校長室
ニルヴァーナの夏休み
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遺跡探索―遭遇 グランツ教の信者が発見したという巨大遺跡。発見時に南側のエリアのある程度までは入ったということであるが、今回のように機材、人材の本格的な投入による調査ではない。現在わかっているのは非常に古い遺跡であること、北側へ抜けるための道があるらしいということが判明しているのみである。 「巨大遺跡の探索、楽しみです。ニルヴァーナの北側へ続く場所も含めて、色々見つかるといいですね」 セレナイトに搭乗している端守 秋穂(はなもり・あいお)がうきうきと言う。イコンの操作に集中していたユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が声をかけてくる。 「秋穂ちゃんがわくわくすることは、ユメミもわくわくするのー! ユメミががんばって操作するから、秋穂ちゃんは遺跡のあちこちを見てて、ユメミの分までー!」 「うん、ありがとう! 未発見のギフトや未確認の生き物がいるかもしれないし、生き物を中心に見ていくよ」 アンズー【黄山】に搭乗している叶 白竜(よう・ぱいろん)から通信が入る。 「私は地質学の特技がありますし、地質調査に専念したいですね。 遺跡の周囲の地質、石の構成による文化などのこともありますが……。 戦闘になった場合のことも考えて、まずは足場がどういう強度か把握したいですし」 「科学的調査、ということですねえ」 秋穂が言う。 「建造物の構造や、遺跡の文化について調べる方が多いでしょうしね」 白竜はアンズーの機能を使い、遺跡の壁を削り、サンプルを採取する。さらに壁面から洞窟の側面に穴をあけ、地層のボーリング調査も行う。敵性存在のモニタリングをしていた操縦担当の世 羅儀(せい・らぎ)が、白竜を見、ボソっと呟く。 「……何か楽しそうだな。まあ、ここんとこ厳しいイコン戦闘が続いていたから、こういうのもたまにはいいな」 掘り取ったサンプルを簡易分析にかけていた白竜が、うーんと唸る。 「火山帯だけあって、大部分がガラス質、セラミックの類なんだが……ちょっとこれを見てくれ。 解析が進められていた黒い種子の欠片に含まれていたのと同じ、エネルギーを有する物質と似た物質が含まれているようだ」 「ほう? どれどれ」 羅儀が興味深げに覗きこむ。 「だが……どうもこのエネルギーの減衰の仕方が、不自然な感じでね……」 「もしかして、ファーストクイーンが言っていた『ニルヴァーナの大地が人々の手によって世界を取り戻しつつある』ってのと関係してるのかな? っても、ここじゃ詳細な分析はできんからな。ラボに送って、詳細に分析してもらうのがよさそうだな」 羅儀が言うと、白竜も頷いた。そこに秋穂からの通信が入る。 「ねー、みてみて、へんな生き物がいたよ」 秋穂の弾んだ声とともに、発見した生き物のデータが転送されてくる。6本の脚を持つクモがカニの甲羅のような装甲をまとったような生き物だ。脚を縮めると、このあたりにごろごろしている岩の塊のように見える。良く見ると頭部に大きめのものが2つ、それに挟まれるようにして2つの目と思われるものが、岩に埋め込まれたガラス玉のようについているのがわかる。岩についている有機物を取って食べているらしく、おとなしい性質のようだ。 イコンに搭載されている武器はイコンサイズ、あるいはそれ以上の敵との戦闘を想定したものであり、人間サイズかそれ以下の大きさのものには適していない。それゆえにイコンにあえて搭乗せず、科学調査を行う秋穂、白竜らを見守っていたヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)は、セレナイトの周辺にただならぬものを感じた。近くのマグマだまりから、マグマの塊が這い上がってきて、ゆっくりとセレナイトのほうへと接近してくるのだ。 「事故や戦闘は付き物ですけど……あれは一体??」 エリス・メリベート(えりす・めりべーと)がその物体を凝視する。 「ヘンな物体が接近中ですっ!」 ユメミが叫んだ。マグマ様の物体は意外と素早く、セレナイトの脚部に取り付いてしていた。どうやら機晶エネルギーを吸い取ろうとしているらしい。エリスが即座にパワーブレスを発動し、ヨーゼフは素早くスナイパーライフルを構え、シャープシューターで物体を狙い撃った。凄まじい衝撃でマグマのような物体の三分の一がむしり取られ、それはボロリとセレナイトの足元に落ちた。マグマの輝きは薄れ、黒ずんだゴム状の物体に変わったそれはどうやらマグマに擬態した生物のようだ。中心辺りに核があり、それを狙撃されて死亡したようである。どうやら機晶エネルギーにを惹かれて最寄のイコンに取り付こうとしたものらしい。ヨーゼフはすぐにこの生物の情報を全員に送信した。 遺跡の未知領域。調査隊に先駆けて索敵していたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の搭乗するイコンは、同行した索敵メンバーと手分けして崩れていない通路を探していた。 「まったくもー、折角プールでレジャーっていうプランもあったのに、こんな時まで真面目に探索? ま、いいけどね……」 ロートラウトがぶつぶつとこぼす。 「夏休みのドンチャン騒ぎを心置きなくするためにもここはひとつがんばりどころだろ?」 エヴァルトが言って、モニターに映し出された通路に目を走らせる。瓦礫はあるものの、奥が見えない通廊があった。 「お? ここ、有望そうじゃね?」 床の瓦礫を踏みつけた瞬間。 奥から道を半ば塞いでいた瓦礫を吹き飛ばすようにして、2体の機晶ロボが飛び出してきた。全長5メートルほどと小型だ。4足歩行型で、どこかメカニカルなクモを思わせるようなデザインだ。カラリングはイレイザー・スポーンを思わせるベルベットのような黒と銀である。大きな複眼に似たものがある頭部をぐるりと回し、イコンをセンシングしている様子だ。 「なんかヤバイ雰囲気だな」 エヴァルトが呟くと、すぐに他のメンバーに情報を送信する。と、同時に2体のクモ状ロボが頭部から機晶レーザーを放ってくる。ロートラウトが素早くイコンを操作し、避ける。レーザーは背後の建物の壁に当たり、円形の蒸発あとを残した。その陰から毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)とライラック・ヴォルテール(らいらっく・う゛ぉるてーる)の思い切り近接戦用にチューニングされたイコンと、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)の、巨大な真紅のウルヌンガルが援護に現れた。ウルヌンガルの目立つ色彩と相まって、装甲の表面に浮き上がった文様もまたひどく異質な印象を受ける。 「この奥に道があるなら、銃器で派手に戦うわけにはいかない」 エヴァルトの通信が入る。ライラックがそれに応える。 「それは問題ないです。うちの機体、射撃? ナニソレオイシイノ? 状態だから。 二刀流とシールド2基の超近接仕様……私ら2人とも脳筋じゃないのにね……」 「敵性対象を協力するメンバーと一緒に殲滅していくだけの簡単なお仕事です」 毒島が茶化す。 エヴァルトのイコンが一機を掴んで、頭突きをする。毒島の機体がもう一機に蛇腹の剣を巻きつけて動きを鈍らせ、盾ともう一つの剣で頭部をガンガンと叩きつけている。 「パラミタがいつまで保つか分からないんだから、さっさと片付けなきゃ」 ロートラウトが呟く。 「何事もなければいいと思っていたんだけど、運用テストでいきなり実線かー……うーむ」 呻きながらグラルダが、徒手空拳で格闘のように戦うエヴァルトの持ち上げた機晶ロボに援護射撃を行うと、クモの腹部が吹き飛んだ。 「やった!」 ロートラウトが叫んだ瞬間、鋭いエッジを持つ機晶ロボの前足がガキリとイコンの腕に食い込んだ。胸から上しかなくなった体を固定し、ロボットの頭部から機晶レーザーが放たれ、コクピットを掠めてイコンの腰部と脚部を直撃した。脚部の関節をやられグラリと崩れ落ちるエヴァルト機。機能を保つ腕でクモの頭部を叩き潰すと、機晶ロボはその機能を完全停止した。 「……移動不可!? これは、修理と改造が必要か……」 エヴァルトが呻く。 「敵が機能停止したのを確認しないままにしちゃって、機体が壊れちゃった……ごめん。 グラルダさん、ありがとうございます」 ロートラウトが言った。 「うーん、これはひどいね……」 グラルダが移動不能になったイコンを見やって顔をしかめる。 「グラルダ。お腹でも痛いのですか?」 グラルダの隣、計器やモニターの類が一切なく、座席を中心に巨大な魔法陣が描かれた機体制御専用の座席にちょこんと座っていた魔女のシィシャが無表情に尋ねる。 「違うわよ」 「そうですか」 複座は何事もなく平和だった。 「こっちは片付いた」 毒島の声が響く。 「ありがとう、すまん……」 エヴァルトが言うと、毒島がおほんと咳払いをして言った。 「べ、別にあんた達の為にやったわけじゃないんだから……」 「……大佐につんでれは似合わないと思う」 ライラックがさらりとツッコミを入れ、続けて長曽禰ら他の部隊に緊急連絡を入れる。 「こちら毒島機。機晶ロボとおもわれるガードロボットと遭遇。注意されたし。 戦闘となりエヴァルト機が中破。頭部のレーザーと脚部の未知の金属製のエッジによる攻撃が主の模様……」 報告中に通路があるらしいが、瓦礫が多いと聞いて駆けつけてきたハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)、鶴陽子(つる・ようこ)の搭乗するアンズー「フルンズベルク」が瓦礫を片付け、通路のひび割れや壁の不安定な箇所などを補強し始めた。 「これだけ巨大な遺跡だと、通れない場所を迂回するだけでも、大変な時間が必要だからな。 修復で前進できそうな通路があるなら、それを使えば時間短縮になるはずだ」 ハインリヒが言った。陽子は機体から降りて細部の修復具合やほかに修復、あるいは注意が必要な箇所などがないか目視で確認を取る。 「気をつけろよ、ほかに何かいないとも限らん」 ハインリヒからの通信に、陽子が応える。 「十分注意するわ。細かい手作業はあたしの得意分野よ。任せて」 ハインリヒは大まかな補修、撤去作業を行いつつ、万一機晶ロボがまた現れた場合には、頑丈な機体を生かして盾となることを伝え、エヴァルトの機体の撤去を補給班に伝えた。