リアクション
■□■□■□■ そして、冬晴れのヒーローショー当日。 ショーが始まる数時間前。 蒼空学園の敷地内に作られた会場では色々な準備に取り掛かっている人達の姿を見ることが出来た。 学園の入り口では今日の演目を記したチラシを神和 綺人(かんなぎ・あやと)、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)の3人が配布していた。 チラシの内容は以下。 ――――――――――― 【蒼空学園ヒーローショー!】 〜昼の部〜 『対決! 仮面ツァンダーVSダークサンタ団』 怪しげなプレゼントを配っているダークサンタ! その目的とは……!? 『ぶん回せ! フランスパンマン!』 正義の心を取り戻したフランスパンマンの大活劇! 『天誅騎士ファル☆シオン』 白馬(?)に乗った天誅騎士ファル☆シオンが今日も行く! 『強いぞ!? 美少女戦士部!』 蒼空学園美少女戦士部の活躍はいかに!? 部員募集中? 『借金魔女ホイップ第999話〜逆襲! 怪人ユキグニベアー〜』 怪人シロクマーがパワーアップして放浪の旅から帰って来た!? 『桐生特戦隊』 東の怪獣キングホイップVS西の怪獣デストロイヤー桐生! デストロイヤー桐生が東の国に攻めてきた! 『パラミタヒーロー大集合SP! 敵か味方か! 影のヒーロー達!』 パラミタ刑事シャンバラン、改造人間パラミアントの偽物が現れた!? その背後にいる人物とはいったい……!? 『びっくりどっきり ホイップちゃんの杖は女王器だコロン!? の巻』 ホイップの杖が奪われた!? 今週のびっくりどっきりロボは何が出るかな? 〜休憩〜 『ホイップのプチコンサート☆』 『のぞき部を体験入部してみよう!』 〜夜の部〜 『ふたりは魔法少女マジカルシスターズR』 良い子のプレゼントを奪いに来たサタンクロス! 悪者は魔法少女が鉄槌を下しちゃうんだから! 『月光蝶仮面』 復讐を胸に秘め、月光蝶仮面が今動き出す……! 『サキュバス三姉妹』 獣と大蛇、甘噛みと唇、鞭とヒール。 あなたはどれが好き? ※こちらの内容は大人向けとなっています。小さなお子様はご遠慮下さい。 ――――――――――― 中身としてはチラシとパンフレットを兼ねているようだ。 「こ、この中にきっとイケメンヒーローが!」 チラシを受け取ると直ぐにヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は食い入るようにチラシを見ている。 「ミーナ、ショーは逃げませんよ」 チラシを持ってうきうきしながら走り出しているミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)を菅野 葉月(すがの・はづき)がやさしくたしなめた。 「何言ってるの! 良い席取らな……きゃっ!」 「ひゃっ!?」 そんな葉月へとくるりと向いた瞬間に周りを見ていなかったヴァーナーとぶつかってしまったのだ。 2人は同時に尻もちをつく。 「すみません。大丈夫ですか?」 葉月は慌ててヴァーナーへと声を掛ける。 ミーナへは直ぐに手を貸し、立たせた。 「大丈夫ですよ! こちらこそ、よそ見しててごめんなさいっ!」 手を貸してもらい立たせてもらうと直ぐに謝った。 「わ、ワタシが駆けだしたせいだよ! ごめんねっ!! 怪我ない?」 ミーナも急いで謝罪する。 「いえいえいえ、こちらこそっ!」 「こっちこそっ!」 2人は放っておくとこのまま謝り続けそうだ。 「……ふふ」 その様子を葉月は楽しそうに笑った。 2人とも何事かと葉月を見たが自分達の謝り続けていた様子を思い出し、笑い出した。 こうして3人は一緒に会場まで行くことになったのだった。 こちらは配布をしている3人。 受け取る人が多く、結構忙しくなっていた。 「わっ! 凄い人……私も手伝うよっ!」 その様子を見たホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)が顔見知りである綺人へと近付いた。 「あ、ホイップさん! ここは大丈夫! 僕達3人に任せてよ。それより開演までの準備があるんじゃないの?」 「そ、そうですよっ! 着替えたりとかあるんじゃないですか?」 近くにいたクリスもホイップの後ろを押す。 少し複雑そうな顔をしている様にも見える。 「へっ? うん、そうなんだけど、何か手伝えたらと……」 「大丈夫だって。皆ヒーローショー楽しみにしてるんだから頑張って準備してね!」 「そう? 有難う! 行ってくるね!」 ホイップはそう言うと楽屋の方へと走って行った。 走って行ったその後ろ姿を見て、クリスは自分の胸へと手を当てた。 綺人は直ぐにチラシ配りへと戻っている。 「あれがホイップさん……。あのアヤが珍しく自分から人の手伝いを……。なんでしょう、モヤモヤします」 更に、その様子を黙って見守っていたユーリは柔和な表情。 (……初めてホイップとやらを見たが、なんだか雰囲気がクリスと似ているな。……いい加減クリスの思いに気がつけ、綺人) そんな事を考えながらチラシの配布に戻って行ったのだった。 会場近くでは屋台の準備が着々と進んでいた。 機械を使い割り箸にふわふわとしたものを巻き付けて綿菓子を作っているのは葉月 ショウ(はづき・しょう)だ。 機械や材料などはタノベさんが売上からいくらか出してくれれば良いとレンタルさせてもらったようだ。 売上が良ければタノベさんもそれだけ儲かるということだろう。 「うっし、こんなもんか」 出来あがった綿菓子をホイップの写真が入ったビニールの袋へと入れる。 屋台の横では見本として、ホイップ以外にもヒーローや悪役達の袋がずらりと並んでいる。 しかし、置いてあるのは昼の部に登場する者達ばかり。 夜の部用の袋は未だ段ボールの中だ。 それと秘密の袋もあるようだ。 「あれを手にした時の顔が楽しみだぜ」 楽しそうにショウは今出来あがったばかりの綿菓子を並べた。 「では、このスペースでの販売になるんですね?」 絹屋 シロ(きぬや・しろ)は屋台の一角を指して言う。 「ああ、そうだ。良い写真を頼んだ」 それを受けて佐野 亮司(さの・りょうじ)が言葉を発した。 「任せて下さい。そちらこそ、販売は任せましたよ」 亮司はヒーローグッズだけでなく写真も扱おうとしていたのだが、同じ事を考えていたシロが居たので共同で作業をすることにしたようだ。 販売は亮司、写真撮影をし現像してくるのはシロとなっている。 亮司が扱うヒーローグッズはパラミアントフィギュアとパラミアントバーストフォルムフィギュア、シャンバランのCDと劇場版シャンバランパンフレット、それ以外にも魔法少女マジカルホイップ達や仮面ツァンダーソークー1のなりきりセットなども取り扱っている。 亮司が屋台に所狭しと並べているところへ近付くのはミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)だ。 「りょうじんぼー! これも一緒に売ってーー!」 そう言うとミネルバは抱えていた物を亮司へと渡した。 「なんだ?」 「ふっふっふ……キングホイップとデストロイヤー桐生の人形!」 どちらも5個ずつあり、値段はそれほど高くない。 「まあ、構わないが……」 「ありがとー! じゃ、忙しいから後、宜しくぅー!」 言うだけ言うとあっという間に去ってしまった。 「……“りょうじんぼう”って新しいあだ名だな……」 亮司はぽつりと呟いてから人形を並べ出した。 こちらの屋台では飾り付け等は完了しており、今は試しに売り物を作っている状態だ。 メニューはホットドッグ、フライドポテト、焼きそば、数種類の飲み物となっている。 閃崎 静麻(せんざき・しずま)が作っているのはホットドッグで、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)は焼きそばを担当していた。 フライドポテトはもう完成しており、味見としてレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)と閃崎 魅音(せんざき・みおん)が食べていた。 「これならお客さんに出しても満足していただけますね」 珍しく蒼空学園の制服を着用しているレイナが笑顔を向けた。 「静麻お兄ちゃん、美味しいよ!」 魅音は口の周りに塩を付けて微笑んだ。 「魅音ちゃん、ついてますよ」 レイナはすっとハンカチをポケットから取り出し、魅音の顔を優しく拭いた。 「こちらも完成です」 クリュティは綺麗に盛り付けられた焼きそばを2人に差し出したのだった。 会場の席には既に何人かお客さんが座りだした。 そのお客さんの動向を解らないようにチェックしているのはナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)だ。 道化のメイクでその表情はよく解らない。 ナガンはそのまま会場の周りをゆっくりと歩き、会場の把握とお客のチェックをしていく。 「ナガンさん、どうですか?」 そんなナガンに声を掛けたのはルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)。 ルディは消毒液を会場に設置しているところだ。 風邪や流行病を警戒してのこと。 「今のところ怪しい奴はいねえなァ。ま、平和ならそれでいいのさ、ヘッ」 「そうですね……何もないならそれが一番ですわね。怪しい人がいたら連絡いたしますわ」 ルディはそのまま、他の場所へも消毒液を設置しにいった。 ナガンも会場の警備へと戻って行ったのだった。 楽屋は慌ただしくなってきた。 もう直ぐで開演の時間となるのだ。 「今回も私がマネージャーをやらせてもらう」 楽屋へと着いたホイップはエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)に、前回同様お目付役を申し出た。 「は、はいっ! お願いしますっ!」 今回は前回の様に断ったりはしなかった。 1人で全てのスケジュールをこなしていくのは不可能だと思ったのだろう。 更に、前回よりも舞台数も多い。 「勿論、あたしもお着替えとかの男子禁制の部分をお手伝いするからね! 目指せ完済〜!」 「宜しくお願いします!」 メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)の申し出も素直に受ける。 「ホイップちゃん、急いで急いで!」 女性控室から顔を出し、手招きしているのは晃月 蒼(あきつき・あお)だ。 「蒼様、他の女性も控室にいるのでは?」 そんな様子の蒼にレイ・コンラッド(れい・こんらっど)が声をかける。 「わっ! ごめんなさいー!」 扉が少し隙間が空いてしまったものだから中で着替えていた女性陣から悲鳴が漏れた。 「さ、時間が残り少ないので、早く前説用の着替えへ」 「うん!」 エリオットに促されメリエルと共に控室へと入って行った。 着替えが始まったのを確認して、エリオットは今日のスケジュール表を取り出す。 1つ1つ必要な事をチェックしていき、段取りを頭の中へともう一度叩きこむ。 前日までにスケジュールは頭へと入れておいたが、念のためだ。 「前回より回数が多い。黒子はかなり大変だと思うが?」 エリオットはチェックが終わると横で既にスタンバイしているカッチン 和子(かっちん・かずこ)へと声を掛けた。 「平気、平気! ホイップさんと一緒に舞台に上がれるんだもん、今から楽しみ!」 「そうか。無理はしないようにな。だが、しっかりな」 「うん!」 エリオットに励まされ気合いを入れ直す。 「和子、俺を受付までちゃんと運んでくれ! 俺の仕事が出来ない!」 和子の肩の上では前説のホイップと雰囲気が似た衣装を身に纏ったボビン・セイ(ぼびん・せい)がいたのだ。 精巧に出来たその衣装はショー毎にあり、それらを作ってくれたのはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)だ。 和子に頼んだら不安だとボビンが依頼したのが、ホイップの衣装も作ったりしているベアトリーチェだったのだ。 「あ、そっか! ちょっと行ってくるね!」 そう言うと和子は走り出した。 「やれやれ」 エリオットは後ろ姿を見て、軽く溜息を吐いた。 なんとか準備は全て整いヒーローショー開幕となった。 ■前説■ 舞台の幕が上がり、軽快なリズムの音楽が流れ出した。 「みんな〜! こんにちはーー!」 ホイップがまず挨拶をする。 「こんにちはー!」 客席は沢山の人でごった返し、学園の生徒のみならず、前回のヒーローショーではまってしまった親子づれの姿もかなりあった。 挨拶はノリの良い生徒達と子供達から返って来たようだ。 前説もう1人は仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)だ。 前回と違うのはギターが無い事だろうか。 本人の話からモンスターに食べられてしまった事が判明している。 まあ、いつものド派手なマイクにヘビメタ衣装なので浮きまくっているが、ホイップはもう慣れてしまったようだ。 「どんなにうずうずしてもステージに上がらないでね〜!」 「は〜い!」 元気よく声が返ってくる。 「上がった奴は股裂きの刑じゃー!」 サンダー明彦は近くに居た蒼空学園の生徒であるスタッフを捕まえ電気アンマをしだした。 この時点で子供達は引き始めた。 「ステージに物を投げ込むのも禁止じゃーーー!」 電気アンマの刑が終了すると次の注意へと移った。 が、サンダー明彦が言うと直ぐに空の缶が投げ込まれた。 「投げたヤツはどいつだーーー! あーん? お前かぁ!! ぺっぺっぺっ!」 多分違うであろう生徒を捕まえ、唾を吐きかける。 それをホイップが慌てて止めに入り、被害を受けた生徒は中途半端に唾を受けただけで済んだ。 「フラッシュ撮影は禁止だよ〜。ヒーローが眩しいからね〜」 ホイップが注意事項へと話しを戻した。 「てめーら著作権侵害だ! 金払えんのか! 俺は払えねーぞ!」 そう言うとサンダー明彦は雷術を使いかなり強い光で観客の目を暫く真っ白な状態にしてしまった。 「ちゅ、注意事項はちゃんと守ってねー! それじゃあ、ヒーローショー始まり、始まりー!」 ホイップが急いで締めて、サンダー明彦を引きずりながら前説は終了したのだった。 |
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