校長室
ニルヴァーナの夏休み
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プール・リゾート 5章バスリング・バケイション 右足が少々不便なコール・ケンペイン(こーる・けんぺいん)はヴォルガング・フリッシュ(う゛ぉるがんぐ・ふりっしゅ)に半ば抱えられるようにしてプールサイドに立っていた。 「別に歩くのにも戦闘にも支障はないというのに、心配性なのだよヴォルは」 少年の外見に似合わず、コールの口調はいかめしい。 「プールにステッキは危ねえから持ってこれねーし、滑って転んだらどうするよ?」 「心配しすぎだというのに……。水中ならほれ、足に負担がかからんから良いであろう」 そう言ってコールはプールに滑り込んだ。 「コールが……楽しいなら、俺はそれでかまわねぇけどよ」 ヴォルガングはそう言って、小さなクーラーボックスを手に、プールサイドでコールを見守る。潜水で水底をまさに魚のように自在に泳ぎまわるコール。プールからなかなか上がってこない。 「……」 5分たち、10分経ち……。ヴォルガングがそわそわと落ち着きをなくし始める。 「アハハ! やっぱりプールっていいよねえ♪ みんな楽しそうだし!」 岬 蓮(みさき・れん)がプールサイドで泳ぎ回るコールを眺めていた。アイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)は金色の長い髪を風にそよがせながら言った。 「ああ、楽しそうだな……」 そのあとぐっと声を落とし、呟く。 「ウォータースライダーさえなかったらな。……しかし、プールでたくさんの人が混み合うと入りにくいな」 ためらいがちにプールを覗き込むアインを見ていた蓮は、ふといたずら心を起こした。 (よし、背後から押してプールに突き飛ばしちゃえ☆) アインのすぐそばで、霧丘 陽(きりおか・よう)はぼんやりと考え事をしながら佇んでいた。 (楽しそうだなー。でもあんまり泳げないし……プールサイドでみんなを見てるほうが楽しそうかな?) パートナーの十河 存英(そごう・まさひで)は、陽の背後からきらめく水面を凝視していた。 (暑い……ものすごく暑い……。水中は涼しいだろう。だが俺は泳げない。故にここに入るという選択肢はないっ! 陽……溺れるなよ……助けを呼ぶしか出来ないんだからな俺は!) 「やっぱ自分は見学でもするか」 アインが呟き、向きを変える。 「存英、デッキチェアで冷たいものでも飲もうか?」 陽も存英を振り返った。蓮がアインににこやかに声をかける。。 「やっぱりアインも入らないと、いくら楽しいプールでもつまらなくなっちゃうよ☆」 言うや否や蓮がアインをどかっと突く。体勢を崩し、両手を振り回すアイン。 「ちょっ!!うわっ!」 ザッパーーーーーン アインが反射的に陽の腕を掴み、彼女を道連れにプールに落下し、盛大な水しぶきが上がる。 「た、大変だ……」 不意打ちに存英がうろたえ、プールサイドをおろおろと右往左往する。 「ぷぁっ」 陽が水面に顔を出した瞬間、潜水していたコールはいたずら心を起こし、目の前にあった陽の足首をちょいと引いてみた。 「きゃぁああああ! ガボガボ……」 陽が悲鳴とともに水を飲む。コールを見ていたヴォルガングがすぐに飛び込み、陽を救い上げた。 「うー……鼻からお水のんじゃった……」 涙目の陽に駆け寄る存英。コールが水面に浮かび上がると、ヴォルガングが叱りつける。 「相手が溺れたらどうするつもりだったんだ……ほら、謝れ」 「いやすみませんね……ちょっとした出来心でして」 蓮も陽に謝った。 「ごめんねー。アインだけ狙ったつもりだったんだけど……。 私は岬蓮だよ。こっちはアイン・ディアフレッド。よろしくね☆」 「あ、僕は霧丘 陽……パートナーの十河 存英だよ」 「僕はコール。こちらはヴォルガング。お詫びにラムネでもご一緒に」 「さあて、この次はウォータースライダーでも探しますか☆ 誰か一緒に行かない?」 コールも陽も首を横に振る。アインはラムネを飲みながらデッキチェアに根を生やしている。 (……蓮のアホさ加減は相変わらずやな。ウォータースライダーないかなーって……) 「ウォータースライダー、自分は絶対滑らへんからな!」 「じゃいいや。ちょっと行ってくるよー」 ウォータースライダーの天辺直前。夏休みは朝顔観察しながらまったり過ごす予定だったよいこの絵本 『ももたろう』(よいこのえほん・ももたろう)は、イランダ・テューダー(いらんだ・てゅーだー)に一番来たくない夏の名所No1であるプールに引きずってこられ、帰りたくてたまらなかった。 「ボク……どうしてここにいるんだろう……しかもこんな格好で……」 「折角のリゾートよ? 遊び倒さなきゃ!」 イランダはそんなももたろうの気持ちはオールスルーだった。 慣れない水着姿も恥ずかしいし、ウォータースライダーなんて怖いからもってのほかのはずなのに……。ヒエラルキーには逆らえないももたろうなのであった。 「ももの番よ!」 「……ボク、これ……怖いからイヤです……」 「なに言ってんのよー。ほら待ってる人がいるんだから早くー」 イランダは満面の笑顔で、桃太郎の背中を蹴る。 「あああああああああああああああ……」 絶叫とともに滑り落ちてゆくももたろう。 「おー、楽しそうだね」 暢気に言う蓮に、イランダがにっこりと笑いかける。 「でしょでしょ?」 やがて衝撃とともに水面下に沈むももたろう。 (溺れてるのかなボク……) 「大丈夫か?」 石ころのように沈むももたろうを、アインがひょいと掬い上げる。 「か……神様……?」 「……ラムネ、飲むか?」 深い同情の表情がアインに浮かぶ。 「……ありがとうございます」 2人の間を何かが行き交ったのであった。