空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


この大地とともに 1

ツァンダ東の獣人の村にて。

「ずいぶんとひさしぶりだな」
白砂 司(しらすな・つかさ)は、
「獣人文化歴史資料館」館員たちとともに、
村の様子を見て回っていた。

村の様子はのどかなもので、
とても、世界の危機にあろうとは思えないような状況だった。

今のところ、各地に出現している、
モンスターの襲撃も受けてはいない。

「でも、「獣人文化歴史資料館」ができてから、といいますか、
村が再興してから3年。
ようやく、皆、落ち着いてきたところなんです。
こんな時に消されたらたまったもんじゃないですよ」
サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が、拳を握りしめる。

「ああ、俺達がいれば、この村を守ることはできるだろう」
司がうなずいた。

村の獣人たちも、皆、司とサクラコのことを、頼もしく思っているようだった。
2人は手練れの契約者であり、
仮に、ドラゴンが襲ってきても撃退することができるだろう。

「よかったのですか?
この村のために……」
「獣人文化歴史資料館」の館員のひとりが、おずおずと言った。
この春に、新たに加わった館員であるらしい。

司がうなずいた。
「俺達は、ここにいたいと思ってここにいる。理由はそれだけで充分だろう」
「そうですよ。
この村の歴史を見守ることも、獣人文化歴史資料館創設者である、
私たちの務めですからね。
だから、一緒に祈りましょう」
サクラコも微笑を浮かべ、同意する。

獣人たちは、大地にひざまずいて、
シャンバラの大地とともに生きるものの流儀で、祈りを捧げはじめる。
司とサクラコも、ともに祈る。

それは、この世界で共に生きていくと、改めて決意を表すことでもあった。




孤児院にて。

「さあ、みんな、飯ができたぞ!」
弁天屋 菊(べんてんや・きく)が、
子どもたちを呼び寄せる。

カレーや豚汁、鳥の詰め物やデザート、
それに、パラミタトウモロコシのスープなどなど。
育ちざかりの子どもたちが、
祈りを捧げる間、お腹を空かせないように、菊が趣向を凝らして用意したメニューだった。

「なんだか、クリスマスみたいだ」
ごちそうを前にして、レッテが笑う。
孤児院ができてから何年か経ち、子どもたちもだいぶ大きくなっていた。
それでも、まだ、子どもであるには違いない。

「すげえ。これ、全部、食べていいのか?」
アキラがテーブルに乗り出して言った。
「ああ、もちろんさ!」
菊が笑みを浮かべる。

「ちゃんと、手を洗ってからにしろよ。
他の小さい子もいるんだから」
テアンが言う。
「わかってるよ。そのくらい。
でもさ、クリスマスって言うと思いだすよな」
アキラに、レッテがうなずいた。
「うん。あのときは、すっごく楽しかった。
今日も、せっかく、皆が来てくれたんだし、そういうふうに過ごせるといいな」

「クリスマスと言えば、祈りを捧げる、という点では同じかもね。
でも、ただ祈るというのも難しいね。
祭壇とかお供えとか何か形を作ったほうが集中しやすいかな?」
親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)が、提案すると。

「だったら、クリスマスツリーを作る、というのはどうかな。
皆で飾り付けを作るんだ。
手直にある紙の輪っかみたいなのでも、つなげれば綺麗になるんじゃないかな」
レッテが、そう言うと、
チエが、うなずいた。

こうして、孤児院での、クリスマスツリー作りが始まった。

「冬の間は農作物が取れないから、
民芸品みたいに、こういうツリーやリースを作って売れないかな」
テアンがそんなことを呟いている。

早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)は、
チエと一緒に、折り紙を折っていた。
(思っていたよりも、皆が元気でよかった。
でも、世界の終焉が迫っているなんて、この子たちも不安なはず。
一緒にいてできることをしてあげたい)

チエが、折鶴を完成させて、あゆみに見せ、笑いかける。
あゆみは、チエの髪を優しく撫で、微笑を浮かべた。
「よくできたわね、チエちゃん」

あゆみの周りには、他にも小さい子たちが集まっている。
「みんな、『希望』って何かしら?」
子どもたちはきょとんとするが。
「今まで楽しかった事はどれくらいある?」

「「「いっぱいある!」」」
子どもたちは、口々に答えた。

そうね、と優しくうなずき、あゆみは続ける。
「明日は何が起こるか分からない。辛い事や悲しい事があるかも知れない。
でも、楽しい事や嬉しい事もきっとあるわ。
明日何に会えるかな、今度はこういう事をしようって、ワクワクしながらベッドに入るのも
希望だと思うのよ」
あゆみの言葉に、チエがうん、とうなずいた。

「ここの皆も、それぞれ、将来、やりたいことができてきたんだ。
昔、地球に行ったこともあったけどさ。
契約者の皆を見てて、自分の道は自分で切り開いていきたいって思ったんだ」
レッテが言った。

「そうね。みんな、だんだんと大人になっているのね」
「もうとっくに大人だよ」
レッテが胸を張る。
「チエも、夢があるんだろ?」
「……ん、どうしたの?」
レッテに言われて、チエが、あゆみの袖をそっと引っ張った。

そして、チエは、そっと、あゆみにだけ、耳打ちをする。
「……そう。いつかきっと叶うわ」
あゆみは笑みを深くしてうなずいた。

「えーと、メリークリスマス、じゃなくて、
こういう場合はなんていえばいいのかな?
まあ、とにかく、お祈りの前に、おやつ食べようね〜」
メメント モリー(めめんと・もりー)が、
パーティー用の帽子をかぶり、
籠に一杯の焼き菓子を手に現れる。
この焼き菓子は、あゆみが手作りしたものだった。

「って、皆、順番、順番!
げ、元気だねえ……」
モリーは、あっというまにお菓子をねだる子どもたちにもみくちゃにされた。

「おい、レッテ、もう大人なんじゃなかったのかよ」
「うるせえ。アキラだって」
レッテもアキラも、じゃれ合いながらお菓子を頬張っている。


そこに、空から、一頭のペガサスが舞い降りる。
太神 吼牙(おおかみ・こうが)の乗る、ハーシェルだった。
子どもたちは、
わあ、と歓声をあげて、外へと駆けだしていく。

「いつもお世話になっている、
王 大鋸(わん・だーじゅ)さんのお役にたてればと思って、ここに来ました」
月見里 迦耶(やまなし・かや)が言った。

「もし、モンスターが来ても、
オオカミさんがハーシェルに乗って戦ってくれます。
ですから、安心してくださいね」

迦耶が笑顔で言う。
そして、子どもたちに、持っていたお菓子を差し入れる。

「どうもありがとう。
こういうのを盆暮れ正月が一緒に来た、って言うのかな。
ちょっと違うか」
テアンがお菓子を受け取り、言った。

吼牙も、子どもたちに囲まれ、
「ペガサスかっこいい! すげー!」
「一緒に乗せて!」
などとせがまれて、いつもながら無口だが、まんざらでもなさそうだった。

「私たちも一緒に祈ります」
迦耶が言い、
一行は、子どもたちと一緒に、クリスマスツリーの周りに集まった。

一行は、子どもたちとともに、祈りを捧げる。
平和で穏やかな日々が続くことを願って。
そして、子どもたちの未来が明るく、希望に満ちていることを願って。