|
|
リアクション
避難開始
――村と遺跡の中間地点に当たる森の中。突如現れた魔物達は、ここにも姿を現していた。
平和だった森はそこにはない。今や、ここも戦場の一つであった。
「せぇいッ!」
ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)の【幻槍モノケロス】に胸を貫かれ、魔物が崩れ落ち塵と化して消える。
「……数が多くて厄介ですね」
魔物を斬り伏せ、アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が呟く。
彼女たちの目に映る魔物の数は、二桁を超えていた。
「長く相手にしてられませんねぇ……」
「彼らが早く逃げればいいのですが……」
武器を構えるルーシェリアとアルトリアの頬を冷たい物が伝う。
彼女らは森に来ていた子供達の避難にあたっていた。森には遊びに来ていた子供達がおり、誘導している最中魔物達が襲いかかってきたのだ。
獣型、人型と様々な魔物達を前にし、ルーシェリア達は子供達を他の誘導担当者に任せ、逃げるための時間稼ぎの役目を担う事になった。
「自分も誘導と同行できれば良かったのですがね……」
アルトリアが悔しそうに言う。本来、ルーシェリアとの話し合いではこういう事態に陥った際アルトリアは避難者に同行する予定であったが、魔物達の数が多い為急遽作戦を変えることとなった。
「もう! 全然減らないなぁ!」
【弾幕援護】で弾幕をばら撒く笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)が、少し苛立ったように漏らす。彼女もまた、時間稼ぎの役目を担う一人だ。
弾丸は数体の魔物を撃ち抜く。しかし待ち構えている魔物はまだ減る様子を見せない。
「あはははははははは!」
そんな中、笑い声が響いた。笑い声の主――ノヴァ・ルージュ(のうぁ・るーじゅ)が【サバイバルナイフ】で魔物をめった刺しにしていた。
「ああ、こんな魔物でも血はいい臭いだねぇ! それに甘美な悲鳴まであってたまらないよ! もっと! もっとちょうだい! 塵になんてならないでさあ!」
「……彼女、大丈夫ですか?」
「……いけない、暴走してる」
ルーシェリアに言われ、紅鵡が困ったように溜息を吐くと、高笑いを続けるノヴァの背後に回り、
「えいっ」
ガツン、と後頭部を殴った。
「あうっ」
ノヴァは小さく悲鳴を上げると、ぱたりと倒れてしまう。
「……彼女、大丈夫なんでしょうか?」
「それよりも今はこの敵だよ! 一秒でも長く時間を稼いで子供達を逃がさないと!」
アルトリアが困惑気味に問うと、紅鵡は誤魔化す気満々で答えた。
時間稼ぎ班の少し先では、村に向かう列があった。
「こっちですわ! 急いでください!」
列の先頭に立つユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が、子供達を誘導する。
「ぜえ……ぜえ……あ、あまり焦らないで……こ、転ばないように……ぜえ……」
ユーリカの後ろ、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が汗だくになり息も絶え絶えになりながらついてきていた。
「……近遠ちゃん、大丈夫?」
「……あ、あまり……大丈夫とは言い難い……です」
心配そうなユーリカに、苦しそうに答える近遠。先ほど、魔物に襲われた際走って逃げたが、運動が苦手な近遠にはそれは過酷な物であった。
「で、でも……もう少しで村までたどり着けますから……」
地図を見つつ近遠が言う。
「きゃーはやくにげないとー!」
列の子供達に混じり、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が楽しそうに叫ぶ。その姿は【ちぎのたくらみ】により子供の姿をしている。
「…………」
その隣を、ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)がニコニコ笑顔で歩いていた。だがその笑顔は何処か作り物のようで、子供達は少し恐怖に近い物を感じていた。
「もうそろそろ村が――近遠ちゃん!」
ユーリカが声を上げる。近遠が目をやると、子供達の列に向かって獣の形をした魔物が突っ込んできていた。
「くっ……こんな時に……!」
逃げるには間に合わない。その時だった。
「じゃすとあもーめんっと!」
突如、列から飛び出たアルコリアが【雷霆の拳】で魔物をぶん殴った。吹き飛ばされた魔物は数度地面をバウンドすると、そのまま塵になって消えてしまった。
「アルコリアずるいじゃない! やっとラズンも遊べると思ったのに!」
今まで一言もしゃべらなかったラズンが不満げにアルコリアを責める。
「だいじょーぶだいじょーぶ、まだくるから♪」
「あら、本当♪」
アルコリアが指さした先にいる魔物を目にし、ラズンが一転して嬉しそうな表情に変わった。
「さーて、まずどうして遊ぼうかなー」
そう言いつつラズンは手近な気に近寄ると、その木を引っこ抜いた。【自動車殴り】という戦法である。
その光景を、近遠とユーリカは唖然とした表情で見ていた。
「……ねえ、近遠ちゃん」
「……なんですか?」
「……魔物より、あっちのが危険な気がしますわあたし」
「奇遇ですね、ボクもです」
魔物に襲い掛かるアルコリアとラズンを見て、近遠達はそんなことを話していた。