リアクション
○ ○ ○ ヴァイシャリーはシャンバラでもっとも風光明媚な土地だ。 湖に囲まれている優雅な街には、貴族や富豪が多く居を構えている。 だが、その街にいる人々全てが裕福なわけではない。 裕福な人々の傍らで働く者の方が、多いのだ。 「お兄さん☆ サービスするからぁ」 「ちょっ、俺、用事あるから!」 蒼空学園の犬神疾風(いぬがみ・はやて)は、バニーガールの格好をした客引きの腕を逃れ、大通りの方へ急ぐことにする。 パートナーの月守遥(つくもり・はるか)と合流して、学園に戻ろうかと考えていた彼だが……。 「ってわけで、百合園の女共が、俺らをブチ殺すと宣戦布告してきやがった! 住処ごと破壊するってとんでもねぇ手段で、だ。いいか、俺らは同情が欲しいんじゃねぇ、欲しいのは頭数だ! てめぇも来るよな?」 真面目そうな一般人を柄の悪い少年達が取り囲んでいる。 「そこのてめぇも――来るよな!?」 突如怒りの籠もった目を向けられ、疾風は訳がわからず。だが、理不尽な言いがかりをつけられたのは、どうも彼等の方? などとぼーっと考えているうちに、手をぐわしっと掴まれていた。 「お待たせいたしました」 太った成り上がりの男性に、波羅蜜多実業高等学校のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は酒を出した。 「おっ、新人かい。美人だねー。ばにぃちゃん♪」 顔を真っ赤に染めた男性は、にやにやと笑みをバニースーツ姿のガートルードに向ける。 「ありがとうございます」 ガートルードは男性の隣に腰掛けて、グラスに酒を注いでいく。 パラ実のOBに誘われ、カジノを兼ねるナイトクラブでアルバイトを始めたガートルードは、連日荒稼ぎをしていた。 ここの客は実に金払いが良い。 ――だがその日、ガートルードは接客半ばにして、店を飛び出すことになる。 「でさ、社会のゴミ屑、害虫以下のパラ実達がいる家を、百合園女学院の可憐なお嬢様会の白百合団が大掃除するんだってさ」 「お嬢様の害虫駆除かぁ同行して守ってやりたいな〜。百合園のふんわりお嬢様と、パラ実のケバ女は同じ生物とは思えんよな、ぎゃははははっ」 害虫駆除に向かう百合園生の話は、変に脚色され広まっているのは事実だが。 これは酔っ払いの妄言だ。が……。 「それは面白い話じゃけぇのう」 白いバニースーツ姿のシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が近付き、ドンとテーブルに手をついた。 「失礼します」 ガートルードは静かに席を立ち、シルヴェスターの腕を引き、カウンターの奥へと下がった。 「許せネェー! オジョウサマだかなんだか知らねぇが、あたしらの後輩をゴミ扱いとはイイ度胸してんじゃねぇか!」 休憩室に顔を出すと、先輩がブチ切れて、椅子をテーブルに叩きつけているところだった。 「同感です。ですが、白百合団は侮れません。人数も統率力も」 「なら、戦争だ! こっちも頭数揃えるぞッ」 「あいよ!」 「おお」 次々と声が上がる。いつの間にか、パラ実OB、現役パラ実生女子が休憩所に集まっていた。 ガートルードも思いは一緒だ。 「では、街中の同朋に声をかけてきます。――行きましょう」 ガートルードの言葉に、先輩は頷く代わりに壁をドンと叩く。 「百合園の雌豚達に灸を据える! 出入りだッ!!」 ○ ○ ○ 百合園女学院校長室の窓から、生徒会執行部、通称白百合団の団長桜谷鈴子(さくらたに・すずこ)が心配そうに校門に目を向けている。 校門の前に、沢山の馬車が止まっており、ヴァルキリーの少女が元気一杯こちらに向けて、手を振っている。 「皆さんと一緒ですから、大丈夫ですよ。あちらには危険がなさそうですし」 そう、声をかけたのはイルミンスール魔法学校のオレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)だ。怪盗舞士の事件を手伝うために、オレグは女装して百合園女学院に留まっている。 オレグが持つトレーには淹れたての紅茶と、ケーキが乗っている。 「そうですね。沢山のお友達と一緒で、楽しそうですわ」 「ええ」 ミルミ達一行を窓から見送った後、鈴子と共に校長室の奥にあるソファーに戻り、校長の桜井静香(さくらい・しずか)と、パートナーのラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)達に、オレグはお茶とケーキを配った。 「ありがと」 「戴きますわ」 静香とラズィーヤ、鈴子や集まっている協力者達にケーキと紅茶を配り終えた後、オレグは自らも腰かけて口を開いた。 「ミルミさん達が向かった先には、害虫や鼠が沢山住みついているようですが……東南アジアの方では、蛹や鼠を美味しく食する地域があるそうですよ」 「うっ」 静香はケーキに向けたフォークをぴたりと止めた。 「そ、そんな人はパラミタにはいない、よね?」 ラズィーヤを見ると、ラズィーヤは紅茶を堪能しながら、にっこり微笑んだ。 「地方によって、食文化は違いますから。召し上がりたいのでしたら、そういった食文化のある地方への旅行の手配をいたしますわよ。わたくしは同行いたしませんが」 「では、私が付き添いましょう」 そう言ったオレグに静香は両手を振って拒否する。 「いいっ。行かない。僕、ここの料理好きだから!」 慌てる静香の様子に、オレグとラズィーヤは小さく笑い合った。 |
||