空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
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第四世界・7

 ドンッ。
 契約者とアウトローたちの人中から、高く銃声が鳴った。
「せっかく封印が解けようとしているのに、邪魔をされちゃ困るなあ」
 ジャンゴの手下を撃ち倒した音無 終(おとなし・しゅう)が、髪を掻き上げる。その手に握られているのは、異様な気配をまとった拳銃。
 サンダラーの銃だ。『大いなるもの』の悪意が、終の身体に満ちていく。
「……こんな状況で、面倒を増やしてくれるなよ」
 ようやく銃の破壊が終わりそうなところに現れた新たな敵にぼそり、とリゼネリ・べルザァート(りぜねり・べるざぁーと)が呟く。
「邪魔をしないでよ」
 終が告げて、手の中の銃を無造作に放つ。横っ飛びに転がりながらかわすリゼネリ。
「馬鹿馬鹿しい、自分から銃に身をまかせるようなやつの相手なんか、していられるか」
 ため息と共に下がるリゼネリ。入れ替わりに、ベリアリリス・ルヴェルゼ(べりありりす・るう゛ぇるぜ)がやはり気だるげに向かい合う。
「まあ、幻を相手にするよりはマシかな」
 ベリアリリスが小さく肩をすくめる。口の中でぶつぶつと何かを唱えながら、手の中の短剣を閃かせる。
「……!」
 ガッ! 帰ってくるのは、硬い感触だ。終の前に立ちはだかった銀 静(しろがね・しずか)が、生み出したフラワシにその剣を受け止めさせたのだ。
「くっ!」
 まずい、と判断した時には、終の銃口が向けられていた。
「『大いなるもの』には、復活してもらわないとね。おまえ達も、自分に正直になりなよ」
 引き金に指がかかったその時。
「危ないですよ、急いで!」
「急かすなよ!」
 胸にぶら下がったイヤリング状態の賈思キョウ著 『斉民要術』の指示で飛び出し佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が、極めて原始的な体当たり。銃を構えた終の体を突き飛ばした。
「……邪魔をするなって!」
 叫びながら、終が銃を構える。同時、弥十郎も手を付き出した。が……
「ちょっと、銃がないではありませんか!」
 思わず叫ぶ斉民要術。その手には何も握られてなどイなかったのだ。呆れたように、終も息をついた。
「この世界で銃を持たずに飛び出してくるなんてね。間抜けにも程があるんじゃない?」
「待てよ。今、狙ってるから……」
 親指と人差指を立てて、拳銃の形。やれやれと終がその胸に銃を向けた。
「間抜けはどっちかな?」
 ダダダダッ! 弥十郎が構えた指から、予告なく銃弾が飛び出す。
「なっ!?」
 意表をつくフィンガーマシンガンの一撃に、終が突き出していた銃が弾かれる。のけぞるように倒れる終。
「とりあえず、銃は手放させたが……どうもなにするかわからないし、とりあえず捕まえておくかねぇ?」
 が、その横から飛び出した静が弥十郎を睨みつける。低い体勢から、足の腱を狙って剣を薙ぐ。
「僕のことを忘れてないかい?」
 閃いたベリアリリスの剣がそれを受ける。二つの剣が激しくぶつかり合って火花を散らした。
「静!」
 起き上がった終が、手の中から何かを投げる。それはどん、と激しい炎を吹き上げる。その場にいる誰もを巻き込みかねない爆風が晴れた時、そこに終と静の姿はなかった。
「逃げたか。みんな、守りを固めてくれ」
「……ふう」
 弥十郎の胸で、斉民要術がこっそり安堵の息をついた。


「耐えろ、戦え!」
「第二世界へのゲートが開くわよ!」
「打ち続けるんだ!」
「ガンマンを近づけるな!」
 乱世が、小夜子が、ライオルドが、サルヴァトーレが、共に並び、戦っている。積み上がった銃の山の向こうに、光が覗いている。
「ここから私たちは次の世界に向かいます。皆さんの邪魔はさせません!」
 遺跡から放たれる邪悪な力が、大量のガンマンを引き寄せる。その眼前に向かい合う茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)
「人形操りだけじゃないってこと、見せてあげます!」
 両手に集めた魔力が、ビームのように放たれる。ガンマンたちをなぎ払いながら、上空に迫る大型飛空艇を確かめる。第二世界へ突入するための調査団だ。
「防げ! 飛空艇に傷ひとつつけさせるな!」
 レオン・カシミール(れおん・かしみーる)の指示に答えて、飛装兵たちが上空からガンマンをかき乱していく。
「すでにかなりの時間がかかってるよ。急いで!」
「わかっている! 少し、派手になるぞ!」
 補給物資を運んできたリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)に答えるレオン。
「こっちへ、早く!」
 メアトリス・ウィリアムズ(めあとりす・うぃりあむず)は、遺跡の銃に乗っ取られていたガンマンたちを避難させるための誘導だ。何人もの契約者達がこうして、走り回っている。
「身を低くしてください!」
 時間を確かめて、自身も身を伏せる衿栖。その背後で、轟音を立てて遺跡の天井が吹き飛ぶ。
 契約者たちの火力を結集して遺跡を弾き飛ばし、武器庫を露出させたのだ。
「急いで。そして、第二世界のみんなをここまで!」
 ここから第四世界のゲートまで、避難民を辿り着かせなければならない。
 すでに、第四世界でかなりの時間が経過している。ここに残った契約者達の戦いはまだまだ続く。
 もちろん、次の世界へ向かったものたちの戦いはこれからだ。