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ニルヴァーナの夏休み

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遺跡探索―イレイザー出現!

 現れたのはドラゴン状の飛行型イレイザーだった。背中に翼と触手を持っている。全長は優に10メートルはあるだろう。貴仁のイコンがシステム管制室を守るべく、建物を背にして立ちはだかる。イレイザーがゆっくりと管制室の方へ近づいてくる。
「襲ってこられたら全力でかからないとヤバイ相手ですね……まずいな」
貴仁が呟くと、ヨーコ・ティアノート(よーこ・てぃあのーと)から通信が入った。
「私たちの機体が囮になって広い場所へと誘い出します!」
張 楽俊(ちょう・らくしゅん)が、すぐに有事に備えて待機していた戦闘メンバーに通信を入れ、イレイザーの目の前にイコンで突っ込んだ。
「イレイザー出現。これから建造物エリアよりおびき出す」
イレイザーはすぐに反応し、触手を叩き付けて来た。それをかわし、管制室からダッシュで離れる。イレイザーはまんまと餌に食いついてきた。建物群そばにいたハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)エクリィール・スフリント(えくりぃーる・すふりんと)の搭乗する機体が、きっちりイレイザーの触手をを狙ってレーザーライフルを撃ち込む。2本が蒸発し、中途から焼き切られる。羽虫が集くような音を立てて、イレイザーが咆哮する。
「こっちへ!」
ヨーコらの機体は戦闘向きではないのを見て取り、ハイコドが叫んで、中央通路から外れた広場の方へとイコンを奔らせる。
「エクル、イコンに乗りたい希望はかなったな」
「うちにイコンがあったとはの。あくまでサブなのがまたなんとも言えぬが、まあ仕方なかろう。
 わらわにできる事を素直にこなすだけじゃ」
ヨーコの機体がターゲットから外れたのを確認すると、ハイコドは怒り狂うイレイザーを見やり、ぼそっと呟く。
「……第一世代イコンで大丈夫だろうか? まぁ、購入した武器の試しもしてみたいから撤退しながら数回攻撃しとくか。……それにしてもあいつ、羽があるのに飛ばないんだな……」
広場のところどころには大規模なマグマだまりがいくつかある。それらを避けてイコンを走らせながら、エクリィールが操作パネルをにらみつけている。
「えーと、ここがレーダーでここが……これは何のスイッチかの?」
パイルバンカーが射出され、地面に突き刺さる。機体がのめり、脚部全体に凄まじい負荷がかかり、関節部から火花が散る。ありえない姿勢で二つ折りになった機体は、追ってくるイレイザーの正面で無防備な姿を晒す結果となってしまった。
「まずい!」
凄まじい衝撃が走る。イレイザーが残った触手を機体に叩き付け、鋭い牙がガリガリと凄まじい音を立てて外装に食い込む。が、次の瞬間再度衝撃が走り、イレイザーが機体から離れた。
「大丈夫?」
十七夜 リオ(かなき・りお)の声が通信機から聞こえてきた。リオの機体が対神スナイパーライフルによる狙撃で、イレイザーの背中を撃ったのだ。
「攻撃のさい遺跡に被害がいかない様にしないと? ……面倒臭い」
戦闘関連捜査を担当するフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)がぶつぶつ言った。
御凪 真人(みなぎ・まこと)が声をかける。
「今までの様子からイレイザーは重大な危機に瀕すれば目的等より、撤退や回復を選択するようです。
 倒せるのがベストでは有りますが、最悪再生モードにして動きを封じるのが良さそうですね。
 今まで頭部に大ダメージを与えれば再生モードに入りました。頭部を集中攻撃しましょう」
「了解しました」
フェルクレールトが応じる。
「向こうも大きいけど、こちらも大きな的。ちゃんと回避しないとね。
 機動力を生かせないとキツイ戦いになりそう。数も少ないし、守りながらの戦闘じゃね……」
「なんか様子が変ですね……」
真人が呟く。近くで隙をうかがってていたシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)の脳内に、ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)からのテレパシー通話が割り込む。
『見て! 背中に大きな裂傷があって治りきってない!』
「先だっての戦いの生き残り……? なんだか怪我してて動きが鈍いようです」
シフが真人に伝える。
「それか!」
真人のパートナー、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が、イレイザーの頭部を新式プラズマライフルで狙い撃つ。イレイザーは首を振ってよけたが、怪我のせいか動きに俊敏さがない。動きの甘さから片方のツノを失う結果となった。吹っ飛んだツノがマグマ溜まりに落下し、白熱した溶岩の上で白煙を上げて見る見る縮み、炭化して蒸発した。ミネシアがぞっとしないといった様子でシフに思念を投げかける。
『閉鎖空間での機動戦、となれば壁とか柱とかにぶつからないようにってのもだけど……ここはマグマまで……。
 壁崩したりして生き埋め、とかシャレになんないし、マグマで真っ黒こげも避けたいわね〜』
「マグマでこんがり……最悪です……」
シフの呟きを聞きつけたフェルクレールトが言う。
「……いいことを考え付きました。吹っ飛んだツノがマグマで溶けました。この数では正攻法では倒せません。
 そこの池に仕上げをしてもらうのはどうでしょうか」
「……うまい手だね。誘い込むようにしたらいいんだね」
リオが感嘆の声を上げた。セルファが興奮した声で叫ぶ。
「うちの機体が新式ビームサーベルを使って接近戦に持ち込んで、おびき寄せるわ。
 元気いっぱいのイレイザー相手じゃ通じないだろうけど、かなり動きが鈍ってるからね。
 機動力を生かせば離脱できると思う」
真人の機体がイレイザーめがけて突っ込んでゆき、ビームサーベルで触手を攻撃する。
「こちら側でのイコンの使用は初めてですから、各種データはしっかりとっておきましょうね。
 さてと、敵の霍乱・牽制は得意とするところ。行きましょう」
後方からシフの機体が援護射撃を行う。怒り狂ったイレイザーが猛烈な炎を吹く。ヒットアンドアウェイの戦法で、じりじりとマグマだまりのほうへ後退する真人のイコンを追って、イレイザーが飛び掛る。機動力を生かして闘牛士のようにそれを避けると、イレイザーはマグマ溜まりの縁近くでたたらを踏んだ。やはりこの化け物もマグマイレイザーではない以上、マグマを避けるのだ。踏みとどまったイレイザーに向かって、フェルクレールトがその辺に転がっていた大岩をぶん投げる。
「潰れてなさい」
辛うじて踏みとどまっていたところに、重量物が衝突したのだからたまらない。よろけるイレイザー。さらに加わった荷重に、足元の岩盤が耐え切れず崩れると、大岩の重みでイレイザーはマグマ溜まりに転落し、白熱した表面に押し付けられる形になった。
「キシャアアアアアアアア」
金属をすり合わせるような悲鳴が響く。全身を硬直させ、胸の悪くなるような凄まじい量の白煙を上げながら、イレイザーの巨体はじりじりと縮み、炭化し、蒸発した。
皆一様に黙り込んで、その凄まじい死に様を見つめていた。
やがてリオがわれに返り、計器を見て悲鳴を上げた。
「うっわぁ、イコンの表面温度が凄い事になってる……。帰ったら装甲類含めてオーバーホールしといた方がいいかも」
フェルクレールトが頷く。
「そうですね。でも、今後の運用や戦術の構築のためのデータはかなり集まりましたし。
 全体としては悪くないのではないでしょうか」
以前イレイザーと対峙している真人が言った。
「今回はとても運が良かった。もし元気なイレイザー相手でしたら、とても倒せなかったと思います。
 たまたま深手を負って弱っていたから何とかなりましたが……」
中破した機体で、ハイコドが呟く。
「あれで動きが鈍ってた?? ……ああ、やっぱりプールのほうにに行っておくべきだった」