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リアクション
「なかなかやるじゃないか」
刹那がそう言ってグラスを開ける。
「しかし、私はそんなに簡単には倒されぬ……」
「何、余裕見せてるの?」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が梟雄剣を構えて叫ぶ。
「なんだ? お前、私と戦うつもりか?s」
刹那がルカを見る。
「そうだよ! 元から断ちに来たんだよっ!」
「いいだろう。相手をしてやろう。しかし、なんだ? その大きな剣は? お前の体にはあっていない」
そう言うと、刹那はクックと笑った。
すると、ルカはドラゴンアーツと金剛力と自前の体力で梟雄剣を軽く振り回し手答えた。
「巨大剣だから鈍重だと思うのは浅薄よ!」
「なるほど、おもしろい」
刹那は答えるとグラスを置き立ち上がった。そして、そのままゆらゆらと宙に浮かび上がる。そして、片手を上げた。刹那の背後に亜空間が開く。
シュー……シュー……
どこからか、生臭い音ともに気味の悪い音が聞こえてくる。
「行け!」
刹那は、その見えない何者かを放った。それは、ルカルカめがけて襲いかかってくる。
「俺にまかせろ!」
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が飛び出し見鬼を展開。巨大な蛇が向かってくる姿が露になる。
ルカは梟雄剣を手に迅雷斬を展開。蛇の体が雷の光を放ちつつバラバラになって行く。
「やるな!」
刹那は叫ぶと、再び手をかざした。すると、刹那の背後の壁から吸血コウモリが飛び出してくる。
カルキノスは裂神吹雪を放った。紙吹雪がコウモリ達の周りに襲いかかり、その体を切り裂いて行く。
刹那はさらに、小鬼を呼び出した。
夏侯 淵(かこう・えん)がアウィケンナの宝笏をふるう。宝笏からほとばしる光に小鬼達が悲鳴を上げる。
さらに、夏侯 淵は天の炎を展開。天から巨大な火柱が落ちてきて小鬼どもを焼き付くした。
「それで、おしまい?」
ルカは、そう言って軽身功で空に駆け上がり、ダッシュローラー駆け、刹那に迫った。そして、梟雄剣を掲げ光属性全体攻撃、真空波の連射で弾幕を張る。
しかし。
「無駄だ……」
刹那はおのれの前に暗黒の盾を出現させて言う。
「この盾は、並みの攻撃ではびくともしない。お前に私は倒せないという事だ」
「そんなのやってみなきゃ分からないよ!」
ルカはそう言って再び梟雄剣で斬り掛かった。しかし、盾はびくともしない。
「そんな……」
ルカはつぶやく。
「ルカが回収できなかった小太刀……回収できてたらこんな事には…。ごめんね竜胆」
と、その時、どこからか笛の音が聴こえて来た。
「あの音は……」
ルカは振り返った。すると、そこに竜胆がたち、あの、横笛を奏でていた。その後ろには、他の仲間達も立っている。竜胆は口から笛を放すと叫んだ。
「ルカルカさん! そんな事を気に病まないで下さい。何一つあなたのせいではないのですから!」
竜胆はそう言うと、再び笛を吹きはじめた。
刹那の手の盾が、どんどん小さくなって行く。刹那の力も弱まっていくようだ。
「く……お前が……お前が竜胆か」
刹那は竜胆を睨みつけた。
「刹那兄上、このような形で会うことになった事。心より残念に思います」
竜胆は答えると、再び笛を奏ではじめた。
「今だ!」
カルキノスがルカに向かって叫ぶ。
「うん!」
ルカは梟雄剣を構えると、再び刹那に向かって行った。
そして、手数多く連撃、連打。
笛の力で動けなくなった刹那は、なすがままになっていた。そして、力つき、そこに倒れる。
カルキノスは刹那に近寄ると、退魔の符を使い”悪霊退散”を連射した。
『う……うぐああああああ』
刹那が悲鳴を上げて苦しみだす。
その体から、黒い煙のような者がもうもうと立ちはじめ、人とも鬼ともつかぬ影が刹那の体から立ち上がって来た。
「今だ!」
夏侯 淵は叫ぶと、『封印の魔石』を掲げ、“封印呪縛”を唱えた。
「ギャアアアア!」
悲鳴を上げながら、ヤーヴェの体は石の中に吸い込まれようとして行く。その寸前にヤーヴェは叫んだ。
「起きろ! 奈落人どもよ。私が死ねば、お主らの復活もないぞ」
その声に奈落人達が目をさます。
「ヤーヴェ様……」
「ヤーヴェ様を消してしまわないで」
「私……たちは……復活したいの……!」
奈落人達は、つぶやきながら夏侯 淵に迫って来た。
相手が相手なだけに、傷つける事もできず躊躇する夏侯 淵。そのスキをつき、一人の奈落人が、ものすごい力で石を奪い、粉々に打ち砕いた。
「ヤーヴェ様、石は砕きました。私を人間に戻して下さいますね……」
刹那に取りすがる奈落人達。
そして、「そんな……」と、途方に暮れる一同。
『封印の魔石』がなければ、ヤーヴェを閉じ込める事はできない。呪縛から逃れたヤーヴェは、再び刹那の体の中に戻ろうとした。
しかし……
「いやだ……やめてくれ」
正気になった刹那はヤーヴェを受け入れる事を拒んだ。
「くそ! このフヌケが……!」
ヤーヴェは舌打ちすると、無理矢理刹那の中に入ろうとする。
と、
「よせ」
誰かの声がした。
「兄上の心はもうズタズタになっている。それ以上無理をさせれば心が壊れてしまうだろう」
その声に一同は振り向き驚く。
そこに、竜胆そっくりの若武者が立っていたからだ。
「藤麻殿!」
十兵衛が叫んだ。
「藤麻……兄上?」
竜胆がつぶやく。
藤麻はヤーヴェに言った。
「どうせ取り憑くなら、私に取り憑かぬか?」
「何?」
「なんだと?」
「兄上? 正気ですか?」
一同の驚きを尻目に藤麻は言う。
「私も、鬼の心というのを知りたくなった。それに私は刹那と違って、心が強い。何より正統な日下部家の跡取りだ。さぞ、お前の野望の役に立てる事だろう」
「おもしろい」
ヤーヴェはうなずく。
「だが、後悔するなよ」
そういうと、ヤーヴェはするすると藤麻の中に入って行った。
しばらくすると、藤麻の表情が変わった。
「くそ……騙したな! 出せ!」
声が違う。どうやら、憑依したヤーヴェが話しているようだ。
「この体……お前の体は……」
ヤーヴェが言う。
「そ……のとおりさ……」
藤麻が自分の声で答える。
「俺の命は、あと数ヶ月。それを知った時、私は日下部家のこれから先を憂いたのだ。だから、兄上をお前からお救い申し、日下部家の後を継いでもらおうと……」
その言葉に、驚いたように刹那が顔を上げた。
「許してくれるのか? あれだけの罪を犯した私を許してくれるのか?」
「許すも、許さぬもありません。あなたは邪鬼に操られただけ。それに、何があろうと愛する兄君だ」
「ああ……」
その言葉に、刹那が涙をこぼす。
そして、藤麻は再び我が身に封じたヤーヴェに向かって言った。
「私の体には、とある聖人の封印の術がかけられている。お前は私が死ぬまでここからは出る事もできず、語る事も、考える事も、為す事もできない。私が死ぬ時には、一緒にナラカに連れて行ってやる。それまで、俺の体の中に封印されておれ」
それから、藤麻はあらん限りの力を振り絞るように懐から念珠を取り出し、それを首にかけた。
「封印の念珠だ。これで、もう奴は出てこられないだろう」