空京

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終焉の絆

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終焉の絆
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【2】救世の間 2

 アルティメットクイーンと戦う事を選んだエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、奈落人殺戮本能 エス(さつりくほんのう・えす)の力を借りて全力でクイーンの命を狙いに挑んでいた。
 ようやく大々的に邪教を滅ぼすことが出来るタイミングを掴んだのだ。
 この機会を逃す術はない。エヴァルトはクイーンを引きずり落としてやろうと考えていた。
「ツィィィアアアァァッ!!」
 エスの本能を頼りにした拳の一撃が、クイーンへ迫る。
 しかしクイーンはその前に不可視のバリアを作り、エヴァルトの一撃を受け止めた。
「グ、オオオオオォォォ――ッ!?」
「下賤な。その程度の力ごときで私に敵うとお思いですか?」
 だが、エヴァルトは諦めない。にやりと笑うと身体を回転させ、回し蹴りによる一撃をバリアに浴びせた。
 蹴りは拳の何倍もの力がある。それまでビクともしなかったバリアが一瞬にして粉々にふき飛び、その隙にエヴァルトは飛びこんだ。
「ハアアアァァァッッ!」
 だがすでに、クイーンは目の前にいなかった。
「なにっ――!?」
 後ろから回ったアルティメットクイーンの一撃。
 たった一発の光周波だというのに、エヴァルトは一瞬にして壁に吹き飛ばされた。
「な、なんだってんだ、くそっ……」
 時間操作の能力である。
 アルティメットクイーンは時間を操る力を持ちあわせている。それによって自身を加速させ、あるいは相手の動きを遅くさせ、まるで高速移動をしているかのように行動することが出来るのだ。
 もしアルティメットクイーンを捕らえるならば、その能力をどうにかする必要がある――。
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)はそう考えていた。
(一瞬でいい……! 一瞬でも、クイーンの力を封じられれば……!)
 しかしその為には、相手の懐に入る必要がある。
 宵一は葛藤すした。するとその間に、クイーンの手がネフェルティティに迫っていた。
「ネフェルティティ!」
 彼女の前に飛び出したエルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)が、イナンナの加護を発動させてクイーンの攻撃を防いだ。
 光の防壁がクイーンの光周波を弾き返す。その隙にペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)がフォースフィールドの膜を作った。
「エルサーラ、ペシェ……ありがとうございます」
 ネフェルティティがつつましくお礼を言う。
「どうってことないわよ、これぐらい。ね、ペシェ?」
 エルサーラは相棒兼パートナーに賛同を求めた。
「もちろんですーっ。ネフェルティティちゃんガードなら、当然です!」
 ペシェは両手を振り上げて気合いを示した。
 と、その間に、刃渡り二メートルの光の大剣を手にした小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、迫りくるクイーンのエネルギー波からネフェルティティを守った。
「美羽さんっ……!」
「大丈夫! 気にしないで、ネフェルティティ! それより早く、あいつを止める方法を……!」
 連続して放たれるクイーンの攻撃に、美羽は必死に食らいつく。
「美羽!」
 ちょうどその時コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が心配して現れた。コハクはクイーンが高速移動しながら放ってくる光周波を闘気でかき消す。その間に美羽がコハクの手を掴んだ。
「グッドタイミング、コハク! 二人でセラフィックフォースを使うのよ!」
「うん、分かったよ!」
 二人はタイミングを見計らってお互いの力を同時に高めた。
 瞬間、熾天使の力を借りて巨大な大天使が姿を現した。大天使はそのパワーを持ってクイーンを圧倒する。振り抜かれた拳が大地を抉り、すさまじい衝撃波がクイーンを襲った。
「っ……!」
 距離を取るクイーン。
 するとそのとき、激しい揺れが救世の間を襲った。
 そのおかげでクイーンは体勢を崩してしまう。その隙を突いてどこからか飛んできた銃弾が彼女の肩を貫き、好機を窺っていた宵一がリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)とともにクイーンのもとに踏みこんでいった。
「リイム! 頼むぞ!」
「了解でふーっ!」
 リイムが放ったのは『終焉』と『新生』の名を冠する『アイオーン』と呼ばれる剣と銃だった。
「――その力は――」
 呪詛じみた色合いの呟きは、クイーンのもの。
 終焉の銃が放つ黒きエネルギーの弾丸がクイーンの眼前を飛び、新生の剣がその背後を一閃する。自由な動きが取れなくなったクイーンに、宵一の手にした神狩りの剣が迫った。
「はあああああぁぁぁぁ――ッ!!」
 一閃。剣はクイーンの身を切り裂いた。
 宵一は神狩りの剣に『スカージ』の力も注ぎ込んでいた。
 相手のパワーを封じるそのスキルは、神狩りの剣が元々保有する封印力と相乗されてクイーンのエネルギーそのものを閉じ込めてゆく。
「クッ、アアァァァ――ッ!!」
 暴れるクイーンの叫び。
 そのとき、すでに懐に飛びこんでいたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、小型の結界装置をクイーンの足下で起動させた。
「悪いけどチェックメイトよ、クイーン!」
 結界が起動するとクイーンの身体はその内側に閉じ込められ、動けなくなった。光条世界からの干渉すら受け付けなくなったのだ。
 同時にクイーンの意識が少しずつ薄れてゆく。やがて全ての力を封じこめられたのか。ふっと意識を失ったクイーンは、結界の中で静かに地に伏した。
「ルカさん……」
 舞がたずねるようにルカを見た。
「ええ、やったわね……」
 ルカはうなずいた。
 ついに、アルティメットクイーンを拘束出来たのだ。
 それは間違いない。ネフェルティティや宵一が確認しても、クイーンは完全に気を失っている。彼女はまるで眠るように、結界の中で静かに瞼を閉じていた。
「そうか。無事に終わったか……」
 ちょうどそのとき顔を出したのは、行方が分からなくなっていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だった。
 ルカは彼の肩にライフルが乗っているのを見て、じろりと目を細めた。
「……で? 行方不明の本人はどこに行ってたの?」
「あー、まあ、な。ちょっと『無敵艦隊』を呼んでた」
「えっ!? それじゃあ、さっきの揺れはもしかしてダリルさんのせいだったんですか!?」
 舞はにわかに驚いた。
 揺れというのはアルティメットクイーンの足下をすくった救世の間全体の揺れのことを指していた。
 いつの間にか『無敵艦隊』を呼んでたダリルが、それを使って神殿全体に突貫をかけたのだ。おかげで建物に地震が起こり、隙を突いたダリルはライフルでクイーンの肩を狙い撃ちしたというわけだった。
「なかなかスリルもあっただろう?」
 ダリルはもったいつけたような言い方で微笑した。
「ありすぎですよもう! すっごくっ……! すっごく……心配したんですからねっ!!」
 舞はそう言ってダリルに抱きついた。心なしか泣いているようにも見える。
「あらあら……。少佐も隅におけないわね」
 舞の保護者役でもあるパートナーの赤城 静(あかぎ・しずか)は、そんな二人を微笑ましそうに見て笑った。
 もっともダリル本人はよく分かっておらず、首をかしげているが。
 ルカもそんな二人の構図を珍しいと思いながら、どことなく嬉しくなってくすくすと笑っていた。



 しばらくして目を覚ましたアルティメットクイーンは、手枷を付けられ完全拘束されていた。
 しかしクイーンにも、今さら抵抗するようなつもりはないらしい。大人しくしている彼女の治療を桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)と『鋼鉄の獅子』部隊のクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が担当した。
「わっ、出てきちゃダメですよ!」
 クイーンにヒールの魔法をかけていたクエスティーナの胸元から、ぼろぼろとわたげうさぎが出てくる。
 しかも他にも柔らかポムクルさんたちがあらわれて、辺りは一気ににぎやかになった。
「ちりょーちりょーなのだー」「ちりょーてなに?」「ちゆすことー」「そゆことなのだー?」
 わーわーきゃーきゃーとはしゃぐポムクルさんは放っておいて、サイアスはクエスティーナをじろっと見る。
「通りで胸が大きかったはずだな……」
「あははは……。す、すみません……勝手に連れてきて……」
 しゅんとなったクエスティーナだったが、サイアスはしょうがないというように息をつくだけだった。
「まったくもう……。あまりにうるさいと治療も出来ないよ?」
 クイーンに包帯を巻き終わった屍鬼乃が呆れたように言う。
 自分の腕がしっかり動くことを確かめたクイーンに、彼は腕時計型携帯電話を渡した。
「これ、理王から」
 クイーンはあまり意味を理解出来ずに屍鬼乃を見返した。
「一応、連絡用にってね。なにかあったらすぐに知らせられる。君の安全は保証するよ」
 屍鬼乃の言葉を聞いて、クイーンが理王を見る。
 笑顔を浮かべている彼にほとんど何の感慨も抱かぬ様子で、クイーンはその腕時計型携帯電話を手首につけた。
「クイーン様……」
 それまでクイーンと契約者たちとの戦いを見届けてきた結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が、彼女に声をかけた。
「私はクイーン様が無事で良かったです。こうして少しでも、分かち合えるかもしれない機会が持てましたから」
「そーいうことだな」
 匿名 某(とくな・なにがし)も綾耶と同じように声をかけた。
「あんたが何を考えてるか正直俺にはよく分かんねーけど……。綾耶が信じた相手だ。俺も信じてみる」
 信念の灯った真っ直ぐに光る瞳が、クイーンを見つめていた。
 そしてクイーンの目も二人を見ていた。言葉はなくとも、静かに……。
 そのうち教導団の護送班もやって来て、クイーンは正式に連行されることになった。
 その際、近づいてきたネフェルティティに向かってクイーンは静かに言った。
「あなたも、あなたの中の“子”も、私と同様、一度は世界に認められなかったもの。どうしてこう道を違え、互いにぶつかり合うことになったのか、とても興味深い……」
 ネフェルティティも毅然とした態度を崩さずに言った。
「いずれその理由は、貴女にもきっと分かることでしょう」
 その言葉を静かに聞き届けるクイーン。
 最後にそっと笑って連れていかれた彼女の背中を、ネフェルティティははっきりと見届けた。