空京

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終焉の絆

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終焉の絆
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ミルザムの応援演説 1

カッチン 和子(かっちん・かずこ)
パートナーのボビン・セイ(ぼびん・せい)は、
ミルザムの選挙応援を行っていた。

和子は、ウグイス嬢として、選挙カーから呼びかける。
「ミルザム・ツァンダに清き一票をお願いします!」
そして、皆が、選挙を忘れたりしないよう呼びかける。

「東京都知事選、大切な有権者の権利、投票権を行使しよう!
選挙の日を忘れないようにね!」
和子は、当日の天候にも注意し、
傘や合羽、長靴なども念のために用意していた。

「おーい、万が一、雪や雹が降った場合の準備もして置けよ」
ボビンが、和子に注意を呼びかける。
「つーか、だれか天候操作できる奴はいねーのか?」
天気が悪いと、投票率が減ってしまう恐れがある。

和子たちが、地道に選挙カーから投票のことを訴えたので、
選挙のことを忘れる人は少なそうである。


そして、ミルザムの応援演説の現場では。

白雪 魔姫(しらゆき・まき)も、マイクを握り、
応援演説を行う。
「都合が悪くなるとパラミタのせいにして同じ地球人として嫌になるわね。
今までのパラミタと築いてきた絆を勝手にぶち壊すんじゃないわよ!
そのおかげで恩恵があったて分かってるんだったら
切り捨てるんじゃなくて共に歩んでいける方法を考えようとはしないの?」
魔姫が、対立候補の発言に対し、厳しい批判を投げかける。

「もしかしたら、
かつてのワタシも、自分のことしか考えない、という点では、
同じだったかもしれないわ」
魔姫は、契約者として自分が得られたものについて話し始める。
「もし、地球に居るだけだったら
毎日何をやるにも面倒くさいって思ってるだけの、
世間知らずのお嬢で終わってたでしょうね。
パラミタに来なかったら自分ひとりだけの無力さ、
仲間と協力する事の大切さは学べなかったと思う……」
パートナーのエリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)も、
魔姫の言葉にうなずく。
「あ、あの……エリスも……
パラミタと地球の交流がなくなっちゃうのは……嫌、です……」

「そうよ。ワタシだって、パラミタと地球のつながりがなければ、
エリスにだって出会えなかったのよ」
「魔姫様……」
珍しく優しく言う魔姫に、エリスフィアは笑みを浮かべる。

「だからミルザムをワタシは支持するわ。
皆も、一緒に、最後まであきらめず、ミルザムを応援してちょうだい!」
魔姫の言葉に、群衆から
ひとり、またひとりと拍手が巻き起こった。

レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も、
初期の百合園女学院制服を着て、
寒い中、活動している仲間たちに温かいハーブティーを配ったり、
ウグイス嬢をしたりしていたが。

レキも、続けて、応援演説をする。
「貴方の身内や知り合いにパラミタへ渡った人は居ませんか?
契約者全てが戦っているわけではありませんが、
今、パラミタの滅亡を防ごうと戦っているのは私のような歳若い少年少女が殆どです。
皆信じているのです。自分達の力が世界を救うと。
大切なパートナーの故郷を、そして自分の居場所を守る為に。
パラミタとの絆を断つと言う事は、
その人達を見捨てる事……それでも自分達の身だけが大切ですか?」
レキは、一生懸命、敬語を使って、人々の目を見つめ、問いかけていた。

魔姫やレキたち、
若者の契約者たちの発言に、
有権者、特に若者から共感の声があがる。
「そうだ。俺の友達も、契約者の学校に行ったんだ!」

年配の人たちも、同意する。
「あんなに若い子が頑張っているのに、私たちは……」

多くのパラミタ人が地球に訪れている今、
東京はその玄関口であり、
パラミタ人の友や隣人を持つ者も多い。

続けて、
レキのパートナーのミア・マハ(みあ・まは)も、
眼鏡を光らせ、演説する。
「パラミタで死んだ者の魂はナラカを通り地球で生まれ変わると言われておる。
その逆も然り。
今ここでパラミタを切り捨て地球だけ助かったとしよう。
そうなった場合、魂の行く先はどうなるのだろうな?」

ミアの発言をいぶかしむ者はいない。
魔法の実在は、パラミタの出現とともに、現実のものとして認識されている。
地球人も、魂の存在を疑う者はいない。

「強く結びついたのは近年じゃが、
5000年前からずっと見えない気付かないどこかで二つの世界は繋がっていたのじゃ。
輪廻転生。
その輪が崩れた時どうなるか誰にも分からんが、
自分の魂の行く末にも関わる問題じゃ。
よく考える事じゃな」

ミアの言葉に、群衆はざわめく。

そこに、渋井 誠治(しぶい・せいじ)が、
地球とパラミタの結びつきを明るくアピールする。

「オレはシャンバラで妻に出会って結婚できた!
オレも妻も地球人だけど、
パラミタって場所が無かったらきっと出会う事もなかったはずだ。
オレはパラミタと地球の繋がりに感謝している」
パートナーのヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)もうなずく。
「そうね。
パラミタが出現しなかったら、誠治に出会う事も無かったわ」
「ああ。それに、パラミタでラーメンの素晴らしさを広めることもできなかった!」
誠治が力説する。
「たしかに……。
こう寒いと、ラーメンが食べたくなってくるわね。
……じゃなくて」
ヒルデガルトに突っ込まれ、再び誠治は続ける。

「パラミタと地球は互いに支えあっている。いわば友達だ。
自分に都合が悪くなったからって、友達と縁を切るなんて事しないだろ?
むしろ互いに協力し合って、この局面を乗りきろうって思うはずだ。
オレたちには今まで培ってきた絆がある。
思い出してくれ。これまでどんな困難にも立ち向かえたオレたちには不可能は無いはずだ」

「幾多の困難な出来事に遭遇したけれど、
契約者とそのパートナーの力によってそれを打ち破ってきたわ。
だから、どんな事があっても大丈夫。
今、契約者ではない地球人には、もしかしたらこの気持ちはわかってもらえないかもしれない。
でもね、もしかしたらあなたにも出会うのを待っているパートナーがいるかもしれない。
未来はわからないわ。だから、私たちを信じて」

ヒルデガルトの言葉に、群衆は顔を見合わせた。
これから、自分たちも、パートナーに出会う可能性がある。
誰でも、契約者になる可能性があるのだ。
レキが言っていたように、
自分の子どもの世代や、友人が契約者になった者も大勢いる。

「今こそ、この絆の力で滅びを打ち破ろう!」
誠治の真摯な言葉に、
大きな拍手が巻き起こった。

また、チアガール姿の、
吉木 詩歌(よしき・しいか)
不知火 緋影(しらぬい・ひかげ)も、応援演説を行う。

「あの、しーちゃん、どうしてチアガールの格好をするんですか?」
「選挙の応援だからだよ!」
「こ、これは応援違いなんじゃないでしょうか?」
「いいから、一緒に頑張ろうよ」
緋影のツッコミを詩歌は笑顔で受け流し、演説を始めた。

「私は、パートナーの、ひーちゃんに出会ったことで、
両親を亡くした悲しみも乗り越えることができたの。
それに、パラミタでは、性別がわからない変わった存在である私とも、
別け隔てなく接してくれるたくさんのお友達に出会うことができた。
おかげで、とてもとても楽しくて幸せな毎日を送れているし、
パラミタに来なければ、学べなかったことがたくさんあると思う。
地球とパラミタが繋がったから、今があるんだよ」
詩歌は、緋影の手を取って語る。

契約者の文化は多様な存在を受け入れる素地があり、
詩歌も、たくさんの友人に囲まれているのである。

「地球とパラミタが今まで築いてきた関係は
そう簡単に切り捨てることができるほど薄いものだったのでしょうか。
あなたたちは共に歩んできた友を裏切るのですか?」
一方、緋影は、
パートナーのため、あえて厳しい口調で、群衆に訴えかける。

続いて、
蓮見 朱里(はすみ・しゅり)が、
歌姫としての名声とファンの集いで人々を集め、
応援演説を始める。
朱里は、激励やトランスシンパシーにより、人々の共感も集めようとする。

「地球とパラミタは、過去何度も滅亡の危機に瀕してきました。
しかしその度に私達は協力し、世界を守って来た実績があります。
両者の交流は経済、文化、人材のあらゆる分野で進み、
今では双方の血を受け継いだ新たな世代の子どもも生まれてきています。
そう、私達の娘のように」

朱里とパートナーのアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)の間には、
機晶姫の娘、ユノが生まれている。

「何より、今の地球とパラミタの強固な絆故に、
光条世界は強引に世界を滅ぼすことができない。
私は信じます。
今も世界を繋ぐ両者の絆が、「強制的な滅び」という理不尽な法則を書き換える可能性を」


契約者たちの、
パラミタでの多くの出会いや、
パートナーとの出会いについての演説。

そのまっすぐな想いは、人々の胸を打った。

また、朱里の言うように、
新しい世代の子どもたちも誕生している。
それは、多くの地球人にとっては孫の世代でもある。

そんな中、
アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は、
暴徒の警戒を怠らなかった。

【ミルザム後援会】のメンバーである、
グレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)による、
防衛計画で、選挙演説の会場を警備していたのであった。

(今ここで光条世界の圧力に屈することは、
先日の機晶エネルギーダウン事件のような暴挙を容認するということだ。
卑劣なテロを、断じて許すわけにはいかん!)
サクロサンクトにより、
アインは、襲撃からミルザムや演説に集まった人々を守るつもりであった。