校長室
終焉の絆
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【2】決戦の烽火(のろし) 空京島の郊外。グランツ教団の本部である大聖堂(グランドテンプルム)を望む場所に、金 鋭峰(じん・るいふぉん)団長はいた。 金団長率いるシャンバラ教導団は大聖堂を取り囲んでいた。もはや完全包囲の陣で、グランツ教徒たちに逃げ場はない。しかし、一般の信者たちに無闇に手を出すつもりは金にはなかった。目的は大聖堂の奥にいるアルティメットクイーンとその一派だ。この混乱に満ちた世界でグランツ教に救いを見出した罪なき信者にまで、その罪状を問おうとは思わなかった。 金の傍には一部の直近の護衛たちと、『新星:リーディシュ』と呼ばれる部隊がいた。部隊のリーダーは香取 翔子(かとり・しょうこ)で、彼女はリーディシュの部隊を二分させ、一方を前線へ、もう一方を金の傍につかせて警護に当たらせていた。翔子もまた警護のメンバーである。 金団長はマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)大尉と沙 鈴(しゃ・りん)大尉に指示を出し、大聖堂から引き上げてきた一般信者の保護を命じた。すでに拠点の準備に取りかかっていた鈴とマリーはうなずき、信者の移送のために部下たちを連れて動きだした。前線へと兵を送り、数珠つなぎに信者の警備部隊を形成するつもりだ。準備は確実に、そして着々と進められていた。 一方、蒼空学園、葦原明倫館、ロイヤルガードといったその他の勢力は、教導団を中心とした協力体制を取り、同じように大聖堂を取り囲んでいた。 ロイヤルガード隊の拠点では、思い思いの武器を手にしたロイヤルガードの有志たちをテントの中で見つめるネフェルティティ・シュヴァーラ(ねふぇるてぃてぃ・しゅう゛ぁーら)がいた。そのネフェルティティのもとに、ロイヤルガードの一員の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が近づいてくる。 「ネフェルティティ」 ふり返ったネフェルティティの目に、真剣な表情の美羽が映った。 心なしかその顔は不安もにじませていた。これからの戦いへの、不安だろうか。 「アルティメットクイーンは、あの聖堂の奥にいるのかな?」 たずねた美羽を一度見返し、ネフェルティティは大聖堂へと視線を動かした。 「……恐らくは」 そう言ったネフェルティティの顔は苦々しさも噛みつぶしているようだった。 「グランツ教の教祖アルティメットクイーン。彼女を倒さなければ、この戦いも終わりには向かわない」 ネフェルティティは自分自身にそう言い聞かせているようでもあった。 美羽はうなずいた。力強く、確かに。そうすることで、自分の決意を新たにする気持ちだった。 葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)率いる明倫館の同志たちは、今か今かと待ちわびていた。 そしてやがて全ての準備が整ったハイナが同志たちに決起の声をあげると、彼らは一斉に雄叫びのような気合いの声をあげた。 血気盛んな明倫館の同志たちだからこそ出来る、たぎるような声。総奉行ハイナについていこうと決意した武士(もののふ)どもの決断の声だった。 そこに紫月 唯斗(しづき・ゆいと)、麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)、スウェル・アルト(すうぇる・あると)といった面子が揃っている。 リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)は唯斗についてきたようで、由紀也はハイナに憧れる瀬田 沙耶(せた・さや)と連れ立ち、アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)はスウェルとともに悪党退治に乗り出した気分でいた。 全ては戦いを終わらせるためだった。グランツ教の悪事を、止めるため。 「わっちに続くでありんす! グランツ教の悪事をこれまでにさせるでありんすーっ!!」 ハイナのかけ声に、同志たちの雄叫びが再びあがった。 それは、空へと届く雄叫びだった。 シャンバラ教導団の軍隊の中には『鋼鉄の獅子』と呼ばれる集団がいた。 メンバーはルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)、クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)、シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)、セレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)、桜花 舞(おうか・まい)、董 蓮華(ただす・れんげ)で、それぞれ契約のパートナーと教導団の兵士たちを引き連れている。 『鋼鉄の獅子』の目的はアルティメットクイーンの捕獲にあった。蒼空学園やロイヤルガードたちと共闘しているシャンバラ教導団だが、その目的は個々によってそれぞれ違うと言える。中にはアルティメットクイーンの命を奪おうとする過激な一派もいるだろう。ルカはその為に、なによりも早くアルティメットクイーンの身柄を保護しなくてはと考えていた。 「ルース」 「ああ、わかってる。護衛は任せときな」 ルカの呼びかけに、ルースは銃を掲げることで答えた。 二丁一対の魔銃デュアルエッジである。実弾ではなく、機晶エネルギー弾を発射出来る特別製の拳銃。背合わせにすると三日月の刃が浮かびあがる意匠は、ルースがこの拳銃を気に入っている一つの美徳でもあった。 「シャウラ」 ルカに呼びかけられたシャウラは無言でうなずく。それからパートナーのナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)とともに隊を離れた。 シャウラはまだ軍歴が浅いが、その才能をルカは買っていた。部隊を離れたのには特別の任務がある。ナオキとともに、別行動に移ったのだった。 その他、セレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)や董 蓮華(ただす・れんげ)にも、ルカは別行動の命令を下した。 もちろん全てはアルティメットクイーンの保護のためだった。獅子は個々の誇りを持ち、時に鋼鉄となって一つの絆の為に挑む。 それからルカは、自らが若い時から鍛え上げてきた精鋭部隊の『獅子の牙』や、直近の部下たちに命令を下し、一部の兵団を斥候として前線へ送り出した。残された者はルカとともに教導団の突入と同時で行動を開始する。 (みんな、任せたわよ――) ルカの希望を背中に乗せて、獅子たちは大聖堂を見据えた。 『新星:リーディシュ』や『鋼鉄の獅子』以外にも、金団長は複数の偵察部隊を大聖堂へ送りこんでいた。 それが『伝書鳩』と呼ばれる部隊と、叶 白竜(よう・ぱいろん)を筆頭とした特殊工作を得意とする契約者たちだった。 『伝書鳩』はシャンバラ教導団内でもまだあまり知られていないチームで、今回の作戦においては内密にその行動が決定された。アルティメットクイーンのもとへたどり着くためのアシストだけでなく、連絡や内部工作も請け負っている。教導団内を練り歩く便利屋のような立場を確立していた。 金は内部工作班の合図を待っていた。 すでに突入の準備は整っている。あとはタイミングを待つだけだ。 やがて、静寂が辺りを包み込み、静かな時の流れの音を聞く。そのとき、大聖堂から爆発が起こった。 今だ! 金団長が合図を送ると、シャンバラの連合軍はいっせいに行動を開始した。 「突入せよッ――!!」 決戦の烽火が、あがった。