校長室
終焉の絆
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戦いの裏で 玖純 飛都(くすみ・ひさと)はネットを通じ、ミルザムの対立候補たちについて探っていた。 「妙なのは、この候補たちの中に、これまでパラミタに対して好意的な動きをしていた者も含まれてるってとこだな」 「急な転換は周囲から突っ込まれてもいますね。まあ、不自然にならない理屈は用意していたみたいですけど」 飛都を手伝っていた矢代 月視(やしろ・つくみ)もまたネットを介し、情報を集めていた。 「ミルザム以外は皆、切り口は違っても結果的にパラミタとの関係に後ろ向きなものばかり。……こういうのもある」 と飛都が流した動画の中では―― 藤林 エリス(ふじばやし・えりす)がマルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)と共に、ミルザムの対立候補の応援演説をしていた。 『地球の皆さんが希望を託してパラミタに送り出した息子や娘達があそこで何をしているか、実態を知ってますか?』 概ねの主張は、パラミタ各学の契約者たちが地球各国の利権争いや国家神崇拝の結果のいわゆる「宗教戦争」の手駒とさせられているといっても良いのではないか、といったものだった。 『子供を戦争の道具に使う非人道的行為がパラミタでは常態化 しているのです! 挙句の果てに――都知事選を私的なゲームの宣伝に使い、私腹を肥そうなど都民を愚弄してるわ!』 「…………」 動画を眺めていた月視はガクッと肩を落とした。 「この動画はともかく、良い機会だと今までパラミタ……とりわけシャンバラに対し燻るものを持っていたヤツが、ネットのそこかしこで主張を強くし始めてる。世界を巡る状況の中心に置かれ、常に苦しい立場にあったシャンバラだ。叩けるところは多い」 「東京湾に繭が出現した西シャンバラ崩壊危機からこっち、機晶エネルギーダウンがあるまでは叩くための起爆剤に乏しかったでしょうし、溜まっていたのでしょう。東京にアナザーの怪物が出現した際も、シャンバラの契約者やミルザムのおかげで多くの人が助かっていましたし」 「機晶エネルギーダウンがあったことを使って、一気に噴出させようって考えだったってことだろう。今のタイミングで、そういう事をして得をするのはパラミタと地球の繋がりを疎んでるって話の光条世界。……光条世界と繋がりを持つグランツ教が関わってるんじゃないかと思って、様子を探るための質問を幾つか候補者側に投げてみたが……その辺は上手くかわされた感じだ」 相手から帰ってきたメールやコメントを画面に滑らせながら、飛都は軽く息をついた。 「候補者の後援会に、グランツ教絡みの人物が居るって情報が匿名であった」 不自然な点が幾つかあった。 この日本という国が真っ先にパラミタから離れようと動くことに。 元々パラミタの出現と開拓、建国からの交流によって最も恩恵を受けてきたのは日本であり、そうなるよう幾つもの苦労や無理を重ねてきた面もあった筈だった。 ラズィーヤ・ヴァイシャリーの実兄であるフィローズ・ヴァイシャリーが政界にパートナーを持ち尽力したことや、石原肥満の動きも大きかっただろうが。 日本。 多くの人が足早に行き交う駅前。 選挙カーの上では、スーツの男が高らかに演説を行っている。 そんな人混みから少し離れた喫煙スペース。 山田 太郎(やまだ・たろう)は、演説者を遠く見ながら嘆息した。 着慣れないスーツの首元を弄りながら思う。 今までパラミタからの恩恵を強く受けてきた日本へ反発心を強めている国は多い。 また、隙があれば取って変わろうとする国もだ。 「パラミタやニルヴァーナと切れた途端、世界中からそっぽを向かれるかもしれないってのにねぇ」 「そうならない、と約束されているんだろう。光条世界に」 太郎の隣に立ったフィローズ・ヴァイシャリーが言う。 その手には太郎達が揃えた資料があった。 太郎が山田 虎未(やまだ・とらみ)と共に、対立候補側の選挙事務所に出入りしながら探った情報だ。 それは、匿名で飛都たちにも送られている。 対立候補者の後援会の中などに、グランツ教と繋がりがあると言える者も居たというものだ。 「頂いた情報は然るべきところで使わせてもらおう。多少は彼らの勢いを削ぐことになるだろう」 それだけ残し、フィローズはその場から立ち去って行った。 「忙しいだろうに、律儀だねぇ」 人ごみの紛れていく彼の背中を見送り、太郎は煙草を消した。