空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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この大地とともに 4

 東カナンにあるカナン儀式場にも、怪物の群れは押し寄せてきていた。
 ここで祈りを捧げればきっと自分たちの願いが届くと信じてこの地に集う人々、そして危険と知りながら集おうとしている人々を守るべく、東カナン領主バァル・ハダド(ばぁる・はだど)は東カナンの誇る精鋭騎馬軍団のみならず、通常ならば都の守りとして置かれる騎士たちまでも投入していた。そして自身もまた儀式場へと赴き、戦列に加わっている。
 儀式場からそう遠くない位置に本部を設営し、そこに各方面に配した将軍たちから入ってくる報告を受けていると、ふいに上空から何かが来る気配を察知して、バァルは顔を上に向けた。
「バァルさん!」
 太陽を背にした龍の形の影から、セルマ・アリス(せるま・ありす)の声が降ってくる。キラリと反射光がまぶしく目を射て眇めた一瞬に、その背中から人影が飛び降りて着地した。中国服をまとった少女だ。
「バァルさん、シャンバラから支援に来ました」
 シャオ――セルマのパートナーの中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)は、バァルの前に進み出るとはきはきとした声で告げる。
「上空からこちらの様子を観察させていただきました。セルマや陣さんたちはそれぞれ、西と北西からこちらへ向かっている怪物の数に対して防備が若干手薄になっていると判断し、このままそちらの支援へ向かうつもりです。ですが、バァルさんにお考えがあるのでしたらそれに従い、そちらへ向かいます」
「いや。わたしも今、そちらへ兵を向かわせようとしていたところだ。きみたちが受け持ってくれるなら助かる」
 バァルの言葉にうなずくと、シャオはすぐに上空のセルマたちに連絡をとった。
 魂の双龍ガルモニの背中でそれを受け取ったセルマは、「分かった」と答えて高柳 陣(たかやなぎ・じん)たちの方を向く。
「じゃあ俺は予定どおり北西へ行くよ」
「了解。
 ヘマすんなよ、セルマ」
 陣の、ぶっきらぼうな気遣いに笑みを見せてから、セルマは龍の咆哮でガルモニに指示を出した。ガルモニはセルマがシャオの様子を見ることができるよう、儀式場の上を大きく旋回してからセルマの指示どおり北西へと向かう。
 地上に濃く影を落とす龍の影。そして動こうとしない2つの影に気づいて、バァルは再びそちらを見上げる。それは陣の乗る小型飛空艇ヘリファルテとティエン・シア(てぃえん・しあ)の乗るフラルだった。
「陣……ティエンか?」
 バァルがつぶやく声は、遠く上空のティエンの元までは届かない。
 見上げてくるバァルに向かい、ティエンはつぶやいた。
「バァルお兄ちゃん。僕ね、お兄ちゃんに出会えて本当に良かった。
 僕、今とっても幸せだもの。ありがとう、お兄ちゃん」
 バァルお兄ちゃん、アナトお姉ちゃん、アルサとエル、東カナンのみんな。
 僕の大切な人達、そして僕のもう1つの故郷……。
 熱くなった胸に、そっと手をあてがう。
 祈るようなティエンの姿を黙って見つめていた陣は、北西の方で起きた光と怒涛の攻撃音に、そちらへと目を向けた。蜃気楼のようなドラゴンの姿が空に一瞬垣間見える。セルマのレギオン・オブ・ドラゴンだ。
「始めたか。俺たちもうかうかしてらんねーな。
 さあ行くぞ、ティエン」
「うん」
 陣はヘリファルテの機種を西へ巡らせたあと、並んできたティエンに言った。
「いざというときは、俺に構わずバァルたちを助けに行くんだ。
 おまえが守るって決めた地だ。そこんとこ、真っ直ぐ貫けよ、ティエン!」
「お兄ちゃん……」ティエンの面にだんだんと笑顔が広がる。「大丈夫だよ。バァルお兄ちゃんは、弱くないもん。絶対、あんな怪物たちなんかに負けたりしないよ!」
 バァルお兄ちゃん、またあとで会おうね!
 ティエンはフラルの上から、バァルが見えなくなるまで元気よく手を振り続けた。
「……それで、バァルさん」
 上を見ていたバァルに、ためらいがちにシャオが声をかける。
「オズ……あの、オズトゥルク・イスキア騎士長は、どちらでしょうか?」
 オズが自分のことをどう話しているか分からない。しかもこの緊急のさなか、こんな私事に走ってもいいのだろうか……揺れるシャオの胸の内を見抜いてかどうかは分からないが、バァルは笑みを浮かべると、「オズはその階段を下りた先で正面入口を守っている」と答えた。
「ありがとうございます!」
 聖獣たちとともに、教わった階段を駆け下りて行く。下はフロアになっていて、イスキアの騎士たちとともにいるオズトゥルクの姿があった。彼はとても大きいので、とても目立つ。
「シャオ?」
 入口はここだ。一体いつの間に? と、突然上の階から下りてきた彼女にまだ驚いている様子のオズトゥルクに少し笑いを誘われながら、その前に駆け寄った。
「オズ、支援に来たわよ」
「……むう」
 これまでにも見てきたから彼女の力は知っている。しかし何もこんな危険な場所へ、と眉を寄せるオズトゥルクを笑って無視して、さっさとシャオは入口に向かうとそこを中心として救済の聖域を張った。
 発光する魔法陣がシャオを中心として周囲に広がり、その内側にいる者たちを癒していく。
「あなたも、あなたの子どもたちも、守るから」
 外階段に押し寄せてきている怪物たちと、それを押し戻そうとしている兵士たちを見下ろしてシャオは言う。
「私のことは心配してくれなくていい。私が無事でいるよう祈ってくれてれば、それでいいわ。
 さあみんな、ついて来なさい!」
 聖獣アルミラージ、麒麟を従えて、シャオは外階段を駆け下りて行った。
「――おまえだけ行かせるか! オレも行くぞ!」
 オズトゥルクが武器を手に飛び出してくる、そんな声を聞きながら。