リアクション
【2】大聖堂vs連合軍 4」
「な、なんですか……?」
機晶技術で造られた巨人兵が動かなくなったのを見て、ネフェルティティ・シュヴァーラ(ねふぇるてぃてぃ・しゅう゛ぁーら)は思わずつぶやいた。
一体何が起こったのだろうかと不思議に思ったのだ。だがすぐに、その原因が分かった。恐らくは本隊よりも先に突入していた工作班が機晶兵による警備システムを停止させたのだ。
その事を悟ったネフェルティティたちは、急いで先を目指すことにした。
工作班の働きを無駄にしてはならない。せめてその為にも、一刻も早く救世の間へ向かわなければ。
だがその思いはすぐに打ち破られることとなった。
本隊が神殿の奥間に近づいてきていることを察知した信者たちが、ついに進路の防衛機能を起動させたのだ。
そのおかげで次々と扉がロックされてゆく。更には敵も現れ、その行く手を阻もうと襲いかかってきた。
「わっちを本気にさせたら、痛い目見るでありんすよ!」
葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)が、その拳で敵をまず蹴散らす。
続けてハイナに付き従う紫月 唯斗(しづき・ゆいと)やリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)が、彼女の気合いに負けじと信者との交戦に入った。
「全てはハイナの意のままに戦う! リーズ! 力を貸してくれ!」
特殊任務用の陰陽装束を身に纏って、唯斗が前に出る。
「……しょうがないわね。どーせやるならドカンとぶちかましなさいよ!」
リーズがその後ろに続き、両方の手に握る二対の剣で敵を斬り倒した。
唯斗が放った拳は信者をふき飛ばす。翻った回し蹴りで相手を蹴り伏せ、更に闘気のパワーを爆発させた。爆破に巻き込まれた敵は一斉に弾き飛ばされる。その後円陣の真ん中にいたのは、闘気のオーラを纏った唯斗だった。
「へー、やるねぇ」
思わずにやりとする麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)である。
「感心してる場合じゃないですわ、由紀也。こちらにも来ますわよ」
瀬田 沙耶(せた・さや)が由紀也をたしなめ、敵に注意を向けさせた。
敵はすぐそこまで迫っていた。
「行きなさい、由紀也! わたくしが相手の動きを止めますわ!」
「はいはい、了解だよ、沙耶ちゃん。任せときなって」
沙耶が奈落の鉄鎖を用いて相手の重力に負荷をかけたところで、由紀也は十字型大銃の銃弾を敵に撃ち込んだ。
足下を撃たれて苦鳴をあげたところで、スピードを加速させた由紀也が迫る。相手はとっさに身を庇うが、由紀也はその足をすくって転げさせ、身体を押さえつけた。
「あんまりお痛しちゃあかんよ。大人しくしといてくれな」
あとは拘束してしまえば護送班の役目である。
のそのそと戻ってきた由紀也の腹に、沙耶がぽすっと拳を入れた。
「……ご苦労様ですわ」
ハイナの役に立てたのが嬉しいのか、沙耶は笑顔を見せている。それを見ていると由紀也も嬉しい。それだけで十分で、彼は沙耶の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「沙耶ちゃんに褒められて、オレは最高だ」
不思議な関係の二人だった。
その頃フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は敵の排除に努めている。
「悪いですが、貴方様方に幸せな未来が訪れるとは思えませぬね」
フレンディスは忍刀を用いて戦い、一閃して敵を斬り伏せた。その胸には過去のグランツ教と葦原明倫館の生徒との戦いの記憶があった。
決して許せる戦いではなかった。たとえそれがどれだけ未来とやらの道理を守ろうとしているものであっても、フレンディスには到底見過ごせるものではない。
それはフレンディスのサポートに回るベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)も同じで、厭なことばかり起こるものだと心に怒りを抱えていた。
(未来は常に分岐点だらけ……。平行世界の過去や未来がどれだけ最悪だろうが、それはどうにもならねぇことだ。でも……俺らがいま居るこの世界の邪魔をしようっていうんなら、絶対に手加減はしない!)
そんな決意を抱きつつ、ベルクは魔術支援に徹底した。
やがてフレンディスの刀とベルクの魔法が目の前の敵を掃討すると、扉の周囲には敵の姿は見当たらなくなった。
「防衛システムの破壊は内部工作班に任せるでありんす! わっちらは別ルートを探すでありんすよ!」
ハイナが告げたのは次なる命令。
フレンディスたちがそれに従わない理由はなく、総奉行の意思に沿うべくしかとうなずいた。
●
シャンバラの連合軍がアルティメットクイーンのいる救世の間へと急ぐその間。
『鋼鉄の獅子』部隊の
シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)と
ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)は、ルカ少佐から下された命令を遂行するべく単独で神殿内部へ潜入していた。
「こいつか?」
見つけた部屋を示しながらシャウラがたずねる。
「ああ。ここがグランツ教の機密情報を保管しているコンピュータ室だ」
ナオキが答え、二人はさっそく室内に乗り込むことにした。
入口にいた二人の見張りを当て身と銃床で気絶させると、すぐにコンピュータの操作基盤前に腰を据える。どうやらコンピュータは監視システムも兼ねているようで、壁一面のモニターには、各地の神殿内部の様子が映し出されていた。
「メモリは?」
「こっちだ。データを見つけるまでちょっと待っててくれ」
「了解。俺はなにか消された記録がないか復元してみるよ」
二人とも情報機械の操作が特別得意なわけではなかったが、専門分野に精通した契約者から解析ソフトも預かってきている。すぐにソフトが自動起動し、内部の情報を細部まで見逃さず漁ってくれた。
そのうち二人は、これまでのグランツ教の動向などを記録したデータも発見することが出来た。
「パラミタの
八龍だった
八岐大蛇を呼び覚まそうとしたり、
エリュシオン帝国の皇帝候補を巡る動乱を利用しようとしたり、あとは
葦原島自体に封じられていた
太古の怪物を復活させようとしたりもしてたみたいだ。全部、過去のグランツ教の陰謀だな」
「どうしてそんなことをしてたんだ?」
ナオキがたずねると、シャウラは記録の続きに目を這わせた。
「これによると、アルティメットクイーンが各地の国家神の力を手に入れる為に行ってた事だったみたいだ。どうやら各国の力を疲弊させる必要があったみたいだな」
「なるほどね……」
ナオキはうなずいた。それからすぐに目を見張った。
「おっと、こっちも面白そうな記録を見つけたぞ」
「うん?」
「
オーソンと名乗る
元ポータラカ人や、
光輝くものなんつーやつがグランツ教に協力してたみたいだ。この光輝くものってのは多分、
光条世界の使者……エルキナだろうな」
「こっちの知らない裏側で、いろいろ繋がってたってことだな」
シャウラが呆れたように言うと、ナオキは肩をすくめる。
二人は全てのデータを手に入れると、さっそくそれを連合軍本部で待っている
董 蓮華(ただす・れんげ)へ転送した。
後は本部の判断に任せることになる。二人が介入するのはここまでだ。シャウラは『鋼鉄の獅子』の本隊にも連絡を取ると、これから合流することを伝えた。
「帰ったらなななに言ってやらないとなー。俺の活躍はすごかったって」
「信じてくれるといいけどな」
くっくっと笑うナオキ。
「ひでー」
ナオキに文句を言いながら、シャウラはコンピュータ室を離脱した。