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リアクション
大切な人、大切な場所 1
ヴァイシャリーの儀式場にて。
琳 鳳明(りん・ほうめい)は、ある人の姿を探していた。
きょろきょろと周囲を見回す鳳明に、
セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が、
溜息をつきつつ言う。
「そんなに気になりますか?
何なら、ワタシが連絡をとってさしあげましょうか?」
「え、な、な、な……」
鳳明は、フェイントに動揺しながらも、応える。
「い、いいよ!
だって、大丈夫だって、信じてるから」
鳳明が気にしているのは、
想い人である、リンス・レイス(りんす・れいす)のことだった。
片思いの相手であるリンスから、
まだ、鳳明は返事を告げられていない。
(私ってば、この期に及んで女々しいというか何というか……)
そう思いながらも、儀式場に集まる人の中から、
リンスを探すことはやめられない。
「あ……」
工房での普段の姿のまま、リンスは、儀式場にいた。
おそらく、他の友人達と一緒に、避難してきているのだろう。
そして、皆と一緒に、祈りを捧げるのだろう。
「よかった。ここに居れば、大丈夫だね」
「話をしなくてもいいのですか?」
鳳明はセラフィーナに問われ、首を左右に振った。
「だって近くで話したら、
もう傍から離れたくなくなっちゃうよ……」
その時、リンスの視線がこちらに向いているのに気付き、
鳳明は、驚きに息を飲む。
リンスが、軽く手をあげて、こちらに向かって手を振ってくる。
鳳明も、慌てて、手を振りかえす。
それは、一瞬のことだったけれど。
リンスのわずかな笑みを見て、鳳明も小さな笑みを返した。
再び、大勢の人々の中にまぎれていくリンスの背を見送り、
鳳明は、息を吐いた。
大切な人は、ひとまずは安全な場所にいる。
そして、これから戦いに向かう自分を気にかけてくれた。
(任務中だから、私に気を使って、
遠くから合図するだけにしてくれたんだね。
どうもありがとう。
どうか、皆の無事を祈っててね。
まだもらってない返事をもらうためにも……私が守るよ!)
ぱん、と両手で自分の頬を叩き、
鳳明は前を向いて歩き出す。
セラフィーナは、戦場に向かうパートナーの顔が、
すっきりとしたものになっているのを見て、言った。
「生きて戻って、その時に彼から告白の返事を貰いましょう。
……さあ行きましょう、ワタシ達の教導団としての最後となる任務へ」
「うん、たとえ、答えがどんなものでも、
これからの未来、ずっと笑っていてほしいから!」
鳳明は、まっすぐと前だけを見て、歩いて行った。