校長室
ニルヴァーナの夏休み
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プール・リゾート 4章ハートウォーミング・ホリデイ まぶしい日の降り注ぐプールサイドでアクロ・サイフィス(あくろ・さいふぃす)、シベレー・サイフィス(しべれー・さいふぃす)夫妻は見詰め合っていた。 「僕はカナヅチなのでプールサイドで待機してましょうかね」 「せっかくですから、プールで泳いでいこうと思ったのですが……アクロ様は泳げなかったのですね……」 「楽しんできたらいいですよ。デッキチェアで眺めてますから」 にこやかに言い、妻の水色のビキニをまぶしげに見つめるアクロ。 「そうだわ、折角ですから、私がアクロ様に泳ぎを教えてさしあげましょうか。 私だけ楽しく泳ぐというのはさすがに申し訳ないので……」 「一緒に泳ごうというのなら……カナヅチなりにがんばるつもりですが」 ちょいちょい、と誰かがアクロの腕を突く。 「んきゅぅ?」 リスの獣人で立木 胡桃(たつき・くるみ)が、ふわふわのシッポを立てて見上げている。手にしたホワイトボードにはこう書かれている。 ”泳げないのですか?” すぐそばに付き添うミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が元気良く声をかける。 「胡桃ちゃんも泳げないから、ミーナが教えてあげるんだよ」 「そうですか……がんばりましょうね」 アクロが微笑みかける。その様をじっと見ていた水無瀬 愛華(みなせ・あいか)が、勇気を奮って話しかける。 「私も泳ぎの練習に来たのです……よかったらご一緒に……?」 シベレーがにっこりと微笑む。 「そのほうが楽しく練習できそうですわね」 本当は水上チャンバラに出たかったのだが、愛華を一人にすることもできず泳ぎの練習に付き合おうとやってきていた美樹 辰丸(みき・たつまる)がぶっきらぼうに言う。 「良かったではないか」 ”お兄さんは泳げるのですか?” 胡桃がホワイトボードを掲げる。 「ああ……愛華が泳げぬのでな。教えるために来たのだよ」 そう言って愛華の可憐な水着姿をちらりと見る。無表情ながら、実はかなりドキドキしているのである。それを気取られまいと、さらにいかめしい表情を貼り付ける辰丸。 プールに入り、おのおののパートナーに両手を取ってもらい、バタ足の練習をする3組。 「うーむ……何故浮かず沈むのだろうか」 「一生懸命なのですが……」 愛華は必死で浮力を得ようとするが、重石をつけているかのごとく水中に体が引き込まれる。 「気合の入った金槌ですが、よろしくお願いします」 アクロが妻に微笑みかける。 「ほら、胡桃ちゃんバタ足バタ足♪」 「きゅ〜」 夏の休日、泳ぎの練習は始まったばかりだ。 紫扇 香桃(しせん・こもも)は目を輝かせてプールを見つめた。澄んだ水をいっぱいにたたえ、多数の人が遊んでいるのに、ごった返している感じがないほど広いのだ。楽しげな歓声がそこここから上がっている。彼女は面倒くさそうに後ろに控えている遊離 イリヤ(ゆうり・いりや)をせかした。 「すごい楽しそうだね! ねぇイリヤ、泳ごう。早く早くっ」 「ったく、何で俺がこんなところにいなくちゃならねぇんだよ……。いいか香桃、勝手にどっか行くなよ?」 「だってせっかくの夏休みだもん、いっぱい遊びたいよ!」 イリヤは幼さの残る香桃を見つめた。大人と子供の間を行ったり来たりする年齢だが、彼女はまだ幼さのほうが前面に出ている。けれど歳月はさまざまな試練を彼女に課し、そのうちに大人になってゆくのだろう。大人の自分が防波堤となれば、彼女のこの無邪気さを維持してゆけるのだろうか。 「……ほら、手ェ貸せ。こんなだだっ広いとこではぐれたら探すの面倒なんだよ」 「う、はぐれないようにって……私、そんなに子どもかなぁ? ……でも、ありがとう。イリヤは何だかんだで優しいね」 香桃のまっすぐな視線が、イリヤの瞳を射る。 「お前だから、ほっとけねぇんだよ」 「え?」 「い、今のは忘れろ! ほら行くぞ。お前まだ14歳だろ。ガキだガキ」 自分でもなにが言いたかったのかはわからない。イリヤは慌ててそっぽを向いた。少しすいた場所まで、香桃の手を引いてゆく。 ジア・アンゲネーム(じあ・あんげねーむ)はダンケ・シェーン(だんけ・しぇーん)を連れてプールに来ていた。プール行きがわかったダンケは、お小遣いを貯めて買った真新しいビーチボールを抱え、とても嬉しそうだ。 (遊びたそうでしたからね。良かった良かった。ダンケはあまり遊びらしい遊びをしてきていませんからね。 同い年くらいの友達を作ってやりたいものですが……) 2人はプールに入ったものの、ジアはなにか考え事をしているようで、ぼんやりと浮かんでいるだけだ。 (ジアが遊んでくれると言ったんですのに……) むっとしたダンケは、ビーチボールを放り上げ、バレーボールのアタックの要領でジアのアタマめがけてボールを叩いた。見事命中するボール。 「あたっ! こら! ビーチボールをアタックするんじゃありません」 「ジア。プールです。遊んで下さい!」 イリヤはそんなダンケらを見ていた。 「ほれ、一緒に遊んでで来い」 「あ……う、うん!」 香桃が自己紹介し、ビーチボールでダンケらと遊び始める。 山葉 加夜(やまは・かや)も、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)の手を引いてプールにやってきていた。広いプールはゆったり遊べそうだったが、この広さと人では、目を離すとすぐちょろちょろとどこかに行ってしまうノアとはぐれたら探すのも大変そうだ。しっかりと手を繋ぎ、ゆっくりとプールサイドを歩く。 「冷たい水は苦手だけど、このプールなは大丈夫かな? 人いっぱいだね〜」 ノアは進行方向なんぞ見てはいない。興味を引くものを探してきょろきょろしている。 (小さい子のお母さんって、きっとこんな気持ちなんでしょうね……。 ノアは14だけどちょっと幼いところがあるから……) ビーチボールで遊んでいるジアとダンケ、香桃らに目を留めるノア。同じくらいの年頃だろう。人懐こく声をかける。 「わあ、楽しそう。ねえねえ、一緒に遊ぼう?」 「うん、一緒に遊ぼうか」 「人数は多いほうが楽しいし!」 少女たちはきゃあきゃあと楽しく遊び始めた。 「ボクはこういう体を動すことが得意だよ! 泳ぎは少しだけできるようになったんだ。温泉で特訓したから! 冷たいプールはまだ苦手かな……」 「このプールは広いけど、冷たくはないですね」 ダンケが言うと、香桃が応える。 「これだけ暑い日が続いてるし、お日様であったまってるのかも?」 加夜とイリヤ、ジアは少し離れたところで彼女らを見ていた。 「年の割りに幼くって……今のうちだけなんでしょうけど……」 ジアがため息をつくと、イリヤがうんうんと頷く。 「そうそう、目を離すとどっか行っちまいそうでな……ったく、何で俺が!」 加夜がまぶしい日差しを見上げて言った。 「そろそろ休憩して、水分を取らせましょうか。プールでも脱水症状を起こしたりするんですよね」 殆ど保護者の気持ちの3人をよそに、彼らのパートナーたちは嬉々としてプールをエンジョイしているのであった。