校長室
ニルヴァーナの夏休み
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ニルヴァーナ創世学園南側エリア。ここにある各種事務管理局の机は、どこもそこも書類の山ばかり。創世祭が行われているというのに、天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)と小松 帯刀(こまつ・たてわき)の二人は書類整理に追われていた。 「にしても、やはり。この処理能力はすごいですな」 感心しきったように帯刀が言った。目の前の山は「処理済み」の山、しかし隣の机にそびえている山は全てが「未処理」の案件だという。それをまずは分類し、目を通した上で{SNL9998758#ラクシュミ}の元へと上げるのだそうだ。 「「学校の西部広野の調査申請書」に「授業に必要な備品申請」、なんと「総合運動場のグラウンド整備の人員配置とシフトの報告」まであるとは。この量になるわけだ」 毎日すごい量の案件が処理されているとは聞いていたが、なるほど、その理由が分かった気がした。 「ん。これは興味深いですね」 篤子が一枚の書類に目を留めた。 「それは……? 大型輸送手段の開発と生産に関して……って何これ」 「文字通りだよ。新型の輸送飛行艇とか輸送用台船とかを造るって申請。それもここのイコン整備場を使ってね」 物資の輸送に関しては篤子も早期に解決すべき問題だと案じていた。確か自分が出した提案書も同じ時期に提出したはずだが…… 「あった。承認済み♪」 先の輸送船と同じく、篤子の提案した「機晶姫機関車の導入」も承認の判が押されて返ってきていた。仕事の量は膨大だが、一足早くに書類に目を通せるのは役得だなと篤子は小さく微笑んだ。 「なんだか懐かしい感じだねー」 教室の壁やら廊下やらを見て佐々良 皐月(ささら・さつき)が言った。パートナーの佐々良 縁(ささら・よすが)が所属していた大学と雰囲気が似ているような気がしたようだ。 「そうなの? ねぇそうなの? どんな所が懐かしいの?」 ミミ・マリー(みみ・まりー)が皐月の腕に引っ付いて訊いた。無邪気で好奇心旺盛な彼女らしい質問責めだが、互いの嫁……いやパートナーたちは一瞬だが確かに殺気を放った。 「ほら、皐月。着いたみたいよ!」 「ミミ、お前もだ。早く来い」 それぞれ引き剥がして「都市計画学部」の教室へと入っていった。学科説明をしていると聞いていたのだが、室内には誰も居なかった。 「一足遅かったみたいだな」 瀬島 壮太(せじま・そうた)が黒板を叩く。そこには校内案内中との張り紙がしてあった。 「時間も書いてあるぞ。……開始は10分前、ってことは追えば間に合うぞ」 「よーし、追いかけよー!」 「おー!」 「ちょっと待って」 ノリノリな二人を縁が止めた。「これ、見てからでも良いんじゃない?」 投影機のすぐ傍に何枚もの資料が置かれている。見学者たちに見せるためのものだろうから、今ここで見てしまっても構わないのではないか、なんて考えながら資料を広げて三人に見せた。それは学園都市の建設予定図と未来予想図だった。 「なるほど。未来予想図が幾つもあるのは夢があって良いわね」 最終的には絞ることになっても、候補が多いことは決して悪くない。縁は実際の建設計画図面にも目を通した。 「この大通りが運搬用かな? なるほど、なるほど。ん、もちろん悪くないけど、こことここに併走路を作ればもっと……」 ふと気付いて言葉を止めた。壮太もミミも、縁の嫁でさえ「ぽかーん」とした顔をしていた。 「あっ…あの、そうだね、そろそろ次に行こうかねぇ。ねっ、ねっ?」 決して何も悪いことはしていないのに、どうにも縁は恥ずかしくなってきて。急かすように三人の背を押して教室を出た。 この日は他にも「機晶技術科」にも顔を出す予定だ。掘り下げて聞かれる前に、蒸し返されるよりも前にと、少しばかり小走りで廊下を行ったのだった。 「だから! そっちは見るんじゃねぇっつの!」 窓にへばりつく少年を飛鳥 菊(あすか・きく)が抱き抱えた。ニルヴァーナ創世学園校舎二階。窓の外を覗けば、今日のために設置された巨大プールが見える。そこでは美少女、幼女についでに野郎共が水着一枚で押し合い揉み合い絡み合っているのだ。 「プールの方は見るな! お前らにはまだ早ぇ!」 やっていることは水上騎馬戦なのだろうが、子供たちに見せるべき光景ではない。ましてプールサイドでイチャつくカップルの姿など……「軽く爆発しろ」と 菊は現状に対する苛立ちも込めて言ってやった。 「はーい、ゆっくりですよー、ゆっくり降りましょうねー」 階段の中程からマリア・テレジア(まりあ・てれじあ)の声が聞こえてきた。今日のこの初等部を対象とした「学校探索ツアー」を発案したのは彼女ある。不思議なことに生意気で元気が有り余っている子供たちも、彼女の言うことだけは素直に聞くようで、その辺りが教員に採用された彼女の資質か人柄の良さか、実に手際よく、また優しく子供たちを先導しているのだった。 それに比べて…… 「あっ! こら! どこ行くんだっ!!」 また一人、子供が急に駆け出した。慌てて菊が追いかける。捕まえると一様に子供たちはキャハハッと笑うが、菊は眉をつり上げるという好対照。菊の苦闘はまだまだ続きそうである。 「うーん、ここもダメかー」 マリアが子供たちと共に階段を降り終えた頃、校舎一階「 保健室」では春日野 春日(かすがの・かすが) が落胆の声をあげていた。保健室のベッドに新風 燕馬(にいかぜ・えんま)が寝ていたのである。 「よし! 他を探そうー、そうしようー」 空いているベッドは他にもあるが、 春日は次なる「お昼寝ポイント」を求めて駆けていった。保健室のベッドは謂わばデフォ、彼女の目的は校舎内でゆっくりお昼寝できる場所を見つけることにある。故に当てが外れたなら次のポイントを探すのみ、眠りたいはずの彼女は実にアクティブだった。 「ちょっ、春日ぁ! 扉くらい閉めていけって!! あ、すみません、お騒がせしました」 そんなアクティブ春日の後ろを追いかけているのはパートナーのアルタ・カルタ(あるた・かるた)である。律儀にも彼は一礼をして、それから音を立てないように丁寧に保健室の扉を閉めていった。すぐに駆け出す彼の足音も聞こえてきた。彼もどうにも苦労人のようだ。 「ん? だれか来たか?」わずかに目を開けて燕馬が訊いた。 「んー、来たと言えば来たけれど、来てないと言えば来てないわね」 パートナーのローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)が言葉を濁して応える。実際に春日とアルタの姿は見たが、室内に入っていないのもまた事実だ。 「ふ、まぁ誰が来ようと俺の眠りを妨げるなど……zZZ……」 言葉の途中で燕馬は再び眠りの中へ。これにはローザ も呆れたが、彼女が大胆な水着姿を披露してもプールに行こうとはせず、ノソノソとベッドにあがり横たわったという経緯からも、まぁ燕馬の睡眠欲の強さは思い知っている。それよりもむしろこの状況は、 「これは……天啓ね」 そう言って彼女はそっとベッドにあがり、燕馬の背に頬を寄せた。私も寝ろという啓示なのだと、都合良く解釈して、そっと添い寝をした。