空京

校長室

建国の絆 第4回(無料版)

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 第5章 トルメンタ

■□■1■□■

 住宅地では、モンスターの掃討が成功しつつあり、トルメンタは苛立っていた。
 「おのれ、闇の救世主様に逆らう愚か者ども!
  こうなれば、私の手で、一人残らず息の根を止めてくれる!」
 「そこの変態魔法使い! ぶっ飛ばしてやるから降りて来やがれ!」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)が、地上からトルメンタを挑発する。
 パートナーのドラゴニュートガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)は、
 一般人が巻き込まれないよう、冷静な軍師然として、和希を補佐する。
 「落ち着いて、この場を離れるのだ」
 「別に空京を守りたいとか、そんなんじゃねぇ。
 俺たちに挨拶もなく、デカイ面してる奴らが気に入らないだけだ。
 逃げ遅れた奴や足手纏いは、巻き込まれないうちにさっさと逃げた方がいいぜ!」
 和希は憎まれ口を叩いてはいるが、実際には空京の住人の身を案じている。

 ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)が、声を出して知らせる。
 「指輪を使おうとしています! 気をつけてください!」
 ファレナのパートナーの守護天使シオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)は、
 面倒がりながらも無鉄砲なパートナーを守る。
 「君を守るのが、残念ながら私の役目だからね」
 シオンが、ファレナをかばい、黒い竜巻の進路から移動させる。
 「敵の動きに注意するのはわかるけど、近づきすぎなんだよ」
 「ご、ごめんなさい、でも、私にできることをしたいんです!」
 シオンにたしなめられつつも、ファレナは空中のトルメンタを見て言う。

 鬼崎 朔(きざき・さく)は、
 住宅の影に隠れ、トルメンタをトミーガンで狙撃しようと狙う。
 「憎き鏖殺寺院……この手で討ってみせる!」
 朔のパートナーの機晶姫スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)は、
 朔や他の人の狙撃のため、トルメンタに対して挑発行為を行う。
 「降りてこないでモンスターだけに戦わせるとは……鏖殺寺院信者とは名ばかりでありますな!
 こんな方が信者なら、ダークヴァルキリーとはさぞかし情けない存在なのでありますな!」
 蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)も、トルメンタの挑発のため、指輪破壊を狙う。
 「えらそうな態度を取っているのを見せ付けられると反発する。
  何故ならそれがロックというものなんだよ!
  魔法の歌うたい、蒼空寺 路々奈をなめるな!」
 路々奈は、仲間とタイミングを合わせるようにして、サンダーブラストを放つ。
 路々奈のパートナーの魔女ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)も、
 トルメンタを消耗させるため路々奈とタイミングをずらして魔法攻撃する。
 「大丈夫? ヒメナ!」
 「だ、大丈夫ですっ。頑張ります!」
 路々奈に気づかわれつつ、ヒメナが、アシッドミストを放つ。
 「小賢しいわ! このトルメンタ、闇の救世主様の名の下に、貴様らを……」
 うめき声を上げて、トルメンタの顔が歪む。
 朔の銃弾が脇腹に命中したのである。
 その瞬間、セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)と、
 パートナーの全身鎧に身をつつんだヴァルキリーバルバロッサ・タルタロス(ばるばろっさ・たるたろす)が、
 住宅の屋根からバーストダッシュでトルメンタに踊りかかる。
 「ふははははは! 悪を滅する正義の執事、セバスチャン参上ですぞ!!」
 「我が鋼鉄の盾、そう容易く射抜けると思わぬ事だな。さあ、行け! 兄者!!」
 「受けるが良い!愛と絆と情熱の、
  必・殺! ジェントルフィンガアアアアアア!!!」
 「なめるな!」
 トルメンタが、黒い竜巻を盾にするようにして、セバスチャンの攻撃を防ぐ。
 「ってえええ待った待って魔法攻撃はひきょ、きゃあああああ」
 盾役のバルバロッサが、直撃を食らって落下する。

 三ノ宮 兵藤(さんのみや・ひょうどう)が、その隙に、
 トルメンタの率いるモンスターたちを倒す。
 「俺はまだ弱いですが、弱くても皆のため精一杯戦います!」
 兵藤は、一気に突撃して陣形を崩す。
 パートナーの守護天使赤口 凛(せきぐち・りん)は、
 後から援護し、ヒールで回復を行う。
 「私、出来る自信はありませんが、頑張りますっ!」
 兵藤と凛の攻撃により、路々奈やヒメナの範囲魔法に巻き込まれて、
 弱っていたモンスター達が、次々に止めを刺されていく。
 「くっ、救世主様の鎮魂の地に群がる者どもごときに……!」
 トルメンタが追い込まれていく。

 クレイ・フェオリス(くれい・ふぇおりす)
 日野 明(ひの・あきら)
 水上 光(みなかみ・ひかる)
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、
 トルメンタを口々に説得する。
 「俺の話を聞いてください。
  なぜこのような悲惨なことをしなければならないのですか。
  町を破壊したところで、何になるというのです」
 クレイが、いつもの冷静さを失わずに語りかける。
 クレイのパートナーの吸血鬼ピアル・アルレイン(ぴある・あるれいん)は、
 黙ってその様子を見守る。
 「き、傷つけ合ったら争いの連鎖しか生まれません! どうかこれ以上壊さないで!」
 明のパートナーのヴァルキリーアルフレッド・コストナー(あるふれっど・こすとなー)は、
 普通とは違い、黒い羽を持つ。
 そんなこともあり、明もアルフレッドも、トルメンタのことは他人事とは思えないのである。
 「戦わない事は……できないのだろうか」
 アルフレッドも、言葉少なに、トルメンタに語りかける。
 「どうして……どうしてこんなことをするの!?
  君だって大切な人が死んじゃったら悲しいだろう?
  だったら……!」
 光は、子どもとは戦いたくないと、トルメンタに良心が残っていることを信じて訴えかける。
 光のパートナーの剣の花嫁モニカ・レントン(もにか・れんとん)も、
 一緒に説得を試みる。
 「ここにいる人だって愛する人がいるはずです!
 そんな人たちを傷つけるようなまね、しちゃだめですわ!」
 ソアが、空飛ぶ箒で、トルメンタに近づく。
 「トルメンタさんっ、あなたみたいな女の子が、どうしてこんなことをするんですかっ!」

 「うるさい! 黙れ!
  地球人どもめ!
  貴様らと交わす言葉などない!」
 トルメンタは聞く耳を持たず、黒い竜巻で攻撃する。

 「クレイ、傷付けさせない……!」
 ピアルが、火術で遠距離から攻撃する。
 「説得は無理ですか……。できる限り殺さずに捕らえ、
  警察に引き渡しましょう」
 クレイは、デリンジャーを握りしめる。
 「そんな……!」
 明は、愕然としつつも、ヒールで仲間の援護に回る。
 「明……滅びの歴史は変えられないのだ」
 アルフレッドは、諦念を浮かべた瞳で、明を見つめたが、
 続くトルメンタの攻撃から、身を持ってかばい、抱えて退く。
 「明……無理をしないでくれ。俺はお前無しでは何も出来ない木偶の坊だ」
 「……敵とはいえ……わかりあえないのでしょうか」
 明が呆然とつぶやく。
 「せめて、せめて気絶させるだけに留めたいけど……」
 光条兵器の大型の両手剣を構え、光が言う。
 「光、無茶しちゃダメですわ!」
 モニカが援護に回り、パートナーに注意を促す。

 「闇の救世主? おまえ、馬っっっ鹿じゃねーのかー!?
  あんなもんが誰かを救うかよ!」
 ソアのパートナーの白熊型ゆる族雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、トルメンタを挑発する。
 「救世主様を侮辱するだと!
  その身を引き裂かれて後悔するがいい!」
  ベアにトルメンタが竜巻で攻撃した瞬間、
  魔女の悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、8体の紙ドラゴンを飛ばし、
 纏わりつかせるように操って、トルメンタの視界をさえぎり隙を作る。
 「ケイ、今だ!」
 カナタのパートナーの緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、
 空飛ぶ箒でトルメンタの懐に飛び込む。
 白い紙ドラゴンは、舞い上がる吹雪のように上昇し、
 トルメンタの右手をつかんだケイが、黒い指輪にありったけの魔力で光術を叩き込む。
 「闇の力……それで狂ってしまったのなら、
  俺達の手で砕いてみせる!」

 強い光が炸裂する。

 黒い石の指輪に、ひびが入る。

 ケイの光術は、契約者の英雄的な力によって、トルメンタの身体には傷をつけず、
 指輪にのみダメージを与えることに成功したのである。

 「やったか!?」
 離脱したケイが、何が起こったかわからないような表情のトルメンタを見る。

 次の瞬間、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)と、
 パートナーの機晶姫クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)が現れ、
 ナガンがD級四天王として部下とともに、トルメンタに一斉射撃する。
 「パラ実差し置いて空京で調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!」

 「やめろ! やめてくれ!
  誰もが笑って終われる結末なんて幻かもしれない……それでもッ!」

 「わりぃが泥啜ろうが泥被ろうが己は曲げない主義なんでねェ無理だ」

 空中から叫ぶケイと、機関銃を連射するナガンの信念が交錯する。

 その隙に、鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)がトルメンタを狙撃する。
 「ちまちま戦うのは面倒だよ。
  ボクは、見た目が少女だからって手加減なんかしないよ。
  レイン、魔法で攻撃を!」
 氷雨は、いつもどおり、笑顔を浮かべたまま、ためらいなく攻撃する。
 氷雨のパートナーの吸血鬼レイン・ルナテッィク(れいん・るなてっぃく)は、
 遮蔽のない場所に身体を露出させているトルメンタに、火術で一斉攻撃する。
 「……また一つ……紅に染まっていく……」
 レインが感情のこもらない声で言う。

 月 燐火(つき・りんか)も、冷静な判断でトルメンタに攻撃する。
 「……さよなら」
 組織に育てられた殺し屋としての過去を持つ燐火にとって、
 これは当たり前の判断であり、ごく普通のことであった。
 敵の頭を倒すことが、もっとも効率的な戦いであるからである。
 燐火のパートナーのシャンバラ人フィリア・アン(ふぃりあ・あん)は、
 最初は逃げ遅れた人達の手助けを燐火に頼んでいた。
 これをきっかけに、燐火が感情という物を思い出すと計画していたのだが、
 燐火は逆に早くボスを倒せば、助かる人がもっと多いと言ったのである。
 「……燐火」
 ケンカしかかったが我慢してパートナーについてきたフィリアだが、
 燐火の冷酷な表情を見て、とても悲しい気持ちになる。

 神代 明日香(かみしろ・あすか)は、
 他の人が攻撃している隙に奈落の鉄鎖で、トルメンタの飛行妨害をし、
 光術によって目をくらませる。
 「指輪さえ奪ってしまえば、きっと終わらせられるのですー」
 明日香のパートナーの剣の花嫁神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)は、
 ブラックコートで気配を減らしつつ移動と狙撃を繰り返す。
 「改める気がないのでしたら、容赦はしませんわ」
 明日香と、夕菜は、なんとかしてトルメンタを取り押さえたいと考えていた。

 無防備になったトルメンタに一斉攻撃が当り、ナガンの目論見どおり、
 トルメンタの高度が下がる。

 桐生 円(きりゅう・まどか)と、
 パートナーの吸血鬼オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が、
 奈落の鉄鎖でトルメンタを地面に落とそうとする。
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が、
 さらに、不意打ちで加勢して奈落の鉄鎖を使い、トルメンタは地面に落下する。
 優梨子のパートナーの吸血鬼亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)
 まだ多少残っている周囲のモンスターからの攻撃の壁役を務める。

 「私のリスペクト対象である、『P−KO』の小倉 珠代さんが、
  空京オリンピックの記録映画を撮りたいそうなので。
  空京を壊されたら困るんです」
 優梨子はにこやかな表情で、
 黒い石の指輪がはめられた、トルメンタの右手の人差し指を切り落とす。

 激痛に、トルメンタが絶叫する。

 「みしるしをいただけますか? いえ、是非ともいただきますね」

 優梨子は指輪を抜き取り、切断した指の血をすすった。

 「藤原くんははしたないなあ」
 円が笑う。
 「無様ね♪ 
  キミみたいな餓鬼が、ボクを見下ろすなんて10年早いんだよ」

 オリヴィアが、指輪を拾って、トルメンタに見せてからかう。
 トルメンタがオリヴィアをにらみつけ、必死で左手を伸ばす。
 「返せ、薄汚い手でさわるな!」
 「マスターに何を言っているのかな?」
 円が、トルメンタの右手の傷口を踏みつける。
 苦痛にうめくトルメンタに、円が冷酷な視線を向ける。
 「ただの餓鬼が立場をわきまえろと言っているんだよ」

 「ねぇ、これ欲しい?
  なんだか悔しそうだね? でもだーめ」
 オリヴィアが少し力を入れただけで、ひびの入っていた指輪は粉々に砕けた。

 トルメンタは悲鳴を上げて気絶する。
 「トルメンタさん!」
 ソアが、あわてて駆け寄り、ヒールをかける。

 そこに、馬にまたがったロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)と、
 パートナーの剣の花嫁レオパル ドン子(れおぱる・どんこ)が現れる。
 「トルメンタは俺達パラ実が預かる、お前ら盛大に逃げるぜ!」
 ロアが、周囲のパラ実生を煽る。
 ロアと、ドン子は、姫宮 和希(ひめみや・かずき)や、ケイとソア達と視線を交わす。
 ロア達が、トルメンタを助けようとしていることが、それだけで理解できた。

 ロアは気絶したトルメンタを抱え上げると、そのまま馬で空京の外に向かって逃走する。
 空飛ぶ箒で、ケイ、カナタ、ソア、ベアがそれを追う。

 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)は、
 「刑事」として、空京警察に協力し、トルメンタに手錠をかけたいと思っていたが、
 逃走するのを見て慌てて叫ぶ。
 「まてー、トルメントァー!」
 マイトのパートナーの猟犬型機晶姫ロウ・ブラックハウンド(ろう・ぶらっくはうんど)の武装である、
 ハンドガンを奪い、マイトが空に向けて発砲する。
 「逮捕するー!」
 「ワウ……ワウッ」
 (冷静になり給え……マイト) 
 犬の鳴き声しか話せないロウが、興奮するパートナーを制止する。

 「まだ住宅地には魔物がウロウロしてるぞ!
  てめぇら、ボサっとしてねェでとっとと動け!」
 「そうだ! まだ得物はいるからな! 撃墜数は稼げるはずだぜ!」
 ナガンと和希の言葉で、その場にいる者達の注意は、住宅地を脅かすモンスターに移ったのだった。