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ニルヴァーナの夏休み

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遺跡探索―ミラボーの秘密


「行くぞ!ドラゴランダー!『黄龍合体!グレート・ドラゴハーティオン!』」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、何かの特撮もののようなセリフとともに、龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)に搭乗した。万一機晶ロボがこの辺りに残留していたときのために、建物調査メンバーと待機していたのである。そのそばにいた葛葉 杏(くずのは・あん)は、どこに紛れ込んでいたものか、ミラボーがちょこちょこと前方を横切るのに気がつき、急いで走ってゆくとミラボーを抱え上げ、橘 早苗(たちばな・さなえ)に話しかけた。
「見て早苗、なんか丸いものを見つけたわ」
「杏さん、それはパビモンのミラボーですよ。……こんな所に……どうやってきたんでしょうね?」
「ミラボー、そういえば見たことがあるような……」
「何かトラブルかな?」
ハーティオンが訊ねた。
ミラボーが呟く。
「行かなくちゃ……早く……行かなくちゃ……」
「なんかあの建物の方に行きたがってるみたいなの。連れて行きましょうか」
杏は早苗にミラボーを投げ渡した。
「わっとっと、投げないでくださいよぅ、この子が可愛そうですぅ。
 ……外見からは解らないけどこの子、意外と重いですね……」
「何か彼は他人事とは思えん。私も協力させてもらおう。目的の建物の護衛は任せなさい」
ハーティオンが請合った。
身をよじるミラボー。下ろしてほしそうな身振りに、早苗はそっとミラボーを地面に下ろした。
「やっぱ、ロボだから変形とかするのかしら?」
「……ウサギについてゆく……不思議の国のアリスのようだな」
呟くハーティオン。はやるドラゴランダーが、不服げな咆哮を上げる。
「ガオオオオン!!」
(ハーティオン、戦闘はたまには我にもやらせろ!
 大型の敵が出たら、この拳の『ドラゴ・クローナックル』で引き裂いてくれるわ!
 そして、たまには止めを我にも叫ばせろ!)
どうやらこのような意味のことを言っているらしい。
「……決めゼリフか?」
「ギャオオオオン!!」
(グレート勇心剣!彗星!一刀両断斬りーっ!)
「それは私以外には吼え声としか聞こえぬが、それでよいなら」
ドラゴランダーは考え込んでしまった。ミラボーの後についてゆく少女2人と巨大竜。その少し後ろからパワードスーツで武装したグンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)プルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)がついてゆく。
「ミラボーが何かを起動する為の鍵や遺跡の内部に詳しい可能性もある。
 万一ブラッディ・ディバインの残党に攫われたら後が面倒だ。イコンは人間向け戦闘には向いていない。
 そういうわけで俺たちの出番だ」
グンツは念のため長曽禰にミラボーが発見された建造物群のそばに現れたこと、どこか目的とする場所がありそうなことなどをテレパシーで伝えた。
(何かわかれば知らせてくれ。以上)
長曽禰の思念が応えた。
「一体どこへ向かい、何をしようとしているのか興味がありますな」
プルクシュタールが言った。セリフとは裏腹に、今日の夕食のことを考えていたりするのだが、表からはそのことはまったく窺い知れない。
何かに導かれるかのごとく、ミラボーは周囲の建物全てを無視して、中央にある半ば崩れた建造物にまっすぐ進んでいった。半透明のドームのようなもののそばに行ったミラボーが、壁にしか見えないもののどこかを操作すると、壁全体が動いた。開口部から長い廊下がその奥に続いているのが見える。プルクシュタールが呟いた。
「隠し扉か……」
突き当りにはもう一枚、ぼろぼろになった扉があり、ミラボーはそこもこともなげに開いた。この部屋はもとは何かの研究室か何かだったようで、正体不明の機械類が辛うじて破損を逃れた部屋の中にホコリにまみれて立ち並んでいる。ミラボーが懐かしむような響きのある声で言った。
「……ホーム……」
そして奥にあったメモリーチップのようなものから、何かのデータを取得したらしい。グンツはサイコメトリーを使ったが、なにか阻むものがあり、何も読み取ることが出来ない。ミラボーはそのままとことこと外に出てゆく。
「どうしたの?」
「何かあったのかな?」
杏とハーティオンがミラボーに尋ねる。
「必要なデータの取得完了。……ギフトに関するデータ……ただし使用に膨大な出力のエネルギーを必要とする……」
ミラボーが平板な声で言ったが、ところどころ不明瞭ではっきりと聞き取れない。元のデータが破損しているのかもしれない。
「この遺跡は一体……」
呟くハーティオンに向き直り、ミラボーは再び平板な声で語りかける。
「ここは……要塞。……南北の回廊を……し作動せよ」
それだけ言うと、ミラボーは沈黙した。全員で調べた部屋に残されていたものから得た情報を継ぎ合わせると、どうやらこの遺跡は北側への進行を妨げる非常に強力な仕掛けを持っているらしいことがわかった。

 遺跡の管制システムがあると思しいエリア。源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)を伴い、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)らの搭乗するイコンに護衛され、さほどひどい保存状態ではない建物に近づいた。
「要塞らしいっていう話もあるけど、はっきり分からない以上、まずは解明が最優先だな。
 無用な摩擦はなるべく避け、機能を保全した状態で確保しよう」
鉄心が言った。
「ミラボーさんに会いたかったなぁ……」
ティーが呟くと、建物の向こうからチョコチョコとミラボーが現れた。
「え……? あ、ミラボーさん」
「呼ばれたから来てみたミラ」
「同じエリアに来ておったのじゃな」
房内が呟く。
「敵性体を発見しても、可能であれば所属確認、話し合いをしてから戦闘にしたいですね」
貴仁から鉄心に通信が入る。
「そうだな。遺跡の防衛機構が生きているとすれば、侵入者は此方。
 何かあったとしても、この建物の保護については最優先で考えてほしい」
「俺のイコンは戦闘は遠近どちらでもいけるので、その辺りの加減はしやすいですよ。
 まあ……状況によりけりな戦法で行きますかね」
隣の席では房内が、つまらなそうに腕組みしていた。
「今回はイコンに乗って主様のお手伝い……とはいえ、わらわは特に多くのことをできるわけではないからのー。
 まぁ、辺りを哨戒しとくとするかの。 ……それにしてもエロイ事ができないとなんともつまらないのぅ」
「……毎回毎回……それしかないんですか……」
「うむ」
貴仁は嘆息した。
鉄心はティーを伴い、警戒しつつ建物内に入った。がらんとした室内は機晶ロボ、生命体のいずれも確認されず、無人だった。片隅のコントロールパネルと思しきものだけが、光を放っている。
「これか……」
警戒しつつ近寄る。
「ティー、周囲に注意しておいてくれ」
「はーい、見ておきます」
返したティーは無光剣を構えた。鉄心はゆっくりとパネルに近づくと、通じるかどうかはわからないが一応声をかけてみた。
「こちらに敵対する意思はない。ファーストクイーンの承認もある。……此処を利用させて頂きたいだけだ」
が、何の反応もない。システムをざっとチェックしてみた。お手上げだ。何かするにも、あまりに技術が違いすぎ、手がかりすらない。
「せめて……なんとか停止させないと」
ミラボーがチョコチョコとやってくると、鉄心の顔を見上げた。
「……止めたいミラ?」
「あ、ああ……」
不意にシステムが沈黙した。ティーが目を丸くする。
「どうやったの?」
「わからないミラ」
ティーはずっこけた。
その瞬間、房内から警告が入った。
「なんかやばそうなものがやってきたぞ」