空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


大切な人、大切な場所 6

「キャーーー!」

 突然の女性の悲鳴に、開港したばかりの広城国際空港のロビーを行き交う人々は、一斉に悲鳴のした方向を見――そして、そこに信じられないモノを見た。

 身の丈、3メートル以上はあろうか。
 額から節くれだった長い角を生え、耳まで裂けた口からナイフ程もある牙が覗いている。
 全身の筋肉は小山のように盛り上がり、腕の太さは丸太ほどもあるだろうか。
 深く落ち窪んだ眼窩の奥では、紅い、どこまでも紅い瞳の無い目が、怪しい光を放っている。
 そんな、見る者を慄然とさせずには置かない鬼の群れが、近代的な空港のロビーに、何処からともなく現れたのだ。

「か、怪物だ!」
「逃げろ!」
「キャーーー!」

 慌てふためき、パニックに陥りながら、我先にと逃げていく利用客達。
 その騒動を目にした御上 真之介(みかみ・しんのすけ)は、すぐに状況を理解した。

(どうしてこんな所に、創造主の魔物達が……。しかも、一体どこから!?)

 創造主の狂気が産み出した魔物は現在世界各地に出没しているが、いずれも、人々が祈りの為に集まる儀式場にしか現れていない。
 御上自身、その対策を議論する国際会議に出席する為、空京行きの飛行船に乗り込む所だったのである。
 五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)は腹心の神狩 討魔(かがり・とうま)なずなを連れ、一足先に会議場へと向かっている。

 
「先生!」

 突如現れた鬼から御上を守ろうと、黒のタイトスーツに身を包んだ泉 椿(いずみ・つばき)が彼の前に立つ。
 初めて御上にあったあの日から、幾度と無く御上のピンチを救ってきた少女は、一人の女性となった今でも、御上専属のSPとして、彼を守り続けている。
 
「椿さん、椿さん。僕はもう先生じゃないよ」
「ご、ゴメン、つい……」

 苦笑混じりに御上にツッコまれ、思わず顔を朱くする椿。
 今の御上は、先日成立したばかりの四州共和国連邦の要人である。
 頭では分かっているのだが、イザという時になると、どうしても学生だった時のクセが出てしまう。

「椿さん。今はとにかく、アレを何とかしてくれ。僕が援護する」
「でも、真之介さんを一人にする訳には……」
「大丈夫よ、椿」
「緋月!」
「遅れてごめんなさい、御上さん」

 こちらも同じくタイトスーツに身を包んだ緋月・西園(ひづき・にしぞの)が、ヒールの音も高らかに駆けつける。
 緋月も御上の秘書として同行する予定だったのだが、予想以上に打ち合わせが長引き、空港への到着が遅れたのだ。

「御上さんは私に任せて、椿はあの鬼達を」
「椿さん!怪我人が出る前に、何としてもあの鬼を!」
「分かった!ハーーーーッ……」

 拳を握り脇を締め、大きく呼吸して気合を高める椿。
 《エナジーコンセントレーション》で極限まで高まった気の力により、椿の身体が、眩い光を放つ。

「ハアッ!!」

 気合の声と共に、《軽身功》で一気に敵に向かって突っ込んで行く椿。

「喰らえっ!」

 敵の内懐に入った椿は、必殺の《雷霆の拳》を見舞う。
 目にも留まらぬ早さで繰り出される拳が、鬼たちの強靭な身体を打ちのめし、甚大なダメージを与えていく。

「警備員!鬼の相手は彼女に任せて、利用客の避難誘導を!」
『は、ハイ!』

 事前に《根回し》してあった専用回線を使って、空港の警備主任に無線で指示を出す御上。

「君達は、椿さんの支援だ!敵を足止め出来れば、それでいい!」
「了解!」

 他のSP達が、御上の《指揮》に従って散開し、銃撃を始める。
 たちまち降り注ぐ弾丸の雨。
 その弾丸を物ともせず、椿は一人戦い続ける。
 《歴戦の防御術》を体得し、《肉体の完成》を達成した彼女は最早、流れ弾程度では傷一つ負うことは無い。


「せいりゃあああ!」

 《歴戦の必殺術》で、一人、また一人と、鬼達を屠っていく椿。

 鬼達も何とか椿に一矢報いようと、必死に拳を振るうのだが、軽身功で舞うが如く戦う椿に、ただの一撃も加える事が出来ない。

 
 そうして、数匹が倒されただろうか。
 とうとう鬼達の一匹が、椿に背を向けて逃げ始めた。

「逃しはしないわ――光よ!」

 その動きに気付いた緋月が、鬼に《光の洗礼》を浴びせる。

「グガガガッッ!」

 そのあまりの眩さに、目を押さえてたたらを踏む鬼。

「炎の嵐よ!」

 緋月はその気を逃さず、すかさず《ファイアストーム》で畳み掛ける。
 ロビーの天井まで立ち昇った炎の嵐に包まれ、生きながら炎の柱となった鬼は、苦悶の声を上げながらのたうち回っていたが、やがてバッタリと倒れ、動かなくなった。

「これで――終わりだぁ!」

 椿の渾身の回し蹴りを延髄に受けた最後の鬼が、派手な音と共に顔面から壁に突っ込み、動かなくなる。

「ハーーーーッ――……」

 最後に大きく一息ついて、椿は拳を収めた。
 彼女の身体を包んでいた光が、急速に消えていく。

「お疲れ様、椿さん」

 御上がそっと、彼女の肩に自分のジャケットをかける。

「え?あ――!」

 御上の顔を不思議そうに見上げた視線を、何気なく下に落とした途端、椿の顔が真っ赤に染まる。
 タイトスーツの至る所が、かすった弾丸や鬼の爪で避け、白い肌が覗いてしまっているのだ。

「――……!有難う、真之介さん……」

 肩を竦めるようにして、御上のジャケットをかき寄せる椿。
 昔はそれほど気にならなかったハズなのに、今は、とてつもなく恥ずかしい。
 何故大丈夫のか、直接昔の自分に問い正したいくらいだ。

「御上さん。空港全施設内、クリアです他に鬼の出現は無いようですね」

 警備員から連絡を受けた緋月が報告する。

「有難う――。しかしこれは、僕達は四州島から出ないほうがいいかもな」
「ですね。いつまた、魔物が現れるかわかりませんし」
「でも、それじゃ円華達が――」
「円華さんなら、大丈夫だよ。討魔君やなずなもいるし、何より彼女はもう、僕なしでもやっていける。それに――」
「それに?」
「その格好じゃ、国際会議には出られないだろ?」
「――……!!ひ、ヒドい先生!!」
「ハハ!ゴメンゴメン!」

 真っ赤な顔を更に紅くして抗議する椿。

「とにかく、今は四州の守りを固くする事が先決だ。それに、ここからでも出来る事はある」
「え?」
「祈るのさ」
「祈る……?」
「そう、祈るのさ。きっと届くよ、僕達の祈りは。『あの時』みたいに」
「そうか……。そうだね!」
「そうさ」

 御上の笑顔に促されるように、椿は、胸の前で手を合わせた。

(世界を……、この世界を守りたい……。先生と……、この人と一緒に――!)

 心の中で祈りの言葉を唱え、そっと目を開ける椿。
 見上げるとそこには、見慣れた――しかしいつまで経っても眩しい――御上の端正な横顔があった。