校長室
ニルヴァーナの夏休み
リアクション公開中!
『いよいよこれが1回戦最後の試合になります。第7試合は神条 和麻&マリアベル・アウローラペア対奏輝 優奈&ウィア・エリルライトペアです!』 名を呼ばれて、奏輝 優奈(かなて・ゆうな)はぶるぶるっと震えた。 緊張からではない。その反対、武者震いだ。 「よーっしゃあ! ついにウチらの出番や! 観客のみんな、待ったかいあったモン見せたるからなあーっ!」 「ええ。そうしましょうね、優奈」 にこにこ笑って同意したウィア・エリルライト(うぃあ・えりるらいと)は、用意していたギャザリングヘクス用大釜を、よっこらしょ、と両手で抱え持つ。後ろにそっくり返りながら運ぶ彼女を見て、審判の1人の鳥人が声をかけた。 「重そうなのである。吾輩がお手伝いしようか?」 「まあ、そうしていただけますか? 助かります。ありがとうございます」 見るからにほっとした顔で深々と頭を下げる、美しい彼女に気を良くして、鳥人はポッポー言いながら重い釜をコートのバックラインの所まで運んでやった。 「……あれ、何でしょうね?」 よたよた大釜を担いで運ぶ鳥人と、その後ろについて歩く清楚な少女を見やってマリアベル・アウローラ(まりあべる・あうろーら)はつぶやいた。 「んー?」 言われて手元のボールから目をはなし、そちらを向いた神条 和麻(しんじょう・かずま)も、目にした瞬間やっぱり首をひねってしまう。 (――あんなのバレーに必要か?) 注視する彼らの前、優奈は大釜の前にヤンキー座りをして、おもむろに火をおこし始めた。ウィアはそのとなりでおとなしく調理器具みたいな物を持って立っている。 (――あれは本当にお玉なのか?) あそこだけ、まるで海辺の料理番組かそのコント番組のようだ。 彼らの熱い視線(?)を感じ取って、ウィアはそちらを向く。 (ああ、彼らが私たちの対戦相手なのですね…。 優奈の謎料理を食べることになる相手チームさん、ごめんなさい…。でも、でもでもでもっ、私は優奈のパートナーなんです……優奈が決めたんですから、私はこの非情な作戦で戦います…!! 申し訳ありませんが、私達の勝利のために死んでくださいっ!) ああっ! なんて残酷な作戦なんでしょう! と手元に顔を伏せるウィア。 もちろん心で思ったことは1グラムだって和麻たちには届いていない。ただの情緒不安定で挙動不審な少女にしか見えていなかった。 「えーと…。サーブしていいのかな?」 「いいんじゃないですか? もう試合始まってるんですから」 それもそうか。 和麻は打った。 「ふっふっふー。待っとれよぉー。じきできるからなぁ」 大釜のなかを掻き回しつつ、優奈は悦に浸る。 「神威の矢使えばどこ逃げようとそん口んなか目掛けて飛びこむからなぁ。試合開始と同時にコレお見舞いしてやって、不調に陥ったとこへ集中攻撃や! 名付けて超時空謎料理!! 練れば練るほど色が変わって……テーレッテレー!! ほーら完せ――」 ――ドゴン、ガコンッ!! ちょうど立ち上がったところに和麻の打ったサーブが後頭部直撃したものだから、前のめりになった優奈は大釜のふちに額をぶつけてしまった。 「きゃーっ!! 優奈!!」 ウィアが血相を変えて叫ぶ。 「……きゅう〜〜」 優奈は前後にみごとなたんこぶを作って、目をグルグル巻きにしていた。 「和麻、あんな少女になんてことを!!」 「い、いや、あれはフェイントだと……打ち返してくると思って――っていうか、おまえだって打っていいって言ったじゃないか!」 「打っていいとは言いましたけど、当てていいとは言ってませんわ」 わたわたあせりまくる和麻の前、マリアベルはさらりと横の髪を払って他方に視線を流す。 「あー、きったねえ!」 そのとき、なぜか時間差でボンッ! と爆弾が敵コートで爆発した。 『……えーと。第7試合は、和麻・マリアベルペアの勝利となりました。サーブ1発。最速の試合でした』 時間が押しに押しまくっているため、第7試合終了後、すぐ2回戦を開始することになった。 「再抽選の結果、和麻さんたちには連戦してもらわなくてはならなくなったんですけど、いいですか?」 美咲が少し申し訳なさそうに言う。 「ええ、いいですよ。俺、サーブ打っただけだし」 「私は立っていただけですから」 2人の同意を得て、カードが発表された。 『お待たせしました。2回戦のカードが決定しました! まず第1試合はルシア・ミュー・アルテミス&夏來 香菜ペア対神条 和麻&マリアベル・アウローラペアです。 両チームともまだ必殺技を見せていません。一体どんな技を見せてくれるのでしょうか!?』 「必殺技、必殺技っ」 ルシアは上機嫌で、ふんふん鼻歌をつけて何か考えている。 「ねっ? 名前、私がつけていい?」 「あれは必殺技じゃなくてアタックだってば! あなた、まだそんなこと考えてたの?」 あきれかえる香菜の語尾に重なって、試合開始のホイッスルが鳴る。 「そんなことより試合に集中しなさい」 「はーい」 (ルシアさん…) コートの向こうでかまえるルシアを遠い目をして見つめる和麻の脳裏に、かつての記憶とその胸の感触がよみがえ―― 「いつまでぼけっとしているんです? さっさと打ってください。それともそこでアフロになりたいんですか?」 「なわけないだろ!」 「あら。でもルシアが喜ぶかもしれませんよ? ボンッと一瞬でアフロ! マジックだー! って」 「それはそうかもしれないけど、そのためにアフロを見られるのはいやだ! って、なんでおまえが彼女を呼び捨てにしてるんだよ!」 「ルシアはルシアです。 まあ。うらやましいんですか? 自分がいまだに「さん」付けでしか呼べないから」 勝ち誇ったようにマリアベルが微笑する。 「そ、そんなんじゃなく、彼女の許可をちゃんととって呼び捨てにしてるのかって――」 「さあ、どうでしょうね ♪ 」 「一体いつの間に…」 「和麻ごときに教えてあげたりなどしませんわ。せいぜい想像して苦しみなさい」 「――くっ…!」 なぜペア組んだ、おまえら。 きっとだれもがそう思ったことだろう。 「ちょっとー! さっさとサーブ打ちなさいよー!!」 待ちきれず、香菜が怒りだす。 「あっ、ごめんごめん」 和麻はサーブを打った。 それから数度、ラリーが続くも、やはり和麻とマリアベルの連携はうまくいかない。同じボールを追ったり、タイミングがずれてアタックできずにただ相手コートに返すだけになったり…。 そのうち、イライラが頂点に達した。 「あーっ! もう! 一体何やってんだよ、おまえ!」 「あなたこそ! ひとの足を引っ張るくらいなら空気になっていらっしゃい!」 殺伐とした空気のなか、敵意のこもった視線で互いを見合う。 だからなんでおまえらペア組んだんだよ。 「今度失敗したら、ペア解消だ!」 「こっちこそ! 二度と組むのはごめんですわ!」 飛んできたボールに向かい、2人は同時に跳んだ。 ああ、やっぱりか……見る者全員がそう思ったとき。 「「必殺! レイジング・エア!!」」 2人は同時に叫び、乱撃ソニックブームとソニックブームでクロスアタックを打った。 真空波をまとったボールが回転しながら敵コートへ向かう。 これは1回戦でルシアと香菜が受けたボールとは段違いの威力を持っていた。受けたルシアの水着が破けると同時に香菜の水着もまた破れてしまったのだから。 着替えるついでに下着を脱がされていたルシアは、今度こそ水着1枚だった。 「わあ! これがジャパニーズ・トラディショナル『ぽろり』ね!」 ついに自分も体験できたと、変なところで感動している。が、香菜はカンカンだ。 「胸はだけさせられて喜んでるんじゃないわよ! あなたどこまでバカなの? 死ぬの?」 「ほえ?」 ルシアが打ち上げたボールが落ちてくるのを見て、香菜は和麻をにらむ。 「……まったく、どいつもこいつも男ってやつは!! 成敗!!」 片手で胸を隠し、アタック! 「ぶっ!」 ボールはみごと和麻の顔面へと直撃した。 『必殺技の発動に、やはり(なぜか)ボールは爆発しませんでしたが、和麻選手失神のため試合続行不可能です。この試合、ルシア・香菜ペアの勝利です』 「香菜ちゃん、今思いついたんだけどさっきの必殺技名ドージェの妹だと判明した香奈ですってどう? ねっ? ねっ?」 「だから必殺技じゃなくてただのアタックなんだってば! どこまでねばる気よ? あなた!」 もう実況も認めてるみたいですから、香菜さんもおとなしくあきらめたらどうでしょうか? 2回戦第2試合は弥十郎・斉民要術ペアと日奈々・千百合ペアの対戦となった。弥十郎のコールドリーディング、行動予測、記憶術、メンタルアサルト、ヒプノシスを用いて試合開始前に相手に暗示をかけておく必殺技佐々木ゾーンは、残念ながら目の見えない日奈々には通用せず、しかも弥十郎自身1回戦で受けたダメージが相当ひどいこともあって、ボールを拾いきれなかった。 結果、ボールは地面に落ちて、日奈々・千百合ペアの勝利となった。 第3試合は菫・パビェーダペアと巽・ティアペアだった。巽は1回戦のときと同じく足技で戦い、合間にティアがフェイントを入れたりツーアタックを入れたりと多彩な技を用いて敵ペア2人を翻弄するも、やはり虫攻撃に女の子は弱かった。特にGには。あの生理的嫌悪感に太刀打ちできる強者は、そうはいないだろう。 結果、菫・パビェーダペアの勝利となった。 第5試合の勝者だったなぞの2人は結局逃亡してしまったため、棄権扱いで処理された。 準決勝第1試合は日奈々・千百合ペアと香菜・ルシアペアで行われ、日奈々・千百合ペアの勝利となった。香菜・ルシアペアの一番の敗因は、香菜がアタックをする際、ルシアが自分の考えた例の必殺技名「ドージェの妹だと判明した香奈です」をしつこく連呼したせいだと思われる。 それだけでなく「今だよ香奈ちゃん、ドージェの妹としての力を見せて!」とかまで叫んだものだから、ついにプチッとキレた香菜が「その力はインテグラルクイーンに取られちゃってるんだってば!」と叫び返している隙に、日奈々・千百合ペアの必殺技「何度目になるかわからない二人の共同作業」を受けて敗北したのだった。自滅とも言える。 決勝は日奈々・千百合ペアと菫・パビェーダペアでの対戦となった。 当初、やはり目の見えない日奈々は虫への嫌悪感に惑わされることはなく、有利だろうと思われていたのだが、周囲を埋めた虫たちの羽ばたきや這い回る音に邪魔をされてボールが風を切る音が読めず、クイック攻撃や連携攻撃がうまくできなくなってしまった。その隙をつかれてしまい、敗北してしまったのだった。 時限爆弾バレー優勝者は菫・パビェーダペアに決定した。