空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
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リアクション


第四世界・5

 徐々に、町中にいるガンマンたちはその数を減らしていっている。
 仮想世界の住民だったものは、撃ち倒され。
 銃に操られているものは、銃を奪われ。
 そうして、契約者たちに破られている。そして彼らが現れるのは間違いなく、サンダラーの武器が生み出されていた遺跡からだと知れた。
 向かうべき場所へ。ゆっくりとだが、着実に反撃がはじまっていた。
 契約者たちによる防衛線は、ついに町の出口まで達している。ここを押し切れば、あとは一面の荒野だ。障害物の多い町中よりも、ずっと戦いやすい。
 タンッ!
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)の放った弾丸が、一人のガンマンの体を貫いた。
「……切れが悪いですね」
 その様子に、ぽつりとレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が告げた。
「元はこの世界で過ごしてい普通の人間だったのに……やっぱり、戦いづらいわよね」
 背後から見守る位置にいた、白波 理沙(しらなみ・りさ)が呟くように言う。静麻はうんともいいやとも言わない。
「この世界と運命を共にしてもらうしかないんだ、ここで楽にしてやった方が良いんだろうけどな……っと!」
 銃声。言われた通りに体の動きが鈍っているのを認めつつ、柵に身を隠す。
「別に、こういうこと、初めてなわけじゃないでしょ!」
 静麻を狙っていたガンマンを狙撃しながら、白波 舞(しらなみ・まい)
「そうですよ。こんなに思いっきり戦えるチャンス、滅多にありませんよ!」
 微妙な均衡が崩れた隙に、銃弾飛び交う町の入り口に飛び出したものがいる。藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だ。敵からも味方からも姿を隠して前進し、ど真ん中へ突っ込んだのである。
「私の泡のような人生と、あなた方の幻の生き様にどれほどの違いがありましょうか? さあ、似たもの同士、踊りましょう!」
「完全に変なスイッチ入っちまってるな、これ」
 ぼつり。優梨子をサポートするつもりで出てきた宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)は、微妙に定まらない銃口を向けつつ、呟いた。
「やれやれ……助けられる人を助けるためだ、戦ってやる!」
 優梨子が敵を引きつけてくれる今こそ好機。そう判断して、静麻と舞が弾丸をばらまく。
「ここで、一気に攻めます!」
 注目が優梨子に合う待っている今がチャンス。レイナが横から大きく回り込んで、ガンマンたちを打ち払う。
 こんなナリをした蕪之進の銃撃は未だに精彩を欠いていたが、優梨子がそれを補ってあまりある活躍……あるいは殺戮を繰り広げていたので、文句を言うものは誰もいなかった。


 町から遺跡へ、道ならぬ道が伸びている。ガンマン達は、契約者たちの行く手を塞ぐように、彼らの前へ立ちふさがる。
 いや、事実、彼らは契約者たちを遺跡にたどり着かせないように巨大な意思に突き動かされているのだ。軍隊のように規律があるわけではない。賊というほど、まとまりがあるわけでもない。
 ただ、彼らは邪悪な意思を持って、敵と認識した契約者たちへと迫ってくるのだ。
「ここまで、ちょっと楽をしすぎたからねぇ……」
 ゆらりと、ガンマン達の前に立ち向かうキルラス・ケイ(きるらす・けい)が、どこか気だるげにライフルを構える。
「そろそろ、本気を出すとするかねぇ」
 ドンッ!
 重たい銃声とともに飛び出した弾丸が、ガンマンの群れの中に着弾。ごうと砂煙を巻き上げた。煙幕がわりに中に突っ込んで、ライフルを振り回すように連射。
「うち漏らしてるぞ、キルラス!」
 ひゅう、っとヴァン ガルアード(ぶぁん・がるあーど)がダガーを閃かせ、接近してくるガンマンを払う。
「勢い重視だ、行くぞ!」
 駆けるキルラス。その行く手で、また別のものが高かっている。
 八神 誠一(やがみ・せいいち)の剣が踊る。異様に鋭く感じられる銃弾をかすらせながらも、その動きが鈍ることはない。
「……邪魔だ」
 血煙をあげながら、急所を狙った剣筋を次々と描く。ガンマンの銃など狙っている暇はない。ただ、もっとも効果のある場所に、もっとも有効な一撃を加えていくだけだ。
「ったく、気に入らねーな。人間をなんだと思ってやがるんだ」
 その背についたシャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)が踊るように複雑な軌道でキャノン砲を振り回す。飛来する銃弾をかわしながら、反撃を見舞っているのだ。
「こいつらも勝手にこんなことさせられて、かわいそうにな。あたしがお勤めを終わらせてやろーじゃねーか」
 呟くシャロン。一方の誠一は一言も口にせず、黙々と敵をいなしている。
「いくぞ。一気に攻めろ」
 一方、町から飛び出してくるのはジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)。ジャンゴの手下たちの援護を受けながら、炎を吹く勢いでガンマンたちをなぎ払っていく。
「弾数だけが勝負の分け目ですわよ。さあ、どんどん景気よく撃って下さいませ」
 サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)がガンマンたちに銃弾を、火薬を配っている。大量の装備を渡しつつ……後々、請求はしっかりとするつもりだ。
「援護する!」
 背後からの援護射撃。素早い連射が、彼らの周囲に集まったガンマンたちを次々に打ち倒していく。
「怪我はないか?」
 アウトローたちの列に加わって狙撃するエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)が狙撃銃を構え直しながら問いかける。ジャジラッドは、にやりと笑を向けている。
「おかげで殺すのが楽になった」
「いや、危ないところだったな。これが終わったら食事でも行かねえ?」
 エールヴァントの背から顔をのぞかせたアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が、サルガタナスに声をかける。
「高く付きますわよ?」
「ま、ま、待て!」
 文字通りの悪魔にナンパをしかける恐れ知らずのアルフを、慌ててエールヴァントが制止する。
「……すまない、こんな時に。忘れてくれ」
 サルガタナスに頭を下げる。アルフは不満顔だが、サルガタナスは妖しい笑みを返すだけだ。
「いいええ。たくさん、敵を倒してくれる強い人になら、わたくしついていってしまうかもしれませんわ」
「そうか、よーし!」
「おい、調子に乗りすぎるなってば!」
 威勢よく前進するアルフ。引きとめようとするエールヴァント。
 ともあれ、契約者たちの戦線は徐々に前進を続けていた。