空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
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リアクション

 
「……こっちは反応なし。そっちは?」
「こっちも居ないわ」
 村の中、子供達が住んでいた小屋の中を及川 翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が捜索していた。
「ここは居ましたか?」
 小屋を覗き込んで本宇治 華音(もとうじ・かおん)が翠達に問うと、翠が首を横に振る。
「ここに住んでいた子、まだ見つかってないんだよね?」
「ええ、そう聞いてます……誰も姿を見ていないそうなんですが……」
 翠の問いに華音が頷くと、困ったような表情をミリアが浮かべた。
「けど、何処を探しても見つからないわ。魔物が入った様子は無いんだけど……」
 ミリアの言うとおり、小屋の中は特に荒れた様子は無く、誰かが入ったような形跡もなかった。
「……まとは?」
 華音の肩に乗っていたまとは・オーリエンダー(まとは・おーりえんだー)が、彼女の耳元にそっと囁く。
「……ここの子と仲のいい子の小屋がこの近くにある」
「それ本当?」
 華音の言葉にまとはが頷く。
「どうしたの?」
 二人のやり取りを見ていた翠が問う。
「この近くにここの子と仲のいい子の小屋があるそうです!」
「仲のいい子……もしかしたらそこに行っていたかもしれないわね。行ってみましょう!」
「わかりました! まとはに誘導してもらうのでついてきてください!」
 華音の後に、翠達が続く。
 まとはが誘導したのは、まだ調べていない小屋。
「……うん、反応あり!」
 翠の【ダウジング】が、小屋の前で揺れた。
 華音と翠達は小屋に飛び込み、探し出す。
「居たわ!」
 間もなく、ミリアが部屋の片隅で震えている子供達を見つけた。
「よかった……早くドロシーの小屋へ行きましょう!」
 華音と翠は子供達を連れ、ドロシーの小屋へと向かった。

――村の空を、三艇の飛空艇が飛んでいた。
 先頭に立つ【小型飛空艇ヴォルケーノ】に天城 一輝(あまぎ・いっき)、その後に続く【小型飛空艇アルバトロス】にローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)、そして【小型飛空艇オイレ】に布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が乗っている。それぞれの飛空艇には、村外れにいた花妖精の子供達も同乗している。
「……今の所襲われることはなさそうね」
 操縦しつつ辺りを見回してエレノアが呟く。
「うん、イコンサイズの魔物の数も減ったしこのまま進めそうだよ」
 佳奈子も辺りを見回して頷いた。先程まで花妖精村の空を漂っていた魔物の数は減っていた。
「……けど、余り楽観視はできなさそうだな」
 一輝が地上を見下ろして言う。
「……魔物共の数が増えやがってますわ」
 ローザが言う通り、地上の魔物達の数はどんどんと増えてきている。
「……すごい数」
「あれを相手にするのは厄介ね……」
 地上を見下ろした佳奈子とエレノアが呟いた。
「……急いだ方がいいな。ドロシーの小屋はこっちだ」
 一輝が先導し、ドロシーの小屋へと飛空艇は向かっていった。

「樹!」
「おう! はぁッ!」
 ミシェル・アーヴァントロード(みしぇる・あーう゜ぁんとろーど)の術によりのけ反った魔物の胸に、吉崎 樹(よしざき・いつき)の剣が突き刺さる。
 魔物は甲高い悲鳴を上げ、消滅していった。
「よっしゃ! ミシェル、早く戻ろぉう!?」
 ミシェルが突如、樹に向かって持っていた杖で殴り掛かってくる。
「あ、危ないだろミシェル! 何考えてるんだ!?」
「何って、樹の為を思って」
 全く悪びれた様子も無く、それどころか不思議そうな顔でミシェルが首を傾げる。
「お、俺の為?」
「ほら、さっき魔物と戦う前に言ってた事思い出して」
「魔物と戦う前?」
 目を閉じ、樹が少し前を思い出す。

――元々樹は、避難誘導の一人として子供達を避難場所まで誘導していた。
 そんな彼らに、突如一体の魔物が襲いかかってきた。その際樹が魔物の前に躍り出てこう言った。
「ここは俺に任せて、早く行け!」

「……あー、そういやそんなこと言ったっけな。一度言ってみたかったんだよ、あの死亡フラグ」
「うん、言ったよね。というわけで、えいっ♪」
 語尾に♪をつけるくらい軽い口調であるが、直撃したらぐちゃりとなりそうな勢いでミシェルが再度杖を振るった。
「ぅおい!? 何がというわけで、だよ!?」
「えー、だって死亡フラグって立てたら必ず死ななきゃいけないわけだよね。樹が一度使ってみたかった、っていうんだから、フラグは回収させないと」
「いやまてその理屈はおかしい!」
「何処がおかしいのかなぁ、僕わかんないや……」
 ふふふ、とイッてる目で笑うミシェルに、自分がとんでもないことをしでかしたことに漸く樹が気づく。
 しかし時既に遅し。振り下ろされるミシェルの杖を見ながら、樹は迂闊にフラグを立てた自分を呪った――
「って、んな理由で死んでたまるか! 俺は逃げさせてもらうぜ!」
「あー待ってよー。痛いのは最初だけだってばー」
 逃げ去る樹を、ミシェルは杖を振り回しながら追いかけていった。

「ふぅ……やれやれ」
 ドロシーの小屋の近く。魔物を倒した鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が息を吐く。
「おう、ご苦労じゃのぉ主様!」
 声をかける医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)を、貴仁がじとっとした目で睨む。
「ご苦労……じゃないですよ房内さん。少しは手伝ってくださいよ」
 貴仁は今、避難場所であるドロシーの小屋の付近に位置し、襲ってくる魔物を食い止めていた。
 幸い魔物は大して強くなく、何とか戦えているがどうも数が多い。その為貴仁一人では苦戦を強いられる場面が増えてきた。
「む、人が何もしていないような言い方じゃのぉ……これでも共に護衛に回っているではないか」
「主に木村さんが、ですがね」
 ドヤ顔で無い胸を張る房内に、貴仁がわざとらしく大きい溜息を吐いて見せる。ちなみに『木村さん』というのは【救世主 木村太郎】の事だ。
「他にもわらわは逃げ遅れた子供達がいないか見張ってもおるのだよ。まぁ今の所全くおらんけどな」
「まぁ、木村さんは戦力になってますからいいんですけどね……」
「それに……その木村もわらわがおらんと使い物にならないからのぉ」
 そう言って房内が木村を見る。木村はというと、何か物欲しげな目で房内を見ていた。
「救世主のくせに救いようがないこのド変態が! 小汚い目でわらわを見るでないわ汚らわしい!」
 突如、房内が木村を罵り出す。
『ご褒美ありがとうございます!』
 罵倒された木村はというと、涙を流して恍惚とした表情を浮かべる所謂ヘヴン状態だった。
「これが無ければいい人なんですけどねぇ……」
 貴仁が、最早諦めたように溜息を吐いた。

「ほーら大丈夫やでー。うち悪い人ちゃうからー」
 木の陰に隠れる花妖精の子供に、由乃 カノコ(ゆの・かのこ)が笑いかける。
「そーダヨー、なーちゃん達怖くナイアルヨー」
 ナカノ ヒト(なかの・ひと)も安心させようとおどけるように言うが、子供達の顔にあるのは不信感丸出しといった表情。カノコ達は完全に警戒されていた。
 そもそも、なぜこんな事になったかというと時は少し遡る。
 カノコ達は避難誘導の手伝いとして、村の中に子供達が居ないか駆けまわっていた。
 そこで逃げ遅れた子供達を見つけた際、ついうっかりカノコが『通りすがりの商人や!』なんて口を滑らせてしまう。ドロシーなどから『誘拐する闇商人』の話を聞いていた子供達は、『商人=悪人』という方程式ができてしまっていたのである。
「あんなこと言うのが悪いアルヨー」
「めんぼくなー……って今はそれどこやないね! 大丈夫やでー? カノコさんは勿論、このナカノさんもいい人? やから」
「なんでそこで疑問形になるアルヨー!?」
 一瞬隙ができ、子供が一気に駆けだした。
「あ、待って――」
 カノコが追いかけようとした瞬間、子供が足をもつれさせ転んでしまう。
「あーあ、いわんこっちゃな……ってまず!」
 カノコの目に、魔物が映った。転んだ子供に、一直線に向かってくる獣のような魔物が。
「ちぃッ!」
 武器を構えるカノコ。

――突如、【轟雷閃】の轟雷が魔物を直撃した。
 
「やっぱり魔物いたねぇミリー」
「そうだね、子供達も間に合ったみたいだね」
 そこには、旧教導団の制服を身に包んだミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)がいた。

「いやあああああああああ! たすけてぇえええええええ!」
 
 二人の顔を見た瞬間、花妖精の子供は物凄い勢いでカノコ達に助けを求めてきた。
「え? え? な、何々? どしたん?」
 さっきまでの警戒心は何処へやら。カノコに抱きつき泣きじゃくる花妖精の子供。
「わ、わからないアルヨー」
 ナカノも困ったように首を傾げる。
「子供達も随分逃げ足鍛えられたねぇ」
「チビっこ達もこれで安心だね」
 その様子を見て、フラットとミリーは嬉しそうに邪悪な笑みを浮かべる。
「……自分ら、一体何やらかしたん?」
 怖がっている原因を二人と見たカノコが、恐る恐るミリー達に問いかける。
「「過去に二度程、そりゃもう色々とねぇ」」
 口の端を歪めて、ミリーとフラットが笑みを浮かべた。

「……到着!」
 ドロシーの小屋に避難誘導にあたっていた白雪 魔姫(しらゆき・まき)が駆け込んでくる。
「ど、どうしたんですか!?」
 魔姫が背負う子供を目にして、ドロシーが驚き声を上げる。
「ああ、転んだらしくて歩けないっていうから背負ってきたのよ……あ、怪我は擦りむいた程度だから心配しないで」
 魔姫が言うと、ドロシーが安心したように息を吐く。
「はい、下ろすわよ」
 背中の子供に言うと、魔姫はそっと地面に下ろす。その顔は泣いたせいか涙の跡がまだ残っていた。
「ちょっと見せてくださいね……」
 フローラ・ホワイトスノー(ふろーら・ほわいとすのー)が花妖精の子供の膝を見る。擦りむいたところから、少しではあるが血が滲んでいた。
 フローラはそっと花妖精の子供の膝に手を当て【ヒール】をかける。淡い光が放たれ、みるみると擦りむいた膝の傷がふさがっていく。
「…はい、これで大丈夫ですよ」
「……ありがとう」
 いえいえ、とフローラは子供に微笑みかける。
「村はまだ誰かいましたか?」
 海の問いかけに魔姫は首を横に振って、とある方向を指さした。
「ワタシ達はあっちを見て回ったけど、この子以外は誰もいなかったわ」
「あっちの方か……村はもう見終わったみたいだな……」
「マリーちゃん、まだいない子はいる?」
「うん……まだ何人か……あ!」
 マリーが何かを目にして声を上げる。海とドロシーが目をやると、そこには遺跡付近を回っていた赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)佐々良 縁(ささら・よすが)著者・編者不詳 『諸国百物語』(ちょしゃへんしゃふしょう・しょこくひゃくものがたり)が子供を連れ添っていた。
「この子達が遺跡の方にいたので連れてきました」
 霜月がレッサーフォトンドラゴンの【葛】の背に乗った子供達を下ろす。子供達は、ドロシーを目にすると嬉しそうに駆け寄っていった。
「ドロシーお姉ちゃん! これでみんな揃ったよ!」
 マリーの言葉に、ドロシーが安心したように息を吐いた。
「やれやれ……子供達みんな無事みたいで良かったねぇ」
「う、うん……よかった、ね……」
 縁も『諸国百物語』もほっとしたように呟く。
「けどそうも安心してられなさそうなのよ……いいかしら、海?」
「……何かありました?」
 海にクコが頷く。
「私達遺跡の辺りを回ってたんだけど、この魔物達は遺跡から出てきているみたいなのよ」
「……本当ですか?」
 ええ、とクコの代わりに霜月が頷いた。
「それに時間経過と共に、出てくる数が増えていっているみたいです……何かしら手を打つ必要がありますね」
 霜月の言葉に、海は少し考える仕草を見せ、やがて決意したようにドロシーに向き直る。
「俺は遺跡の方に行って魔物達を迎え撃つ。ドロシー達は中にいて隠れていてくれ」
「……わかりました。どうか、御無事で」
 深々と、ドロシーが頭を下げた。