校長室
ニルヴァーナの夏休み
リアクション公開中!
「ポッポー! ポゥッポー!!」 鳥人型ギフトが元気ギンギンで、立ち上がり叫んで口をパクパクさせていた。今にも鳥籠に向かってジャンプあんどダイブしそうなテンションだ。 「ティリーシア(ティリーシア・ハイドレンジア(てぃりーしあ・はいどれんじあ))! 鳥籠を隠して! 早く!!」 いち早くマルティナ(マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー))が動いた。このままでは会が壊れる、司会進行を務める者としての第六感か、そんな危機感をヒシヒシと感じたという。 まずはメス鳥を隠すこと、それから鳥人型ギフトの興奮を鎮めることだ。 「落ち着いて下さい! あなたはこの会の責任者なのですよ! ギフトさんっ!!」 鳥だけに、皆で体を取り押さえた。…………冗談言ってる場合じゃない。あるか分からない鼓膜を破る勢いで叫び、呼びかける。 「ギフトさんっ!! 審査をするのはあなたです! しっかりして下さい!」 「ん……我輩、は? いったい何を?」 「審査です! 最強の計略発表大会の審査員をしていたはずです! 思い出して下さい!」 「審査……ぉお! 審査、そうだそうだ、我輩は審査をしていたのだ。どうした? 次の発表者は居ないのか?」 正気に戻ったか? いや、口調は戻っても、目はまだハートのまま、欲情したままだ。正気と狂気の間で揺れているのかもしれない。 とにかく、真面目な雰囲気で発表会を続けていけば、時間と共に正気を取り戻すことだろう。そんな期待を込めてマルティナは次の発表を予定していた武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)、武神 雅(たけがみ・みやび)ペアをステージに上げたのだが――― 「俺たちは、大爆布に出現した『樹』にコーラルネットワーク存在しているか、それを確かめるための調査を行う必要があると考える―――」 「真面目かっ!」 !!? 真面目でまともな提案だったにも関わらず鳥人型ギフトは迷いなく落下ボタンを押していた。 「次っ! どんどん来るのだ!」 鬼籍沢 鏨(きせきざわ・たがね)、後鬼宮 火車(ごきみや・かしゃ)ペアも「パラミタを救う方法に固執するのではなく、一刻も早いニルヴァーナへの移住を考えて行動するべきではないかと考える」といった非常に真面目な意見を言ったのだが――― 「真面目かっ!!」 またも本末転倒な理由でボタンを押された。 「先日、エリザベート({SNM9999005#エリザベート・ワルプルギス})校長が2009年に向けてタイムホールを開けた事があったよな」 カール・イェーガー(かーる・いぇーがー)とアレックス・ジーン(あれっくす・じーん)の案はインテグラル討伐に関してかなり具体的な意見を述べた。 「あれを小規模でいいから行えばいい、特殊なクリスタルを打ち、別の次元に放逐するんだ。もちろん空間の制御はエリザベートに―――」 「他人任せっ!!!」 またもボタンを押された。落下する二人の「なぜだ」という顔……困惑は、ごもっとも。 これで間違いない、鳥人型ギフトは今もパニック状態、欲情からの混乱が今も続いているのだ。元から正常な判断が下されていたかは別だが。 発表は続く―― 「私はニルヴァーナの国家神であるファーストクイーン様を守るための組織が必要だと考えます」 このイルゼ・フジワラ(いるぜ・ふじわら)、シュピンネ・フジワラ(しゅぴんね・ふじわら)ペアの提案には、 「管轄外っ!!」 ザッパーン! この鳥人型ギフトの管轄ってなんなのだろう。 「ふむ。防衛戦なら高所に陣を取るのが定石。ゆえに高台に城を築いては?」という土方 伊織(ひじかた・いおり)、馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)ペアの提案に対して、 「地味子!」 ドッパーン! 地味子……確かに最強感は欠片も感じなかったが…………地味子とは。 「私はザナドゥの魔族を開拓民としてニルヴァーナに派遣するのが良いと思います。魔族は身体能力も知能も高いですから」 アウナス・ソルディオン(あうなす・そるでぃおん)、スパルタクス・トラキウス(すぱるたくす・とらきうす)ペアの意見は初めこそイケるかな、と思わせる内容だったのだが――― 「ザナドゥの魔族は現在、イナテミスに移住を始めていますが、移住を希望する魔族全てを受け入れることは出来ないでしょう。そこでニルヴァーナです。ニルヴァーナの大地は広大ですし、それに万が一、危険や脅威に晒されようとも魔族は丈夫です、それに、たとえ犠牲が出ても、シャンバラにダメージはありません―――」 「ひとでなしっ!!」 ジャッポーン! 鳥人型ギフトはかなり漲ってきたようだ。 「今までの交戦結果を見ると、インテグラルには「絆の力」が効果的だと思うの。ブレイドオブブレイドであれだけの力が出せたんだもの」 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)とルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)の提案に対して、 「だから、『メテオスウォーム』の時みたいに皆の絆の力をあつめた強化光条兵器やギフトが作れればきっとインテグラル・クイーンだって―――」 「最強っぽーい! でもポーイっ!!」 完全にノリで押していた。もう駄目だ。マルティナは再び鳥人型ギフトの捕獲に動いた。 「ぬっ! 何をする!」 「暴れないで下さい!」 羽交い締めにして取り押さえた時、マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)がそっとティーカップを差し出した。 「一口いかがですか? 頭も冴えますよ」 確かに紅茶には気持ちを落ち着ける効果があるが、それどころかどうだろう、紅茶を口にした鳥人型ギフトは、気付けば混乱状態から脱却していた。これも『メイド向け高級ティーセット』の力だろうか。 コンディションが戻ったのなら発表会を再開したい所だが、ここで一つの知らせが入る。実は次の凱 鼬瓏(がい・ゆうろん)、李 蕈霸(り・しぇんふぁ)ペアが最後の発表者だそうだ。 これまで全ての発表者が落下している。つまり、二人が提案を述べ、その後ボタンを押される事なくステージに立ち続けていたならば、もれなく優勝ということになるのだ。 「え、と。それでは発表します」 緊張の面もちで鼬瓏が言う。 「私たちはインテグラル化に注目しました。インテグラル化しつつ自我を残す方法を見つけることが出来れば、こちらの戦力は大幅に増強できます」 より身を入れて聞くためか、やはり気持ちを落ち着けるためか、鳥人型ギフトは頻りにマリカが煎れた紅茶を啜っている。 「もちろん失敗すればインテグラル化し、自我を失う恐れがあります。しかし研究は行うべきです、ですから、インテグラル化の被験者には私がなります」 それだけの覚悟がある、と付け加えて鼬瓏は発表を終えた。 「合格? それとも落とす?」 亜璃珠が問う。案としては決して悪くない、彼は覚悟も示した。「合格で良いのでは?」という空気が徐々に漂い始めていた。 「ふむ」 鳥人型ギフトは強く口を結んだままだ。どちらにするか決めかねているようだ。 そのまましばし悩み、しばし口を噤んでいたからか、また紅茶が飲みたくなって、それを飲んだら今度は急に口が寂しくなって――― 「(あれは……)」 視界の端にメメント モリー(めめんと・もりー)がこっそり置いた『エアチョコ』を見つけた。鳥人型ギフトは何喰わぬ顔で『エアチョコ』に手を伸ばした―――その時だった。 ポチッ。 「あ……」 鳥人型ギフトの腕部が落下ボタンを押していた。 ボタンが押されればステージの床が開く。床が開けば鼬瓏も蕈霸もプールへドボン、失格である。 「なあぁぁぁぁぁああああ!!!!」 今頃になって鳥人型ギフトが叫んだが、叫びたいのはこの場に居合わせた者たち全員である。これだけ長いこと付き合って、グダグダのイベントを最後まで見た結果が、まさかの「優勝者なし」。 報われない。ため息と共に、ぐったりと疲れが押し寄せた。 「これだけ人が集まっているというのに、この静けさは何事です?」 今頃になって三賢者が会場に現れた。しかもなぜか階段を登り、ステージの中央に並び立ったので、 「ふん」 躊躇なく、亜璃珠がボタンを押した。今は絶対に絡みたくない連中だ。 「そうだ。そういえば、あなたも一度立ってみたら?」 そう言ってステージ中央に鳥人型ギフトを促した。鳥人型ギフトが立ち上がり、ステージ中央へ歩みゆくにつれて、会場の想いが、人々の想いが集まりゆく。 「どう? 今の気分は」 「ふむ」 発表者の気分を味わっているのか、鳥人型ギフトは両手を広げて、深く息を吸った。 「なかなか悪くな―――」 ポチッ。 皆の心が一つになった瞬間だった。 その後、なんとなく優勝者はリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)さんに決定しました。