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ニルヴァーナの夏休み

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プール・リゾート 2章スラップスティック バケイション

「暑い……」
立川 絵里(たちかわ・えり)はいつものメイド服ではなく、シンプルな白のビキニを着用していた。今日は休暇。涼やかな巨大プール、良く冷えたトロピカルドリンク、さわやかな風の吹き抜けるオシャレなデッキチェアが絵里を招いている。今日は思いっきり遊んで暑さを凌ぐのだ。しかしそこに問題が発生した。パートナーのレッツィオ・セルバリオ(れっつぃお・せるばりお)の姿が先ほどから見えないのである。こういう場所であるからして、確実に女性客に絡んでいるであろうあのアホを回収しなければ、絵里のバカンスはない。
「……ったく、もう」
 藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)はあまり親密とはいえないパートナーのゼドリ・ヴィランダル(ぜどり・ゔぃらんだる)を、親睦を深めるためにもたまにはこういう場所にでかけるのもいいかなと考えて誘ってみた。地球人に対し反発心があるゼドリに、最初くだらないと一笑に付されるかとも思ったのだが、ゼドリの反応は案外にも気楽に泳ぐのも悪くないといった感じである。思い切って一泳ぎした後、声をかけてみる。
「なあ……オレたち、もう少し話をしていこうよ」
「そうだなー……ナンパして成功したら、考えてやってもいいな」
「ナ、ナンパ……?」
「ナンパくらいできる度胸がないとエースパイロットになんてなれないんじゃない?」
「う……」
 華やかな赤いビキニ姿のレラージュ・サルタガナス(れら・るなす)はプールサイドにいた神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)ににこやかに話しかけた。
「紫翠様? 確か日焼けは苦手でしたわね? 日焼け止めを塗りますから、着替えましょう?」
「ええ……日焼けは、弱いですけど……あの? レラージュ……ちょっと待って」
レラージュがにこやかに取り出したのは黒のパレオ付きのビキニである。
「夏だし、これ紫翠様には似合うと思うのよね」
「あのこれ……女物ですけど……」
だが紫翠の弱々しい抗議は黙殺され、しばらく後、プールサイドには対照的な美女、と外からは見える2人がデッキチェアに寝そべっていた。
レラージュが肌の露出した部分にせっせと日焼け止めを塗る。
「あの……くすぐったいのですが」
「やっぱり、よくお似合いですよ。じっとして下さいな? 塗らないと赤くなりますよ」
その様をじっとそばで眺めている男がいた。レッツィオである。いやはや。夏というのはすばらしい。麗しき水着姿の女性達。あれほどの華麗な花々に声をかけないというのは失礼に当たろうというものだ。
「そこのお嬢さん方、僕とご一緒にお茶でもいかがです?」
「お嬢さん方……って……自分も……ですか?」
紫翠が呻く。
「もちろんですとも。大輪の紅い薔薇と、漆黒のベルベットローズ。いずれ劣らぬ美しさです!」
最大級の褒め言葉に、レラージュは違った意味合いも含んでレッツィオににっこりと微笑みかける。
「そこにいたの」
絵里がレッツィオの背後からすっと現れ、轟雷閃を放つ。
「うあああああ……」
崩れ落ちるレッツィオの足をつかんで、ずるずると引きずって木陰に放り込むと、紫翠らにぺこりと一礼する。
「失礼しました。まったく……暑い時に無駄な汗を流させないで」
そう言ってだらんとうつぶせに倒れているレッツィオのお尻を蹴飛ばす絵里。
そこにおずおずとやってきたのは裄人である。まっすぐに大人しそうな紫翠の前に進み出る。
「……あ、あの、もし良かったら……その、お姉さん、オレらと一緒に泳ぎませんか?」
「えと……あの……自分は男なんですが……その……わけあって……こんななりをしてはいますが……」
真っ赤になった紫翠の語尾がすうっと細くなって消える。この短時間に2人の男から連続してのナンパである。がっくりと肩を落とす紫翠に、裄人もまた真っ赤になって必死で謝罪する。
「す、すみませんっ!!! あんまりキレイだったものでつい……し、失礼しましたっ!」
後方から見ていたゼドリはぷっと吹き出した。
「ばーか、なにやってんだ……」
言いかけて思いもかけぬほど親しげな言葉だったと気付き、照れくさくなった。恥ずかしい思いをして裄人が戻ってみるとゼドリの姿は消えていた。
「……あいつ」

「思えば、ニルヴァーナでは戦いの連続だった。この機会に、のんびり休養を取るっていうのも悪くないよな」
瑞江 響(みずえ・ひびき)アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)に言った。アイザックも戦い続きで疲れが溜まっているだろうと考えた響は、今日はアイザックのために行動しようと考えていたのだ。思いがけずプールリゾートに誘われ、隣に立つアイザックはただただ感激の態だった。
(こ、これがプールデートって奴だな! 堂々と響の水着姿を拝めるし……今日は何ていい日なんだッ)
響とアイザックはしばらく2人で泳いでいたが、響が言った。
「そろそろ小腹がすいたろ? 屋台で何か買ってくるから、アイザックは待ってろ」
「え? いや俺も行くよ?」
「……いいんだ、俺が行ってきたいんだ」
響の後姿を見ながら、アイザックは目を潤ませた。
(響が俺様のために屋台で食べ物を買ってきてくれる……だと? これ、夢じゃないよな?
 響が優しい……俺様は今、幸せ絶頂だぜ!)
すぐ近くではヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が、気合を入れて着てきた猫の肉球柄のタンキニをまとい、可愛い系統の服、それも水着を自分から着るのは初めてとあって緊張した面持ちでセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)の前にもじもじと立っていた。
「いつもかわいいのですが、今日のアイリは一段とかわいいですね!」
セスはひたすら嬉しそうだ。
「でも肉球柄とは珍しいですねぇ?」
「セス、褒めるなって照れるじゃねーか! ああ、この柄な。野良猫に勧められたんだよ。
 いや嘘じゃなくてマジでマジで」
「え、猫に勧められたんですか? そんな事もあるもんなんですね」
「奇妙な事もあるもんだよなー」
しみじみと当時を思い返すアイリを見ながら、セスはその言葉を信じてはいなかった。
(きっと恥ずかしくなって選んだ理由をでっち上げたんですね。誤魔化さなくてもいいのにそんな所も可愛いなぁ!)
リオート・ラグナイト(りおーと・らぐないと)蓬莱 ありす(ほうらい・ありす)の2人も、ここにデートにやってきていた。
「ここに来たのは、ありすと出来たばかりのプールで記念に泳ぐ事なんだよ。
 ……しかし、ありすの水着姿は……可愛くてまぶしいよなぁ」
照れくさそうに、だがその目線をありすから引き剥がせないリオート。
(大好きなリオくんと一緒にプールで泳げるんだ……)
ビキニ姿のありすはきれいな弧を描いてプールに飛び込むと、まっすぐにコースを泳ぎだす。
「……人魚みたいだ」
呟いてリオートもまた、プールに遅れて飛び込んだ。
「あはは、競争?」
ゆったりと背泳で進みながらありすが言う。
「こう見えても泳ぎは負けるつもりはないからね」
「じゃー、いこ?」
と言いつつも、2人とも本気で競うつもりはない。ただ今の2人の間に流れるゆったりとした楽しい時間を楽しみたいだけなのだ。
普段メイド姿のユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)は、水着もやはりトリア・クーシア(とりあ・くーしあ)が作成したメイド服をイメージしたものを着用していた。すっかり男の娘である。
「トリアが用意してくれた水着、可愛いらしいな」
「私が作った水着、気に入ってくれて嬉しいわ!
 ちゃんとビデオカメラで撮って……じゃなくて見張ってあげるから安心して遊んでユーリ!」
「うん」
プールに入って泳ぎ始めたユーリ。折角来たのだしトリアと一緒に泳ぎたいなと思いつつも、当の本人がビデオカメラを構えているから仕方ない。どことなく寂しげなユーリにアイリが声をかけてきた。
「うん? 独り?」
「ううん、トリアと一緒に来たんだけど……ビデオを撮るんだって、上にいるんだ」
「良かったら一緒に遊びませんか?」
セスが言い、3人はビーチボールで遊び始める。飛んでいったボールが泳いでいたありすに当たった。
「あ、ごめんなさい」
ユーリがすぐに謝る。
「いいよいいよ。楽しそうだね。ボクたちも混ぜて?」
ありすが言い、リオートも加わって5人はしばらく水中バレーボールを楽しんだ。
「なにか食べようか?」
「あ、いいねいいね」
リオートの提案に二つ返事で同意した5人はプールサイドに上がった。
隣のテーブルに座っていたアイザックが、タコヤキを手に戻ってきた響につと近寄った。
「響、あーんってして、食べさせてくれ!」
「……バカヤロウ」
赤くなって小声で呟く響。
「え? ……って、ぎゃー!」
アイザックは思い切り照れた響に、プールへ蹴落され、盛大な水しぶきを上げた。近くにいたアイリたちにも水しぶきが跳ねかかる。
「あ、す、すまん……よかったら、これを」
響は謝罪をして、タコヤキを振舞った。アイザック本人はそのまま水中にぼんやりと漂っていた。
(響の愛が痛いが幸せだ……)
「わー、いいのにー。ありがとう。良かったら一緒に!」
人懐こくありすが声をかけ、響はテーブルに着いた。
「もうちょっと買ってくる」
ユーリが言って、屋台の方へ歩き出す。
「チャーンス! やっぱりユーリはかわいいからちょっかいかけたくなるのよね!」
トリアは言って、ユーリに向かいブリザードを放った。
(……あれ? なんか寒い?)
やけに遅いと心配したリオートが来るまで、氷漬けになったユーリを心行くまで撮影していたトリアであった。