校長室
ニルヴァーナの夏休み
リアクション公開中!
「やるぞ、翔平(相原 翔平(あいはら・しょうへい))! 最高のライブにしよう!」 「そうだな、相棒! こんなチャンスめったにねーからな!」 真田 正実(さなだ・まさみ)が聞きつけた新校でのライブの話。せっかくの夏休みなのに特にやることがなかった二人にとっては願ったり叶ったりのイベントだ。 正実はエレキギターで、翔平はドラムで出演者たちのバックを務めたり、ソロ演奏で曲間を繋いだりと休む間もなくステージに上がり続けていた。 すぐ目の前で出演者たちが入れ替わり立ち替わりでステージに上がっては捌けてゆく。この調子なら「多くの人と知り合いになりたい」というもう一つの目的も、どうやら果たせそうだ。 「いいね、最高だ! このままぶっ倒れるまで行くぜ!」 「倒れられたら困るけど。っと、次の出演者は確かプリンスカルテット―――」 「ヒャッハー! 次はオレ様たちプリンスカルテットの出番だぜー!!」 演目順からすれば間違いなく次は「プリンスカルテット」の出番なのだが…… 「ヒャッハー! てめぇら盛り上がってるかー!」 一人のハゲ(吉永 竜司(よしなが・りゅうじ))を先頭に、ヴォルフガング・モーツァルト(う゛ぉるふがんぐ・もーつぁると)、従者である『影武者』と『キノコマン』がステージに上がってゆく。カルテット……確かに4人居るのだが――― 「なるほど、そういう見せ方もあるのね。だけど――王子要素についてはどうかしら」 舞台袖で女装姿の黒崎 天音(くろさき・あまね)が眼鏡を鋭く光らせた。彼はプリンスカルテットのプロデューサーでありマネージャーだった。しかし、彼がプロデュースするのはハゲと従者のカルテットではない。 「私の見出したプリンスカルテットは王子要素を全面に押し出した、いわば、真の意味でのプリンスカルテットよ!」 「ノリノリだねぇ、黒崎君」 「今は『黒崎P』よ」 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)の言葉に振り返った天音は眼鏡をくいっと上げて言った。 「そろそろ俺たちの出番か」 涼しい顔で早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が言った。もっとも顔自体は仮面を着けているので目元しか見えないのだが。 「準備はいいかしら――って、そういえば前座」 「はっ!! 前座!!」 前座という言葉に反応してオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が慌てて舞台にあがって行った。彼はプリカルの前座として舞台に上がろうとしていたのだが、今のニセモノたちが前座にあたるなら自分の出番は今! ということになる。 舞台にあがった彼はニセモノたちの後方でタシガン風フラメンコとカスタネットの妙技を披露していた。 「ブルーズ(ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす))―――は会場整理に行ってて居ないか……。雷號(呀 雷號(が・らいごう))君! 手伝って! MC! 曲終わりで切らずに行くわよ!」 どうやら登場時の演出を見直すらしい。時間は本当に僅かだったが、雷號は見事に10機あるスモークの向きと噴出量を調整し直してみせた。 「パラ実のプリカルのみんな、ありがとー! さーあ、お持ちかね! お次は薔薇の学舎が誇るプリンスカルテットの登場だッ!!」 曲終わりと同時にヘルのMCが始まる。そして照明はプリンスカルテットの登場位置へ。 「ワイルドは色褪せない! カルテットいちの露出系、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)ー!! 」 黒い馬に跨がった光一郎がステージの中央奥から現れた。顔は仮面を着けているため見えないが、コーヒー色の肌だけは、はだけた胸元にはっきりと見えて確認できた。 続いて白馬に乗った呼雪と鬼院 尋人(きいん・ひろと)、そしてエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)がステージに登場、『まさに彼こそが「ご主人様」』といった様子でステージ上をゆっくりと練り歩き、中央に寄った所で颯爽と馬を降りた。そして、 「誇り高きタシガンの騎士王子は、全力で姫を守るぜ☆!」 尋人の言葉に合わせて、4人で同時に仮面を外して客席に放った。アイドルたちが麗顔を晒すと、割れんばかりの黄色い歓声があがった。 楽曲はオリジナル曲の『君のプリンスになりたい』、ソロパートではエメが『剣の舞』を披露した。彼は左目に眼帯をしているが、パートナーで白猫ぬぐるみのアレクス・イクス(あれくす・いくす)が誘導しているため、立ち位置も入れ替わりも問題なく行えていた。 『剣の舞』もラスト、エメはスピーカーに足を乗せてると、空いた右手を客席に差し出して、 「この空いた右手、どうしてくれるんですか?」 歓声と共に客席から一斉に手が伸びる。エメは尊大な笑みでこれに応えてステージ中央の3人の元へ。 「みんな、夏はまだまだこれからだよ! もっともっと盛り上がって行こう☆」 呼雪の煽りに会場が跳ねる。 「ワイルド王子(光一郎)、正統派王子(呼雪)、純情騎士王子(尋人)、ご主人様王子(エメ)……私の見込んだ通り、お客の心を掴んでる。皆、輝いているわよ」 舞台袖。今日までのレッスンやらなんやら今までの苦労を頭に巡らせている黒崎Pが見つめる中、曲の終わりまで4人は全力で駆け抜けたのだった。