空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


祈りよ届け 2

 儀式場として用意された範囲は広大で、端から端が見えない程だった。
 あらかじめ儀式場の状況を聞いて、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は唸った。
「これでは、儀式場の何処かで襲撃があっても気付かないですね」
「襲撃のあった近くにいる人達で、各々対処して行くようですわね」
「……」
 そこで陽太は、集まった契約者達に通信機器を配布、サーバを調達して各人が儀式場全体の現状を把握できるように、最新情報を表示するデータベースを構築した。
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、特殊作戦部隊員達に、通信機器の配布作業、現状把握と情報発信を担当させて手伝う。
 これで、手薄な場所に魔物の襲撃があっても、他からフォローに回ることも可能だろう。
「そういえば、ハルカも此処に来ていると言っていましたわね」
 エリシアは、この儀式場の何処かで支援活動をしているハルカ・エドワーズ(はるか・えどわーず)のことを思い出し、通信機器のテストを兼ねて激励を送った。
『ハルカ、ここが正念場ですわ。お互い頑張りましょう』
 程なくして返信が返り、文面を見てエリシアは微笑む。システムの調子も良さそうだ。
 この後は、儀式場の、戦闘が起きている場所、非戦闘員を誘導できる場所、それらを随時管理して、特殊作成部隊員達が、配布した機器へ、絶えず情報の更新を送り続ける。
「さあ、わたくし達はわたくし達の仕事を、戦いをいたしますわ」
 エリシアは部隊員達に指示を出しながら、呟く。

「調子はどう?」
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が、通信システムの最終確認をしている陽太の様子を見る。
 環菜であれば、自宅を儀式場の分所にすることも不可能ではなかったが、陽太と共に、契約者達の集まる儀式場に行くことを選んだ。
 陽太は、子供をパートナー達に預けて、儀式場に赴き、二人の護衛として、エリシアもそれに随伴した。
 契約者達の思いと力を信じている。だから、同じ場所で共に祈りを送りたい、そう思ったのだ。
「準備は終わりました」
 陽太は微笑んで、環菜の隣に立つ。どちらからともなく手を重ねた。
 この愛しいぬくもりを、絶対に手放さないと、失わないと誓った。
 想いは、いつだって自分の中で一番強い場所にある。
「……俺達の未来、陽菜の為にも、絶対に切り開きましょう!」
 環菜は陽太を見つめ、微笑んで、深く頷いた。


 儀式場の一角、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)達の居る区域には、今のところはまだ、魔物の襲撃の気配はない。
 だが、いつ魔物の襲撃が来るかもしれない儀式場には、何処にいても、独特の緊張感が漂っていた。
 周囲には猛者も多く、襲撃に備えていたが、戦う力を持たず、足手まといになるかもしれなくても、それでもこの思いが、絶望的な状況を覆せると信じて集まった者も多い。
「ハルカ?」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が見覚えのある姿を見つけた。
 呼ばれたハルカが振り返り、さゆみ達二人に気付いて手を振る。
「あなたもいらしていたのですね」
「はい。ハルカも皆とお手伝いなのです」
 ハルカの笑みに何処かほっとして、二人は、自分達も無意識に緊張して身を強張らせていたことに気がついた。
「空気がピリピリしてるわね……」
 さゆみは、深呼吸をひとつして、気を落ち着ける。
 いつ魔物の襲撃にあうかもしれないという恐慌状態で、ヤケを起こして暴れだす人が出ないといいのだが。
(私達も非戦闘員だけど……祈るだけじゃなく、何かの役に立てれば……)
 そんなことを考えたさゆみの手を、アデリーヌがそっと握った。
 見ると、さゆみの思いを解っているかのように、アデリーヌは頷く。
「さゆみ……わたくし達は、『シニファン・メイデン』ですわ」
 僅かに目を見開いて、さゆみは微笑んだ。
「ええ、そうね……そうだったわ」
 この場を鎮める為に、自分達にできること。
 そう。今はコスプレはしていないけれど、自分達はアイドルだ。
 歌で、人々の心に訴える。そういう存在でありたいと願いながら、活動してきた。
 さゆみとアデリーヌは、互いに思いを分かち合うように、繋ぐ手にそっと力を込めた。そしてどちらからともなく歌い出す。
 最初は、鼻歌のようなハミングから。
 やがて即興の歌に合わせて、二人の歌声はハーモニーとなり、その祈るような希望の歌が、儀式場に流れ、人々が聴き入る。
 凝り固まっていた空気が解れていくのが分かった。
 さゆみとアデリーヌは見つめあい、微笑んで、周囲を見渡すようにしながら歌い続けた。
 歌の形を成したこの祈りが、力になることを信じて――


 ヒマワリ。朝顔。カンパニュラ。コスモス。百合。ペチュニア。
 聖地モーリオンにエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が植えた花は、夏の様相を呈している。
「ああ、皆素敵に咲いてくれて嬉しいよ」
 植物達の中に、生命の息吹を感じる。
 花に緑。鳥のさえずり。虫の声。荒れ果てていたこの地が精彩を放っていることを嬉しく思う。
「少しずつ、賑やかになっているのは、良いことだね」
 見渡すエースに、モーリオンの地祇、もーりおんがこくりと頷いた。
 相変わらず感情が表に出ていないが、今ではエースには、もーりおんが嬉しそうにしているのが解る。

「のんびりしている場合ではないだろう、今日は」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の呆れた声に、そうだった、とエースはもーりおんに向き直った。
「今日は、世界産みの力になるよう、お祈りしたくて此処に来たよ。
 もーりおんも一緒にお祈りしよう」
 エースがもーりおんを儀式場に誘わず、この地で祈ることにしたのは、地脈で繋がる他の聖地にも、この祈りが届けばいい、という希望があるからだった。
 今、残っている聖地は此処とカルセンティンのみだが、きっと伝わってくれると信じている。
 各地の儀式場には魔物の襲撃があるというから、祈りを捧げることによって、魔物を呼ぶかもしれないという危惧もあったが、例え襲撃があっても、もーりおんのことは護ると誓っている。
 メシエは聖地を見渡した。
「……聖地の護人達が居なくなってしまったのは、未だに残念なことだが」
 地脈のパワースポットであるこの地には、強大な力が溜まっている。
 その守り人は殺され、かつてその後継を申し出たエースは、守り人となった者は一生この地を離れることができないことから断念した。
 その縛られし運命を受け入れていた守護の一族も共に死に絶え、今、この地を守護する者はない。
 エース達は此処を訪れる度に、この地が荒らされていないことを確認して安堵していた。
 せめて此処に生い茂る植物達やそれに集う動物達が護人の役目を果たして行ければ、とメシエは思う。
 不思議なものだ。
 エースと出会ったことで、古王国時代から抱えていたマイナスの感情はいつの間にか氷解していた。
 地球人達との出会いは、悪いことではなかったと、今なら考える。

 もーりおんは少し考えて、エースの手を引いた。
 立ち止まった場所は、エース達が、もーりおんを発見した場所だ。
「成る程、力の集まる、聖地の中心ですか」
 メシエが頷く。
 確かに此処が、祈りを捧げるのに一番相応しい場所だろう。
 エースはもーりおんに頷き、両手を取って、共に祈りを捧げる。
 百年後、千年後も此処や他の聖地、そして連なる大地が生命と活気に溢れていて欲しいと。


「ん〜、どこで祈ればいいのかな?」
 カッチン 和子(かっちん・かずこ)はあごに手を当て、首をかしげる。
「そんなの適当でいいんじゃないの?」
 和子の肩に乗っかっているボビン・セイ(ぼびん・せい)はため息をついた。
「だって、一番効果のありそうなところで祈りたいじゃない」
「そう言って、もう30分以上うろうろしてるように思うんだけど?」
「それだけ、重要なことなんだもん! って、あー!!」
「な、なんだよ! 突然大声出すなよ。鼓膜が破れたらどうしてくれるんだ」
「だって、ほら、あそこ!!」
 和子の指差す先へと視線を向けるボビン。
 そこには、和子と同じくうろうろしているホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)の姿があった。
「ホイップさーん!」
 和子がそう叫び駆け寄ると、ホイップは声の方を振り向く。
「和子さん!」
 ホイップも和子へと駆け寄り、ふたりは手を取り合い、飛び跳ねながら喜ぶ。
「ホイップさん、久しぶり! ホイップさんもここに来てたんだね」
「うん、久しぶり。和子さんに会えると思ってなかったから、すごくうれしいよ」
「俺もいるんだけど?」
 和子の肩の上からちょっとむくれたボビンが主張する。
「ご、ごめんね。久しぶり、ボビンさん」
「うん、久しぶりー」
 それで満足したのか、ボビンは腕を組んでこの状態を見守ることにしたようだ。
「ホイップさんは今までどうしてたの?」
「私は、新しい薬の研究をしたくて色々な場所へ行ってたの。まだ発見されてない薬の材料とか見つけられたらいいなって思って」
「そっかぁ」
「和子さんは?」
「ん〜、あたしは歌ったり、動物たちと遊んだり、ボビンに遊ばれたり……」
 和子は黙ってうなずいているボビンのほっぺをつんとつついた。
 嫌そうにつつかれた指を払うボビン。
「ふふ。和子さんらしいね」
「ありがとう! ね、ホイップさん、提案があるんだけど聞いてくれる?」
「うん、もちろん」
「あのね、全部、ぜ〜んぶ落ち着いたらまたケーキを食べに行ったり、海とか山とかキノコとか……色々やろうよ!」
 とびきりの笑顔でそう言う和子に、この状態に緊張していたホイップの心もほっこりと温かくなる。
「うん! いっぱい遊ぼうね」
「じゃあ、やることやっちまわねぇとな」
 ボビンの言葉にふたりは頷く。
「あれもやりたい、これもやりたいと思って、まだ何にもなれてないけれど……この世界を想う祈りは本物だから」
 和子が真剣な瞳でホイップを見つめる。
「うん、私も……。みんながいるこの大切な世界をこのまま終わらせたくないって思うよ」
 ホイップはにっこりと和子に笑いかけた。
(かったるいけど、この世の中がなくなっちゃ面白いこともなくなっちまうもんな。そんなつまんない世界は勘弁だよ)
 ボビンもため息はひとつため息をつく。
 3人は世界のために真剣に祈るのだった。