎撃してくる機晶警備兵の相手に奮闘していた。
「こんのぉっ! 邪魔よッ――!!」
 刀形態のギフト宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)を振り回すのは祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)だった。
 恋人にして伴侶のティセラと共に、迫りくる警備兵との戦闘を務める。凄まじい気合いで相手をひるませた祥子は、そのまま衝撃波を放ち、敵を一掃した。続けざまに振るった刀が、警備兵の胴体を打ち破る。断ち切られた機晶機械のボディはバチバチと音を立て、ガシャンッとその場に崩れ落ちた。
「さて、と――」
「敵は物言わぬ機晶兵。とにかく数を討ち倒さねばなりませんわね」
 気を落ち着けた祥子にティセラが言う。
 祥子は力強くうなずいた。
「そうね。こうなったらやるだけやるしかない。どっからでもかかってきなさい!」
「その意気ですわ」
 くすっと笑ったティセラの前で、祥子は機晶警備兵のボディを切り裂いた。
 同時にティセラも動いている。星剣ビックディッパーが煌めき、複数の機晶警備兵を一気に断裁した。
 その間に他の連合部隊も前へ進み出している。スウェル・アルト(すうぇる・あると)アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)は刀と剣で応戦。激しい羅刹の剣技を垣間見せ、剛胆な気合いで敵の関節を狙い突いた。
「悪党は、成敗」
 スウェルの木訥とした声が響く。
 返す刀が機晶警備兵のボディを切り裂き、アームを断ち切った。
「うひょー、やりますねぇスウェル! アンちゃん、こういうの大好きです!」
 アンドロマリウスがスウェルの盾となるべく前に進み出る。
 突きだした手から発生したアイスフィールドが機晶警備兵の剣を受け止め、氷の煌めいた光を散らした。
「では、ご賞味あれ! 小人の舞いを!」
 取り出したるは小人の鞄で、中から大小様々な親指サイズの小人たちがわーっと出てきた。
「……かわいい」
 思わずスウェルは一言つぶやく。小人たちはわらわらと機晶警備兵にすがりつき、その動きを牽制した。
「ほいっと」
 その瞬間にアンドロマリウスのファルシオンが一閃する。
 打ち倒された警備兵は倒れ伏し、小人たちが「かったぞー」「おー?」と小さな拳を振り上げた。
 そんなメルヘンちっくな戦いの最中に、影月 銀(かげつき・しろがね)が戦いに奔走する。
「ヅィィアッ――!!」
 忍者が使用する忍びの刀を用い、軽快に機晶警備兵のアームを切断する銀。
 ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)が剣の結界を張り、バニッシュで近づいてきた敵の視界を眩ませた。
「すまん、ミシェル!」
「いいんだよ! 銀の助けになるなら!」
 二人は力を合わせて警備兵の排除に回った。
 パワーブレスで援護してくれるミシェルの力を借り、底上げされたパワーを刀に乗せる。機晶警備兵のボディを断ち切ったとき、銀の脳裏にふいに昔のことが思い出された。
(里では日常茶飯事だったな、こんなことは――)
 忍者の里出身の銀にとって、戦いはなくてはならないものだった。
 しかし今は、それだけではない。守るモノを見つけた。守るべき人を見つけた。
 滅びの運命がどうなるかやシャンバラの未来の行く末は銀には分からないが――。それでも、少なくとも自分のその刀が誰かの為に役に立つのは確かだ。
(だから俺は……戦うッ――!)
 ミシェルを守るために。仲間たちやその家族の未来を守るために、銀は刀を振るった。
 その時神崎 輝(かんざき・ひかる)一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)は、信者の拘束と機晶警備兵の戦いに従事していた。
「マスター、いきますよーっ!」
 真鈴の魔導砲や魔導剣から、電撃の塊が撃ち放たれた。
 それは信者や機晶警備兵に直撃するとバチバチと激しい稲光を起こし、相手の動きを拘束する。言い方を変えれば、ぷすぷすと煙を立ちのぼらせる。
 そこに輝が防御へと転じ、隙を見て挑みかかってきた機晶兵から真鈴を守った。
「マ、マスターっ!?」
「いいから、真鈴! ここはボクに任せて!」
 龍鱗化した輝の身体は機晶兵の剣を弾き返し、続けざまの槍の一閃が機晶兵のボディを貫いた。
 いわゆる投擲槍の一種で、名を『魔槍プラーナ』と言う。輝の射出したひと振りの槍は、凄まじい勢いで機晶兵を一閃すると、今度は青い炎を先端に燃えあがらせて敵を貫いた。
 見事な武器。そして戦いである。
 そうして輝が戦う裏で、真鈴の放った真空波が機晶兵を切り裂いたところだった。
「さっすが真鈴♪ やるぅ」
「マスターには負けてられませんから」
 真鈴がくすっと笑う。輝も同じように笑みを返した。
 それに比べればリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)アルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)の戦いは戦々恐々としたものだった。
「近づく者は一人とて許さぬ――。粛清だッ!!」
 リブロの放つ銃弾の嵐が機晶警備兵を続々と破壊し、物言わぬスクラップに変えてゆく。
 それから撃ち放つライフルの一弾が、接近していた機晶兵の一体をふき飛ばした。
「ふん――。アルビダ、ぬかるなよ」
「わぁってるって」
 アルビダはハルバードを振るい、近づく敵を容赦なく排除していった。
 迫る機晶兵のボディを一閃し、信者の腕を無慈悲に断ち切る。血を流した信者を隅に追いやると、次に機晶警備兵の一団を一気に粉砕した。
 まさに鬼神のごとき戦い方である。
 もちろんそれに誰かが意を介することだけはない。戦いに従事し者たちはみな、それぞれの思惑を持って戦っているのだった。
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)も、その一人――。
「グーランツーくーんあーそびまっしょー!」
 友達の前のような軽快な呼び声とともに、ハイコドが大地に向けて放ったのは『震天駭地』だった。
 地震や地割れを引き起こす天変地異の極意。地面にめり込んだ拳から衝撃波が広がり、床が一気にぐらぐらと揺れ出した。
「ぐ、ぐおおぉぉぉ……!!」
 思わず足を取られて動けなくなる信者たちに、ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が近づいた。
「おハロー! それじゃ、一発どーぞ!」
 ずびしっと一発どつかれて気絶する信者。
 それをすかさずハイコドが簀巻きにした。糸や触手で。
「ぐおおぉぉ、抜けないぃぃ!」
 見事にグランツ信者ぐるぐる巻きの一丁上がりである。
 二人には未来がどーなるだのあーだこーだはよく分からない。しかし、双子の子どもも生まれたばかりだ。そこで世界が滅ぶなんてことになるのは否が応でも避けたいのだった。
 もちろん、羽切 緋菜(はぎり・ひな)羽切 碧葉(はぎり・あおば)も同じであることを願いたい。
 しかし碧葉はともかく緋菜はさほどグランツ教徒に興味はないようで、明日の食事のメニューや予定に頭がいっぱいだった。
「よく知らないけどそんなに有名なの? このグラッチェ教」
 などと、のたまう始末。
「グランツ教です。興味無いのは分かりますけど名前を間違えるのは失礼ですよ、緋菜?」
 碧葉はそんな緋菜をたしなめ、戦いに集中した。
 緋菜は『ケルベロス』と呼ばれる魔銃を使って、敵を撃ちぬいてゆく。遠距離からもだが、近づく敵も刀で一閃。自然と敵は誘導されるような形になった。碧葉は緋菜と事前に計画を立て、すでに罠を仕掛けてあったのだ。
「いきます。食らってください」
「なにっ!?」
 驚いた信者たちが魔術の重圧で地面に押し潰された。
 同時に蛇が動きだし、信者たちを縛り上げてゆく。碧葉が放ったウロボロスの蛇たちだった。
「うぎぃぃ!」
 悲鳴を上げる信者たち。一方、緋菜は何食わぬ顔だ。
「茶葉がなくなってたかなー」
 自宅のお茶っ葉のストックを心配し、ふうっとため息をついていた。
 その頃長原 淳二(ながはら・じゅんじ)の剣が敵を一掃する。ボディを叩き斬られた機晶警備兵はその場にがしゃんっと崩れ落ちた。
「ふうっ……。これでだいぶ数は減ったかな……」
 機晶警備兵の姿は最初に比べればかなり減っていた。
 ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)もそれには気づいていたようで、喜んでいる。
「やっぱりみんなで力を合わせたからだね! これならきっと救世の間までもすぐだよ!」
「うーん、でも……」
 しかし淳二は浮かない顔だった。
「淳二?」
 思わずミーナが訊き返した。治癒の魔法はかけたが、どこかまだ傷が癒えていないところがあっただろうか?
 だが、違った。淳二は別のことで気をかけていたのだ。
 なにか見逃している気がする。そんな気がしてならない。これで終わるはずがない、という予感。

 ズゥン……! ズゥンッ……!

「え?」
 その予感は、大きな足音とともにやって来た。
 淳二が気づいてふり返ったその刹那、どごぉぉっと馬鹿でかい音で壁が粉砕される。
 そこからのっそりと顔をあらわしたのは、機晶警備兵を五十体ほど積み上げたような体躯をした巨大な機晶兵だった。
「うそん」
 もちろん、嘘ではない。
 現実だと知った淳二は、仲間たちに一斉に呼びかけた。
「に、逃げろ――――――っ!!」
 かくして巨人兵と連合軍の追いかけっこが始まった。