リアクション
世界を変える橋 5
「おのれ、アルテミス! 貴様、この俺を裏切ろうというのか!」
「あなたのこれ以上の悪事は放っておけません……! ハデス様、ご覚悟を……っ!!」
新たな世界の支配者となろうとするドクター・ハデス(どくたー・はです)。
それに対し、反旗を翻したのはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)だった。
彼女は元々、ハデスの仲間だった少女である。
しかし、正義の騎士として目覚めた今となっては、エリュシオンのキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)と婚約し、自らもハデスの秘密結社オリュンポスを脱して、現在に至っている。
契約者達を倒して、自らの世界を創造しようとしているハデスを、アルテミスは許せなかった。
「あなたの悪はこの私の剣で打ち砕きます!」
「ふっ……面白い! 止められるなら止めてみせよ! この俺の野望は誰にも止められん! たとえ創造主であろうと、契約者達であろうと……! そして、アルテミス……お前であろうとだ!」
ハデスは叫び、自らの力を解放した。
抑えつけられていた潜在能力と魔力が溢れ出て、周囲にエネルギーの余波を作る。
「くっ……!」
アルテミスはそれに耐えながら、ハデスを睨みつけた。
「さあ、わが戦闘員達よ、集え! アルテミスを滅ぼすのだ!」
「キキイィィィッ!」
オリュンポスに忠誠を誓う戦闘員達がハデスの周りに集まり、アルテミスへと襲いかかってきた。
「……っ!」
それに抵抗するアルテミス。
彼女は剣を打ち振るい、次々と戦闘員を排除していった。
「はぁッ! でやッ! だあぁぁッ!」
「くっ……! やるな……!」
ハデスはその戦いに辛酸を舐める。
だが、それで諦めるような彼ではなかった。当然、だからこそ彼はオリュンポスという秘密結社のトップに立っているとも言える。横行際の悪さもさることながら、力でも彼は他の戦闘員の比ではなかった。
「ならば、これならどうだ! 食らえ! ゴッドスレイブッ!!」
「――ッ!?」
戦闘員に気を取られていたアルテミスに、ハデスの放った大剣の一振りが襲いかかった。
「キャアアァァァァっ!」
それはアルテミスの身体を引き裂き、絶大なダメージを与える。
吹き飛ばされ、しかし、それでも何とか持ちこたえたアルテミスは、ハデスを睨みあげた。
「こ、このっ……!」
「ハハハハ! どうした、アルテミス! 貴様の力はそんなものか!」
ハデスは哄笑してアルテミスを無様に笑った。
もはや、アルテミスには戦う力は残されていない。それだけゴッドスレイブの一撃はすさまじいものだったのだ。しかも、周りは戦闘員達に囲まれている。絶体絶命。アルテミスの身体も力もなくし、心は弱気になっていた。
(くっ……このままじゃ、私は勝てません……。これで……ここで……終わってしまうの……?)
『いや、そんなことはない!』
(キロスさんっ……!?)
その時、その瞬間、アルテミスの心に聞こえたのは、間違いなくキロスの声だった。
キロス・コンモドゥス。エリュシオンの龍騎士。そして、アルテミスの恋人。
彼の声が、確かにアルテミスの心を揺さぶったのだ。
『お前なら出来るはずだ、アルテミス! さあ、立ち上がれ! 正義の力を、その心の力を、あいつに見せつけてやれ! さあ!』
ぐぐっ、と立ち上がったアルテミス。
それを見て、ハデスは怪訝そうな顔をした。
「なに……? なんだ……? どういうことだ……?」
「聞こえた……。確かに、私の心には……キロスさんの声が……」
アルテミスはそう言った。
そして、剣を向けた。その心の目を開き、ハデスへと放つように。
「私は負けるわけにはいかない! そして、あなたを倒す!」
「フン……何を馬鹿な……! 戦闘員達、行け! 一気に片づけてしまうのだ!」
「キキイィィィッ!」
ハデスの命令を受けて、戦闘員達が一気にアルテミスに襲いかかった。
だが、もはや今のアルテミスにはそれは何の障害でもない。瞬時に移動したアルテミスは戦闘員達を吹き飛ばし、そのままハデスのほうへと正面から向かってきた。
「な、なにっ……!?」
あまりの力の差に動揺し、慌てるハデス。
だが、すでにアルテミスの剣はそこまで迫っていた。
「この一撃に全てを賭ける!!」
振り上げられた剣。そしてそれは、ハデスの飛空艇を狙う。
「正義の剣よ! 斬り裂け――――ッ!!」
剣は、ハデスの飛空艇を真っ二つに斬り裂いた。
「ぐおおおおおぉぉぉっ!?」
爆発が起こり、それに巻き込まれるハデスの声が聞こえる。
爆炎に飲み込まれ、その影は消えた。
が、それからすぐに、煙の中からぷすぷすと燃えた脱出艇が飛び出してきた。
「ええい、覚えていろ! 必ず、世界はオリュンポスのものにしてみせるぞ!!」
捨て台詞を残して去ってゆくハデス。
今さら、それを追いかけることも出来まい。それにそれだけの力もアルテミスには残されていない。仕方なくため息をついて剣を元に戻したアルテミスは、ふと空を見上げた。
(キロスさん……やりましたよ……)
今ごろキロスも、この光条世界で戦っているだろう。
あの声は確かに彼のものだったと確信しながら、アルテミスは彼に感謝の祈りを送った。
◆ ◆ ◆
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)、
ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に続き、
セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)が戦場を駆けめぐった。さらにその後ろには、彼女のパートナーである
オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)が追随している。
二人の戦士は光の世界を駆け抜け、次々と光り輝く人型の敵を葬り去った。
「さあ、神だろうが創造主だろうが、誰でも来なさい! この銃弾で貫いてあげるわ!」
「へへ、気合い入ってるじゃねえかよ、セフィー」
機関銃を前方へ向けて叫ぶセフィーに、オルフィナが言った。
「当たり前でしょ?」
当然のようにセフィーは笑ってみせる。
白狼のセフィーと噂される彼女の気概は十分で、雅羅やハイナに引けを取らなかった。
「どうかね? セフィー。わっちらと賭けをするってのは?」
「賭け?」
ハイナから投げかけられた提案に、セフィーは興味を抱いた。
「ちょっと、ハイナ。こんな時になに言ってるのよ」
根が真面目な雅羅は二人を止めようとする。
だが、元々、祭り事が好きなハイナやオルフィナの事だ。雅羅一人では彼女らを止めることは出来ないし、セフィーもさらにそこに乗り気だった。
(賭け? ふふん、面白そうじゃない)
戦いではやはりそれなりの目的というものが必要だ。
もちろん、創造主のもとへ向かおうとする仲間達の援護というのも立派な目的だが、それだけでは少しお遊びに欠ける。戦いに喜びを見出す三人は、雅羅に呆れられながらも一つの催しを思いついた。
「一番、敵を多く倒したやつが勝ちというのはどうでありんすか? 敵さんも大勢で来ているようだし」
「面白そうじゃねえか。俺は乗ったぜ」
オルフィナが言う。セフィーも頷いた。
「ま、悪くない提案ね。雅羅はどうする?」
「どうせ私も参加しなくちゃいけないんでしょ? まったくもう……」
渋々ながら、雅羅もそれに参戦する。
「そうと決まりゃ、さっさと行くぜ!」
「あっ! 抜け駆けはダメでありんすよ!」
オルフィナとハイナが一足先に抜けだし、続けてセフィーがそれを追った。
雅羅が最後に続き、四人は人型退治に全力を尽くす。銃弾が飛び交えば、剣が空を切り裂き、刀が相手を切り伏せる。そうした戦いの最中に、セフィーはふとこの世界で出会った様々な人々の事を思い出していた。
(オルフィナ……雅羅……ハイナ……そして、みんなと出会った……)
戦いはどこまでも続くものだが、この絆が永遠かどうかは分からない。
いや、そもそも、この世界が本当に終わりを迎えれば、絆すらも消え失せてしまうのだろうか?
(――ううん、そんなことはない)
セフィーは、オルフィナや、ハイナや、雅羅と、まだまだやりたい事がたくさんある。
それをここで終わらせるつもりは毛頭なかった。
「いけえぇぇぇぇ!!」
まるで目の前の敵を倒すことでその道が切り開けるかのように、セフィーは人型を撃ち貫いた。
光の世界へと消えてゆく人型を見届け、最後の敵がそれで終わったことを知る。もっとも、それは目の前の、という意味だが。まだまだ先は長い。創造主との戦いは続いている。
「うひー! わっちは五体倒したでありんすー」
「俺は四体だな。雅羅、そっちは?」
「…………二体」
「ぷっ……」
「ああっ! そこ、笑わないでよ! ぐぬぬっ、まだ勝負はついてないんだからね!」
三人の声が聞こえる。無理に明るく振るまっているようにも聞こえるのは、気のせいだろうか。
けど、きっとその心の繋がりは本物だ。この瞬間をなくしたくない。
「おーい、セフィー! どうしたんだよ? 早くこっち来いよー!」
「……ええ。いま行くわ」
セフィーはそう言って、仲間達のもとに戻っていった。