空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
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第四世界・4

 街の一角にある酒場も、すでに銃撃戦の舞台だ。
「もう、なんだってのよっ!」
 カウンターの裏に隠れたジェニファー・リードが、ガンマンたちの銃弾から身を守りつつ、時々手首だけを覗かせて反撃している。その後ろには逃げ込んだ住民がいて、不安げな様子だ。
「やはりここか……っ! 仕掛けろ、章!」
「あんまりうるさくされると、効果が薄いんだけどな」
 林田 樹(はやしだ・いつき)の鋭い指示に対して、緒方 章(おがた・あきら)が甘い子守歌を口ずさむ。魔力のこもったそれを聴かされて、ガンマンたちの動きが鈍った。
「……うおりゃ!」
 そこを狙って飛び込んできた蔵部 食人(くらべ・はみと)が、ガンマンたちを吹き飛ばす。
「無事か?」
 半壊した酒場の中に声をかける。顔を覗かせたジェニファーが、驚いたように目を見開いた。
「君たち……どういうこと?」
「……説明は、大変なんだが」
 軍帽を被り直しながら、樹が肩をすくめる。
「この場所から……世界から、リードくんや、みんなを助けに来た」
「世界って……確かに、なんだか状況がおかしいとは思ってたけど……」
「女ガンマン、私たちがやってきた世界に来る気はないか?」
 真剣みを増す樹や章の表情を見て、さすがにジェニファーも冗談ではないと察したらしい。
「……ここにいちゃ、もっとまずいことになるってこと?」
「サンダラーみたいなやつばっかりになる。細かい説明をしてる時間が惜しいんだ」
 と、食人。
「前に、服を透視して胸を見せてもらっちまったからな。あんたにお礼をしようと思って……」
「……透視?」
 聞き返すジェニファー。
「つまり、服を透かして見ることができるアイテムがあったんだ。……自分で言わなきゃ気づかれてなかったのに」
 魔装戦記 シャインヴェイダー(まそうせんき・しゃいんう゛ぇいだー)が、ぼそっと食人に告げる。
「……君、あたしに撃たれに来たわけ?」
 がちゃりと、ジェニファーの軽い引き金にかかった指が食人に向けられる。
「い、いや、とにかく、一緒に来てくれ、時間が惜しいんだ!」
 慌てる食人に、ジェニファーは頭をかく。
「……外から来た奴らが世界を救うとか言ってたのは、てっきりサンダラーのことだと思ってたけど……なんだか、こっちの方がヤバそうだね?」
「その理解でいい。どうだ、私たちの世界にも、面白い輩がごまんといるぞ」
 樹が頷いて告げる。ふうっと息を吐いて、ジェニファーは肩をすくめた。
「分かった。それじゃあ、一緒に逃げよう。でも……」
 ジェニファーが背後に目を向ける。カウンターの裏には、手足を撃たれた者もいる。
「簡単な治療くらいなら、オレでもできる。少し時間をくれ」
 シャインヴェイダーが答えて、裏に走る。表の安全を確保している樹と章が、レンジャーズや調査隊への連絡を始めていた。


「畜生、どうなってやがる!」
 下町の奥地……“有情の”ジャンゴは、今まで自分に従ってきたガンマンが凶暴化して、他の手下や自分に襲いかかってくる事態に混乱していた。
「正気を失って、手近な奴に襲いかかってる……ってところだな!」
 ダダダダダ! 機関銃を構える猫井 又吉(ねこい・またきち)が突撃。ジャンゴのいるアジトの入り口を確保した。
「いや、ジャンゴ氏が彼らの恨みを買ってたんじゃないか?」
 又吉の派手な登場に意表を突かれたガンマンたちを、国頭 武尊(くにがみ・たける)が正確な狙撃で撃ち倒す。
「おお! お前さんたちは……」
「まだ来るぞ! とりあえずはこのアジトでしのぐ、準備しろ!」
 又吉が手近な家具や道具をくみ上げてバリケード化。はっとしたジャンゴが、手下たちに手伝うように指示を飛ばす。
「ジャンゴぉ、おひさしぶりぃ。なんかまた問題が起きてるわねぇ」
 確保された道筋を通ってやってきたのは、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)
「……ここにはかなりの数のガンマンたちが集まってきているようだね。ジャンゴの力を借りられれば、ずいぶん楽に戦えそうだ」
 ……という、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)のアドバイスを受けてはいるのだが、リナリエッタにそういった戦術的な考えがあるのかどうかは、かなり怪しいところだ。
「こいつは、お前さんたちと関係があるのか?」
 問いかけるジャンゴに、リナリエッタは何も答えない。隣に寄って、大男のヒゲを撫でた。
「私は、あなたがこれくらいでやられたりしないって思ってるんだけどぉ、でも包囲されちゃったら危ないわよねぇ」
「相変わらず、イヤなところを突いてくる女だな。確かに、俺様の裏道を知ってるやつが裏切ってるかもしれねえ。いったいなんだって……」
「『大いなるもの』の影響だ!」
 バリケードからマスケット銃を構え、狙撃を続ける若松 未散(わかまつ・みちる)が鋭く叫んだ。
「あいつらはおかしくなっちまってる、とにかく一緒に戦うように、手下たちに言ってくれ!」
「おい、お前さんの話は相変わらず面白いな……」
「未散くんはほらは吹いても嘘はつきません」
 次々に迫ってくるガンマンたちを撃墜しながら、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が告げる。
「……チッ、お前さんたちに言われて調べてみたが、まさか『大いなるもの』ってのがどこかに封印されてるなんて話が本当だったとは……」
「いや、封印されているわけじゃない。この世界が封印の一部なんだ」
 悠然とした足取りでやってきた如月 和馬(きさらぎ・かずま)が、ようとばかりに手を上げる。
「おい、やめろ!」
 未散が話を止めようとするが、応戦に手一杯。とても和馬の口をふさげる状況ではない。
「この世界は、オレたちのいる世界に『大いなるもの』が出てこないように作られた、樽のふたみたいなものだ。作り物だ。だが、あんたはオレたちと同じ人間だ。あいつらとは違う」
 和馬が外のガンマンたちを示して告げる。
「私たちは今、『大いなるもの』を倒そうとしています。それが終われば、役目を終えたこの世界がどうなるか、約束はできませんわ」
 アーシラト・シュメール(あーしらと・しゅめーる)が、和馬の横に進み出て告げた。
「オレたちと一緒に来るなら、協力できる。たぶん、あんたが住むことになる場所は、いろいろと大変そうだからな」
「ハイ・ブラゼルに土地はあるだろうが……他の世界の住民たちと分けて使うことになるだろうからな。ここの住民たちをまとめることができる人間が必要だ」
 武尊が和馬に合わせて言う。和馬は大きく頷く……その狙いは、パラ実とジャンゴの間に信頼関係を作り上げることにあるのだが、この場で口を出すことはない。
「そいつは、俺様にぴったりだな」
「ショックじゃないのぉ?」
 リナリエッタが意外な反応に首をかしげる。
「なんにも感じてないわけじゃないが、確かにこの世界は妙だと思ってたんだ。いろいろと合点がいった気がするぜ」
「……住民たちが違和感を感じているということですか。それも『大いなるもの』の封印が解けた影響かもしれませんね」
 ぽつりと、ハル。
「それで、結局どうするんだよ!」
 しびれを斬らした未散が、乱暴に話をまとめようとしている。
「お前さんたちには借りもあるからな、ここで返してやる。まずはこいつらをぶっ飛ばして、樽の外に案内しやがれ!」
 叫ぶジャンゴ。和馬はにやりと笑った。
 やはり、ジャンゴはパラ実と意見が合いそうだ。