空京

校長室

終焉の絆

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【2】大聖堂vs連合軍 6

 ちょうどその頃。
 大聖堂内第二のコントロールルームでは、助っ人の上條 優夏(かみじょう・ゆうか)フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)から力を借りて、本名 渉(ほんな・わたる)たちが新たなハッキングに挑んでいるところだった。
「あーあ……なんで俺がこんなことせんとあかんねん」
 優夏はぶつくさと文句を言いながら端末を弄くる。
「もう! 文句ばっか言ってないで手を動かす! さっさとシステムを破壊するのよ!」
 フィリーネが優夏を叱責して、その背中に追い打ちをかけた。
「つってもなぁ……」
 優夏はいくらやっても『ERROR』しか表示しない画面にうんざりしていた。
「せっかくの未来施設なんやから、こう未知の技術がずぱぱぱぱぁんっ! と出てきてもいいような気がしたんやけどなぁ。逆にハイテク過ぎてわけわからんわ。せめて設計図ぐらいないと……」
 教導団の団長からメールが送られてきたのはちょうどその時だった。
「あ、見て優夏! これって――」
 それはまさに優夏が渇望していたシステムの設計図だった。
 グッドタイミングとはこの事である。出来れば現実世界のHIKIKOMORIライフもこれぐらい運が良ければなおよかった。
「この技術提供料は教導団に高く請求するで! よっしゃ、いけぇぇ!」
 優夏はセキュリティ解除にアクセスすると、すぐにそのスタートボタンを起動させた。
 同時にプログラム破壊ウィルスを侵入させる。ほどなくしてコンピュータが音を立て、次々と爆発し始めた。
「無事にロックは解除されたみたいよ!」
「よーし、それじゃあ離脱や! 俺たちの役目はもう終わったで!」
 優夏たちは仲間とともに、コントロールルームを脱出した。



 扉のロックが解除されたことによって、シャンバラの連合軍は救世の間まであと一歩のところに近づいていた。
 天城 一輝(あまぎ・いっき)はアルティメットクイーンまでの血路を開くべく、強引にねじ込んだ小型飛空艇アウラダで突っ込んだ。
 グランツ教徒たちは驚き慌てふためき、我先に逃げ出す。勇敢な信者は一輝に狙いをつけて立ちむかったが、それをユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が迎撃した。
「我が守るべきは一輝の背だ。お前たちの好きにはさせん」
 霊妙の槍を振るって敵を蹴散らす。
 続けざまにセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と突入。救世の間を守ろうとするグランツ教徒たちをその自慢の銃で撃ち抜いた。
「さてと……。クイーンを守るっていうなら、容赦はしないわよ。ね、セレアナ?」
「そうね」
 セレアナがくすっと笑みをこぼした。
「グランツ教の信者たちには悪いけど、この場にいたのが運の尽きだと思って……どいてもらうわ!」
 二丁拳銃を構えたセレアナの銃弾が宙を飛び交う。
 次いで放ったグラビティコントロールが敵の動きを重力によって止め、銃弾の餌食となった。
 その頃榊 朝斗(さかき・あさと)は二つの『PPW』と呼ばれる念動兵器を使って敵を攻撃していた。『PPW』は擬似人格を構成した連動兵器だ。朝斗の動きに合わせて宙を飛んだそれは刺又型へと変形し、高周波レーザーで相手の動きを攪乱した。
 その隙に、朝斗は『朧』と呼ばれるトンファー型のサイコブレードで敵を蹴散らす。
 もっとも『朧』には刃と呼べるものはついておらず、念動力を刀身に送ることで刃の代わりを果たすものだったが。
 いずれにせよその動きがグランツ教徒たちの接近を許さない。アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)がその間に接近、得意のレゾナント・アームズの一撃で相手を沈黙させた。
 ふき飛んだグランツ教徒の哀れな姿を見て、朝斗が思わず一言。
「なんだかかわいそうになってくるね」
 同情っぽいことを口にした朝斗に、アイビスは肩をすくめた。
「ここにいるということは覚悟を決めてるということよ。残念だけど……容赦しないわ」
 もちろん朝斗もそのつもりだ。
 ただ出来れば傷つけずに事を済ませたいため、彼は隙を見せた敵は『鋼の蛇』で両足を縛りつけて拘束し、護送班に回すことにした。
 そのことをわざわざ甘いと言う者はいない。ただし敵の数が減っていくにつれて、その強さも次第に強固なものとなり、やがて最後の砦とばかりに辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)のタッグが契約者たちの前に姿を現した。
「君は……!」
 思わず朝斗は口を開いた。
 契約者たちの前に現れたとは言ったが、その刹那自身もまたファンドラとパートナー関係を結んだ契約者だったのである。
 刹那は問答無用で『弾幕ファンデーション』をまき散らすと、その煙幕の中から分身の術を使って朝斗たちの前に飛び出してきた。不意を突いたその攻撃に一瞬、どれが本物かを見分けることが出来ずひるむ契約者たち。同時に毒虫や痺れ粉がまき散らされ、煙幕の向こうからファンドラの放つ無数の武器が飛んできたときには、さすがに圧倒された。
「落ち着け! 敵は一人だぞ! あとは偽物だ!」
 一輝が仲間たちに呼びかける。
 煙幕の視界に邪魔されない『PPW』が刹那の偽物を一斉にレーザーで蹴散らした。そして飛び交ってきた暗器武器や毒虫を排除した朝斗たちは、消えかかった靄の向こうに刹那の姿を見定める。
「今だ、セレン!」
「ええ、任せといて!」
 朝斗の呼びかけに応えたセレンフィリティの銃弾が一瞬で敵を貫いた。
 複数の銃声。セレアナの握る二丁拳銃にも硝煙の煙が立ちのぼる。
「う……く……ぅ……」
 やがて煙幕が晴れたそこには、肩と足を撃たれてうずくまる刹那とファンドラの姿があった。
 すぐに連合軍隊が駆けつけ、彼女たちを拘束した。
「さあ、行くぞ。救世の間はもうすぐそこだ!」
 一輝が呼びかけ、匿名 某(とくな・なにがし)がうなずく。
 結崎 綾耶(ゆうざき・あや)を抱きかかえた彼はすぐに、一輝の開け放ってくれた通路を渡り、救世の間へと急いだ。