校長室
ニルヴァーナの夏休み
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遺跡探索―出立 フレイムタン。そこはまさに炎熱地獄だった。地下洞窟内は赤熱したマグマの熱気にあぶられ、流れるマグマが灼熱の川の土手を少しずつ溶かしながら流れ、あるところでは冷えて固まり、恐ろしく長い時をかけてゆっくりと、だが確実に地形を変化させている。ところどころに流れから取り残されたマグマ溜りが、ゆっくりと冷えながら光と熱気を放っている。何らかの耐熱防護策がなければ、呼吸をすることさえ危険だろう。そんな景色の中を堅固な地面を選んで敷設されたリニアは着実に走行している。 貨物車輌では荒井 雅香(あらい・もとか)とイワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)が、林立するイコンの最終調整を忙しく行っていた。 「ニルヴァーナでのイコンの初仕事が、マグマ溜りのあるような場所とはね……。 パラミタと環境が違う上、さらにこんな場所じゃあ何が起きるかわからないね」 「整備環境も整ってないから簡単な調整ぐらいしか出来ないが、少しでも安心して使って貰いてえしな。 「そうだね。整備士が前線の手前に待機しておけば探索に出る人たちも安心出来るだろうし」 「おうよ。ま、縁の下の力持ち、ってやつだな」 豪快でがさつな印象のイワンの手が、思いもよらぬ繊細さで、イコンのそこここを着実に、素早くチェックしていく。 日ごろ天御柱のイコンを整備することが多い2人にとって、さまざまなタイプのイコンに触れるのもまた、勉強と同時に楽しくもあった。生き生きと作業する2人のもとへ、リニア内の哨戒に当たっていた大岡 永谷(おおおか・とと)と熊猫 福(くまねこ・はっぴー)がやってきた。 「よお、精が出るな」 「まー、半分趣味見てえなものだしな、ワハハハハハ」 イワンが作業の手を止めずに応じる。 「何もないとは思うんだけどさ、リニアってダークサイズが管理している現状だろ。 テロとかは、総統はしない気がするけど、取り巻きたちがどうもな……何かしでかさないか心配でな」 「特に異常はないよ?」 雅香がイコンの微調整をしながら言う。近寄ってその様を見ていた福が、小声で言った。 「なんか、トトはダークサイズと言う組織に色々因縁があるみたいなんだ。 あたいはそういうの興味ないから普通に警備してるんだけどね」 雅香が振り返って、福の顔を見る。 「そっか。あんたも色々大変なのね」 「まあ……慣れね。ダークサイズも教導団なんかから、ニルヴァーナでの食糧提供などを受けているからね。 そのギブアンドテイクで使ってるわけだし、ダークサイズがらみで何かあるとは思えないよ」 「……フクザツな事情があるのねえ……」 福と雅香が大岡の方をそっと見る。大岡がイワンの肩をポンと叩いた。 「まぁ、正常な運行が行われる範囲ではしっかり協力する。足を引っ張ることになるのは、一番嫌だしさ」 「おう、万事順調ならそれが一番だぜ。しっかりな!」 そこへちょこちょことパビモン ミラボー(ぱびもん・みらぼー)がやってきた。どこか落ち着かないようすだ。 「あれ? どうしたのこんなとこに来たりして?」 雅香が声をかける。 「……なんだかじっとしていられないミラ」 「遺跡に行きたいんだったっけ?」 大岡が声をかけると、ミラボーは頷いた。 「遺跡に行きたきゃ誰かのイコンに勝手に乗っちまったらどうだ」 工具を片手にイワンが冗談交じりに言う。 「……行きたい所に行ってくれないと困るミラ」 「……行きたい所?」 ミラボーの独り言のような言葉に問い返す福の言葉を置き去りにして、ミラボーは格納庫から出て行ってしまった。 高速走行するリニアは、フレイムタンの外れ、周囲にマグマのない堅固な岩盤のあたりで静かに停車した。だがリニアの終点から遺跡までがまたかなりの距離がある。 「さて、ここからまた、長い道のりが待っているわけだ」 長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は呟き、貨物車両から続々と降ろされてくるイコンや遠距離移動用トラックなどを見ていた。ダイヤモンドの 騎士(だいやもんどの・きし)に護衛されたカーディナルが歩み寄ってきた。長曽禰は方眉を吊り上げてカーディナルを見やる。 「……あんたも行くそうだな?」 「私もイコンで探索メンバーに同行させていただきます。皆さんのイコンの性能を見せていただきたいと思いましてね」 「単身で、か? 性能がフルに引き出せないだろう?」 「そうですね、本来の3割くらいの性能になりますか。皆さんについていくだけですから問題はないでしょう。 ダイヤモンドの騎士殿が護衛についてくださるそうですし……。 何かあれば、ジャマにならない位置に退避させていただきますよ」 長曽禰は眼光鋭く真正面からカーディナルを見た。だが、まっすぐに視線を返してきたカーディナルのにこやかだが平静な態度からは、何を思っているのか窺い知ることは出来なかった。