校長室
ニルヴァーナの夏休み
リアクション公開中!
遺跡探索―調査 遺跡奥に通じているらしい通路を七尾 蒼也(ななお・そうや)は龍鱗化と氷術による暑さ対策を施し、機動性があるワイバーンに乗って、前方偵察に向かっていた。通路というイメージから想像される狭い道などではない。天井は見えないほど高く、両脇に壁や、時に別の通路があるものの巨大なワイバーンが楽々と飛行でターンできるくらいの規模がある。ところどころにあるマグマだまりのほの明かりでは、周囲がほぼ見えない。 「レーゲンボーゲン、何か感じたら教えてくれよ」 龍の咆哮でワイバーンに話しかける。後続のペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)が声をかけてくる。 「探検ってわくわくしますね♪ お店にいるだけじゃ未知の場所を行く感動は味わえません」 「そうだな。でも、ハインリヒさんたちの話によると、機晶ロボもいるみたいだから、注意して進まないとな」 「道はトレジャーセンスには引っかからないかしら……」 「それはムリだろ……」 「そっか〜。みんなの喜ぶ顔が見たいし、がんばりましょう」 先頭を飛行する蒼也の後方、通路の右側メインに索敵と捜査対象がないかを担当している鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)は張り切っていた。なんといっても念願のイコンでの捜索である。しかもかねてからの希望が叶い、望美がメインパイロットなのである。気分が高揚しがちな彼女を、心配げに大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が見守っていた。フレイムタンと違いイコンの空調はそこそこ効いているものの、それでもコクピット内部はかなり暑い。望美を扇ぎながら剛太郎は保冷用の容器からアイソトニック飲料を取り出し、望美に差し出す。 「そろそろ水分を取らないと、熱射病になるぞ」 「あ、ありがとう!」 「気持ちはわかるが、あまりハイになるな。そういうときは危険な行動に出やすい。 普段より慎重に動くつもりで行けよ」 「うん、気をつける、『やむを得ない場合を除き、敵との交戦は極力控える』よね」 「今回は偵察重視だからな。それに通路を破壊したりするのもまずい」 「そうだね」 左ウイングを務めるゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は、一人怪気炎を上げていた。 「フレイムタンの雰囲気は今までの探索でばっちりだからな。がはは、怪しいところは俺様が見つけるぜー!」 「……怪しいって言っても、モヒカンに出来る対象はないんだよね〜」 バーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)がつまらなそうにぼそっと呟く。 「嫁ーー!! 嫁のためにもがんばるのだ。わはははは」 ゲブーは聞いちゃいない。 「あーあ、折角の研いだはさみが意味ないしー……」 ワイバーンと並んで小型のイコンで移動していたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が蒼也に声をかけた。 「空気の流れはありますか?」 「いやー、空気の動きは感じないね〜」 「そうですか……外部に通じているなら、そちらから、あるいは南側からの空気の流れがあるかと思ったのですが」 「あんまり広すぎて、どっかで相殺されてるんじゃね?」 姫宮 和希(ひめみや・かずき)の音声が割り込む。 (荒れ果てたニルヴァーナの大地……遺跡の北にある大地は一体どうなっているのでしょうか……。 そしてパラミタを救う方法はあるのか……なんとか先に繋がる出口を見つけたいですね) ザカコは何か手がかりがないかと外部モニタリングの結果をチェックしてゆく。そんなザカコを見ながら強盗 ヘル(ごうとう・へる)はぼんやりと考えに浸っていた。 (年代物の遺跡なら、中にどえらいお宝があるかもしれねえが……今回は宝探しどころじゃねえのが残念だぜ。 命あっての物種ってやつだしな、生き残る為にも俺達は先に進まなきゃな。 ……とはいえ、プールリゾートって手もあったんだよなぁ。ニルヴァーナ校で遊び回りたかったぜ) そして口に出してはこう言った。 「にしても暑いな……。この暑さと大瀑布を利用して、ここを温泉施設にでもしたら受けそうな気もするぜ。 ま、中に敵がいなくなって、世界が無事だったらってことだが……」 「希望を捨てずに進めば何とかなると信じましょう」 ザカコが短く応える、 「だな……」 そのやや後方を移動中の和希は、あまりの暑さにイコンのハッチを開け放ったままだった。おまけに暑いからと胸元もはだけてしまっている。ぐったりとシートにもたれかかり、バタバタと上半身を乱暴に扇いでいる。 「あぢー。なんでこんなに暑いんだよ……」 ドラゴニュートのガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)が、忙しく計器チェックやモニタリングをしながら返事を返す。 「ハッチを開けておるから、空調が効かず余計暑いのだ」 「あ〜? 閉めた方が涼しい? なーんかよー、締め切ってると余計暑い気がするんだよな〜」 「決まっている。……それとそのなり、せめて胸元は隠せ」 「あちーんだよ。大体見られたって減るモンじゃねーし……」 ぶつぶつ言いながらも和希はハッチを閉める。一息つける程度にはコクピット内部の温度が下がる。 (パラ実ははみ出し者を受け入れる都合でニル校と少し距離があるが、決して仲良くしないって訳じゃない。 パラ実生徒会長として探索を手伝い、イメージアップに頑張らなきゃな) だらしないカッコウで座りながらも、和希の神経のセンサーは最大に研ぎ澄まされている。ガイウスは黙々とイコンを進め、周囲のモニター結果を記録している。 「む? センサーに反応!」 ガイウスが緊張した声で言たっときには、すでに和希は緊張を漲らせ、モニターを凝視していた。 「敵と思われる反応が右通路より接近! 反応は3!」 セタレに搭乗している遠野 歌菜(とおの・かな)が即座に戦慄の歌で先制を取った。月崎 羽純(つきざき・はすみ)が行動阻害で、現れたクモ型の機晶ロボの動きを鈍らせる。和希がさらに敵の注意を引き付け、囮になる。 「敵だ敵だー!! なんかクモみてえのがでてきたあああ」 ゲブーがわめく。 「なんか出て来たけど……これじゃ散髪できないしなー……」 つまらなそうなバーバーモヒカン。 羽純が一気にセタレと敵との間合いを詰め、比較的大きな機晶ロボの頭部を狙ってマジックカノンを打ち込む。続いてすれ違いざまにマジックソードで2機目をで頭部を斬り沈める。和希らの機体もヒットアンドアウェイの戦法で、もう一機の頭部を見事に砕いた。 「敵機全機を破壊! 遺跡の損傷はゼロ」 羽純が短く通信を送った。彼らは再び捜索と前進を続けた。北の大地への通路を探し出し、パラミタを救うべく。 遺跡が放棄されてから長いため、本来は相当数の機晶ロボが守護に当たっていたのであろうが、現在機能が生きているものは僅かのようだった。機晶ロボに守られた通路が発見されたあと、今回の調査に当たり、生身あるいはパワードスーツによる細部調査を申し出ていたメンバーに、イコン部隊からやや広くなった場所にいくつかの保存状態の良い建造物が存在するエリア発見の一報が入った。仔細な調査はイコンでは無理である。しかしながら生身、あるいはパワードスーツで巨大イコンすら楽々動き回れるほど広大な場所をただ捜索しても時間も無駄である。小回りが利くものが動き回ったほうが良い場所が発見されたら、そこに行き捜索に当ったほうが効率がいい。国頭 武尊(くにがみ・たける)のこの提案に細部調査を担当しようと考えたメンバーは同意し、別途待機していたのである。 イコンによる捜索部隊は護衛イコンが機晶ロボの排除を行った後、今回の大きな課題でもある北通路を探すことを最優先とし、そこを後にしたらしい。 調査対象となる建物群は数箇所あった。周囲に機晶ロボ以外にも何かいるかもしれない。先陣を切った3組の契約者たちは用心しつつ手近な建物群に近づいていった。 「さてと、ここからいよいよオレらの出番だな」 武尊が言った。彼は今回何かしらの結果を出す事で、パラ実分校の立場の強化を目指すつもりでいた。 「なにか価値の有る物でも発見できれば御の字だな。ただ俺らは戦闘向けじゃない。 そういう事態にならないことを祈るよ」 猫井 又吉(ねこい・またきち)が言った。巨大遺跡とはいえ人型サイズの「何か」が通るための通路や部屋はきっと有るだろう。仔細調査担当がそこで得た情報を本隊に持ち帰る事で、何か突破口が開けるかもしれないと又吉は考えていた。 「その辺はサポートさせてもらうよ。行こうか」 そう言って凰歌・オピーオーン(おうか・おぴーおーん)は、翼を持ち竜人型の上半身と蠍型の下半身という戦闘モードの大型機晶姫、ァーラフェヴゥル・ェクザーディウュス(あーらふぇゔーる・えくざーでぃうゅす)の背に乗った。 「起動する。全方向に警戒」 ァーラフェヴゥルが事務的に言った。暑さ対策として凰歌は氷術による温度操作を行った。 「快適とはいえないけど、まあこのくらいなら何とかなるでしょう」 「俺もヴァンダリズムが使えますから、万一のときは対等に渡り合えないまでも足止めくらいはできますし。 任せてください」 樹月 刀真(きづき・とうま)が請合った。 「それはありがたい。頼んだぜ」 武尊が無骨な笑みを浮かべる。漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がトレジャーセンスを作動させた。建物入り口付近の様子を凰歌らが伺う。 「生物が接近中です」 ァーラフェヴゥルが警告する。 近くのマグマだまりから、報告にあったマグマ様の生命体が6体、接近してきた。刀真が神降ろしで強化を行い、殺気看破で生物の動きを読みつつ、ワイヤークローと白の剣で斬りつける。1体が致命傷を負ってマグマの輝きを失った。 「マグマ、ですか。それならこれでどうです!」 凰歌が氷術を放つと、さらに1体が氷漬けとなって黒化した。馬ではないが本質的な意味で人馬一体化している動きで、ァーラフェヴゥルが主の意を汲み取って立ち回る。続けざまに放たれた氷術でさらに2体が動きを止めた。残る2体に刀真は神代三剣で光条兵器を振るった。良く切れるナイフでバターに切り込んだかのごとく、マグマ様生物は両断され、ゴム状の断面を晒した。 「ひと段落、かな?」 凰歌が言って辺りを見回した。 「敵性存在は全て消失」 ァーラフェヴゥルが請合った。月夜はデジタルビデオカメラで周囲の様子を撮影し、サイコメトリで遺跡の壁から情報を読み取りつつ、銃型HCのオートマッピング機能で建物の位置等もまとめている。 「なにか資料みたいなものがあったぜ」 又吉が奥のほうにあった密閉容器を苦心惨憺して開け、データチップを取り出し解析にかかる。大部分は劣化が著しく、データが破損しており読み取れなかったが、部分的にではあるがが遺跡のマップらしきものがあった。それによるとこの近くに遺跡の防衛システム管制室もあるようだ。判明したデータは長曽禰らに送信された。