空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
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リアクション


第四世界・1

 ゲートを抜けた第四世界には、分厚い雲が立ちこめ、だというのに黄色い太陽が、ぎらぎらと荒野を熱している。
 ゲートをくぐった契約者たちを待ち受けていたのは、目に妖しい光を宿したガンマンたちが荒野をさまよい、飢えた獣のように襲いかかってくる風景だった。
『大いなるもの』の悪意に冒されたガンマンたちが狙う場所は明らかだ。契約者が拠点としていた町である。
 その町中ですら、幽鬼のように歩き回る人々の姿が見受けられた。すでに悪しき気配に冒された住民たちから身を守るように、閉じこもっている人々も。
 遺跡にほど近いこの町が落とされれば、まだ意識を保っているはずの人々が襲われる。
 もちろん、防衛ラインの確保のためにも、まずはこの町を取り戻さなければならないのだった。


「ちょっと、なんだか表はすごいことになってるみたいだけど、無事!?」
 仲間たちと共に町までたどり着いた氷見 雅(ひみ・みやび)が、最初に向かったのは市庁舎だ。彼女たちに採掘権を与えてくれた市長がいなくなったら、一体誰が金を掘り返すことを認めてくれるのだ、という、きわめて利己的な意識ゆえである。
 が……そこにあったのは、雅の問いかけにぼんやりと立ち尽くした市長……いや、市長だったものの姿でしかなかった。
 そのうつろな目が雅の姿を捉えると、獣のように異様な光が宿った。
「……えっ、ちょっと、まさか……」
「グウオオオオ!」
 叫びを上げ、市長の姿をしたものが机を乗り越えて迫る。
「ちょ、ちょっと!」
「ふわあ……」
 飛びついてくる市長を雅はすんでのところでかわし、突き飛ばすなおも突進してくる市長と組み合いそうになりかけたところを、横合いからタンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)が超能力の障壁を張って防いだ。
「た、タンタンナイス! でも、最初のタイミングで防いで欲しかったかな!」
「ふわあ。やっぱり、正気を失っているようです」
 助けてもらった手前、控えめなツッコミをする雅。タンタンは相変わらずのマイペース。
「と、とにかく逃げるわよ!」
 市庁舎を急いで飛び出していく雅。のんびりと浮かびながらその後を追いかけるタンタン。
「弱ったわ、普通の人間に見えたのに。彼が幻だったなんて……」
「ワタシたちのことも忘れてしまったのかもしれません」
 言葉も通じてない様子の市長に少し肩を落とす雅。
「伏せろ!」
「えっ!?」
 市庁舎から飛び出した瞬間にかけられる声に、反射的に身を伏せる。その頭上を、勢いよく銃弾が飛ぶ。
「ぼうっとしないでいただきたい。すでに作戦は始まっている!」
 鋭く叫ぶのは、機関銃を構えたリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)
「こちらへ。早く!」
 土嚢を積み上げているレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)が告げる。見れば、雅たちの背後には、市長と同様に我を失ったガンマンたちが迫ってきている。
「まずはこの町を確保。ここを補給地点として、遺跡に攻め込む。戦うか、邪魔にならないようにじっとしていてくれ!」
 這うように土嚢の裏側に飛び込み、敵の銃弾をかわす雅に告げるリブロ。
「数が多いですな。これは、骨が折れそうだ」
 土嚢の裏でマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が呟く。
「それで、どうするの?」
 マーゼンと同様、銃を持っていない本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)が問いかける。マーゼンはコンマ数秒考える仕草を見せてから、
「町中には身を隠せる場所がいくらでもありますな。俺たちが突撃して、そういう連中をおびき出す。仲間の狙撃手や砲撃手が伏兵を叩いてくれるはずです」
「了っ解」
 にやりと笑って飛鳥が答える。飛び出していく二人を援護するように機関銃を放つリブロ。
「あ、あのさ」
 土嚢の裏に隠れたまま、雅が聞く。
「この世界が幻だったなら、お宝は全部消えちゃうと思う?」
「まだ、この世界にも幻ではない人々が暮らしている。彼らを助けなければならない」
 機関銃を放つリブロが静かに答える。雅は小さく息を吐いた。
「まあ、何にもないよりはマシかな」


 町の目抜き通りには、ぎらついた光を目に宿したガンマンたちがたむろしている。彼らはそうでないものを見かければ、すぐさま銃を抜いて殺意を向けてくる。
「いくら何でも、数が多すぎる!」
 うなじの毛が逆立つような殺意を感じて身を伏せた渋井 誠治(しぶい・せいじ)の頭上を弾丸が過ぎる。それを撃ったガンマンに向けてヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が弾丸を放つ。
「こんな量の人間が幻、だったっていうの……!?」
 大量の敵を相手にするだけで、すでに息が上がっている。狙いをつけるが、人の姿をした的に向けて引き金を引くことに、わずかなためらいが生まれる。
「……待て!」
 声を上げたのは、緋山 政敏(ひやま・まさとし)。誠治たちが転がって物陰に飛び込む。
「気づいた?」
 リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)がパートナーに問いかける。うなずき返した正敏が、共に逃げ込んだ二人に伝える。
「……今のガンマンが持っていた銃、サンダラーの銃に似てた」
 サンダラーというのは、第四世界に名を馳せた最強のガンマンコンビだ。この町で開かれたガンマン大会で参加者を皆殺しにし続けていた彼らはついに契約者たちによって倒されたのだが……。
 彼らの目的は、この世界の人間を殺し、悪意を増大させることで『大いなるもの』を復活させることにあった。その正体はその悪意が形をなした銃であり、ガンマンの意志を乗っ取って操っていたのだ。
「……じゃあ、もしかして?」
 誠治が聞き返す。政敏は小さく頷いた。
「『大いなるもの』が力を増して、あの銃が、幻じゃないガンマンを乗っ取ってるってことか?」
「可能性があるってこと。でも……」
「可能性があるなら、試さずにはいられないわよね」
 リーンとヒルデガルトが、続けて言う。つまり……
「銃を狙うんだ!」
 横っ飛びに姿を現したヒルデガルトが勢いよく銃を斉射。接近してくるガンマンを誘い出す。
「くそ、オレは全然ビビってないからな!」
 前進する政敏の後ろから、誠治は銃を構えつつ……そのガンマンの意識を奪うための催眠波を放つ。ふっと、ガンマンが体勢を崩した。
「はっ!」
 政敏が低い体勢から銃を握る腕を狙って刀の峰を打ち付ける。素早く軌道を変えると、その銃を下から跳ね飛ばす。
「やあっ!」
 リーンとヒルデガルドの十字砲火が浮き上がった銃を砕く。瞬間、ふっとガンマンの目の色が変わった。
「俺は今まで何を……う、腕がいてえ!」
 打たれた腕を押さえるガンマン。だが、4人にはふっと喜色が浮かんだ。
「みんなに伝えろ。サンダラーの銃を狙うんだ!」


「遺跡の銃は、潰したと思っていたんだがな……!」
 通りを走り抜けながら、唸る武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。ガンマンたちの中を駆け抜け、その銃を狙い、はじいていく。
「この世界が遺跡と同様の封印だとすれば、漏れ出した力が、銃を生み出しても不思議はありません」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が疑問に答えるように告げる。
「おい、そこのお前!」
 と、走る彼らに声をかけたのは、日向 朗(ひゅうが・あきら)。ストップのサインを示すように腕を振っている。
「こっちは避難誘導ルートだぜ。こっちに敵を寄せ付けるんじゃねえ」
 と、隣の零・チーコ(ぜろ・ちーこ)が言う。
「そうは言っても、敵の数が多すぎます。銃を狙わなければならない相手もいるし……」
「ちまちまやってるからだろ!」
 灯の反論に、朗が告げる。そして……
「ちょうど俺も見張りに飽きてたところだ」
「俺たちが死なない程度にぶん殴るから、その後銃を壊すなりなんなりしろ」
 朗&零の乱暴な指示。
「なっ、そんなこと……」
「いいからやれ!」
 牙竜が止める前に、二人が走り出していく。仕方ないとばかりに、背後から追いかける。
「ガアアアアッ!」
 ガンマンの前に両手を広げて立ちはだかる零。その固い鱗が、飛来する弾丸をはじく。
「うおりゃああああ!」
 そのガンマンたちの中に飛び込んでいく朗。一気に接近して、握りしめた拳をたたきつける。
「……まったく、無茶なことを考える人たちだ!」
 銃撃戦は一発の致命打が勝負を分ける世界だ。その一発を避けるため、牙竜が繊細な立ち回りを続けている。
「……ですが、確かに効率は良いかもしれませんね」
 倒れたガンマンたちにとりつき、銃を破壊しながら、灯。
「世界が消えたくらいで、ピースメーカーを閉じるつもりはないからな。……ここは、乗らせてもらおう」
 猛烈な勢いで進んでいく朗たちを見ながら、牙竜は小さくため息を吐いた。