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リアクション
第四世界・2
町の中央広場。ガンマン大会の開会式が行われたその場所で、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)はすっくと立っていた。
その広場にも、当然ガンマンたちが押し寄せている。だが、ヴァルはひるむことなく、きっと前を見つめている。
「聞け、この地に住まう人々よ!」
腹の底に響くような怒号。当然、正気を失ったガンマンたちも彼の存在に気づき、広場へ群がってくる。
「まったく、こんなことして、むちゃくちゃばっかり考えるんッスから!」
電工のように走るシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が、ヴァルに銃を向けるガンマンたちの腕を撃ち抜いていく。
「この世界は仮想の世界かもしれない! しかし、君たちがここで生きたことは紛れもない真実! ならば、俺はその真実の生を敬いたい!」
びりびりと市街地をヴァルの声が震わせている。そこを走り回るのは、マリウス・リヴァレイ(まりうす・りばぁれい)。彼女が探しているのは、現実住民でありながら錯乱している者だ。
「目を覚まさせないと……! 助けられる人が助けられなくなってしまう!」
「とにかく、少しでも何かを感じたら引っ張ってでも連れて行って!」
飛び交う銃弾を念力で反らしながら、若菜 蛍(わかな・ほたる)が告げる。マリウスは自分の直感を信じて、別のガンマンに向かっていく。
「こっちです、早く! 町に残っていては危険です、早く避難してください!」
同様に走り回っているのは、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)。こちらが探すのは隠れている住民たちだ。
だが、開けた扉の向こうにいたのは、数人のガンマン。彼らは一様に銃を向けている。
「危ない!」
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が長い銃を向けて、掃射でガンマンたちの銃をはじく。
「ああっ、さすが雅羅!」
その活躍に両手を広げて飛びかかる想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)。だが、きっと雅羅ににらみつけられると、慌ててその腕を引っ込めた。
「……って、やってる場合じゃなかったわね。さあ、まだ人がいるかも知れない、探すわよ」
瑠兎子が咳払いし、ガンマンたちをロープで縛り上げた。
「恐れることはない。俺たちを信じてくれ! 俺たちは、君たちを助けたい!」
ヴァルの叫びが町中に響く。ぎゅっと握った拳を掲げる音すら、周囲に鳴り渡るようだった。
その声は聞く者の心に響き、住民たちに安心を与える。一方で、心を失ったガンマンたちには怒りと興奮を植え付けていた。
シグノーたち、広場を守る者はさらに大変になったのだが、一方で市民を無差別に狙うガンマンたちから、彼らが守られたことになる。
「お、お前たちはよそ者の……? ほ、本当に助けてくれるのか?」
両手で銃を構える男に、マリウスはゆっくり頷く。
「恐れることはない。私と一緒に、君のいるべき場所に帰るんだ」
囁くような優しい声音。防御の準備をしている蛍の前で、そっと手を差し出す。
「……分かった……」
マリウスのその声が、届き始めていた。
「こっちに! 雅羅さん!」
夢悠が見付けたのは、物置に隠れて震えている子供たちだった。その背中を守る雅羅が頷く。
「安心して。もう、大丈夫」
瑠兎子がかがみ込んで安心させるように笑みを向ける。震えていた子供たちが、そっと手をさしのべた。
夢悠の手が、届き始めていた。
町中に作られた急ごしらえの建物……ブラゼル・レンジャーズ事務所。
「車と馬車の準備が済むまでの間、我々がここで住民たちを守るわ。みんな、気合いを入れて!」
「そなたたちが失敗すれば、みなの努力は水泡に帰すぞ! いいか、けして気を抜くな!」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)、そしてグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が鼓舞の声を上げる。
「おおお!」
彼女らに答えるのは、現地で雇われた傭兵団。故郷のピンチとあっては戦意が高い。ブラゼル・レンジャーズによって車の操縦を訓練され、危険な町中から市民たちを運び出す役割を与えられている。
救助できる市民が集まり、発進の準備が済むまで、ここで救助された住民たちを死守しているのだ。
「救助状況は?」
そのローザマリアが、傍らの斎賀 昌毅(さいが・まさき)に問いかける。
「悪くない。割合としては、かなりいいペースだ」
昌毅が答える。その手元には、何枚にも渡るチェックリスト。
「ダウンタウンの方の救助が遅れているように見えるのだよ。どうなっておるのだ?」
阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)が、チェックリストに合わせて作った分析シートとにらめっこしながら問いかける。
ガンマン大会で賭博を仕掛けた二人は、大会に参加したガンマンたちや、賭けに参加した人物のリストを作成していたのだ。ごく少額でもかけられる安心設定(那由他談)のため、子供の名前もある。
「那由他たちがせっかく恩を売った住民たちを、一人たりとも死なせるわけにはいかんのだよ!」
「利己者の考え方だな」
「気高さでは儲からんのだよ」
那由他とグロリアーナがそれぞれに肩をすくめる。
「ダウンタウンには、もともとガンマンが多い。少しずつ誘いだして突破に時間がかかっている」
「……仕方ない、そういうことなら、俺も行く」
銃の装弾を確認し、立ち上がる昌毅。
「そういうつもりなら、君はガンマンの相手をしてください。我々が、救助に当たる」
告げたのは、先ほど救助から戻って来たばかりのアルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)。
「待って。武器はどうしたの?」
手にも腰にも武器を持たないアルフレートを見とがめるローザマリア。
「武器がなければ、ガンマンではないとすぐに分かるでしょう?」
「傷を受けた場合は、わたくしが治療しますわ」
アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)が進み出て進言。
ローザマリアと昌毅らは、何かを告げようとするが、言い争っている場合ではない。
「……分かった。好きにしてくれ」
告げた昌毅が飛び出していく。その後を追って、アルフレートとアフィーナもダウンタウンへ向かう。
分厚い雲の下、救助を信じる者たちが走る。