空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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   序章

 雲一つなかった。
 空の青は心なしか薄く、昇りかけの太陽は霞んでいる。
 朝だというのに、赤い月の方がくっきり見えるほどだった。
 グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は、空飛ぶ箒に跨り、遺跡の上空を旋回していた。
 闇黒饗団(あんこくきょうだん)に手を貸していた二人が遺跡に着いたとき、既にそこには誰の姿もなかった。
 魔法協会の人間が結界を張ったのだろう、遺跡自体は無事だったが、致死量に近い血痕を見つけた。誰のものかは分からない。だが、ここに今、人っ子一人いないということは、饗団が敗北したことを示す。
「どういうこと? なんで誰も居ないのよっ! イブリスの爺さんは? ネイラは? 饗団はどうなってんの!?」
 グラルダは苛々と舌打ちした。
 脱獄した捕虜が暴れ回ったために、遺跡の内部は饗団本部としては使用できないほどに破壊された。それを知ってか知らずか、団員は誰も戻ってこなかった。無論、イブリスもだ。
 どこへ行ったのだろう?
「協会に向かったのかもしれないわね……」
 イブリスに策がある、とはネイラの談だ。その策がどんな物であるか、グラルダは知らない。
「結局、力押しというオチもあるわね……」
 今までのイブリスの行動を見ていると、その可能性も捨てきれない。どちらにせよ、このまますませるつもりはない。
「シィシャ! 早いとこ、爺さんたちと合流するわよ!」
 グラルダは、箒の先端をスプリブルーネへと向けた。
「グラルダ。質問の許可を」
「許す」
「なぜ、そこまでイブリスの肩を持つのです?」
 グラルダは、自分よりやや遅れて飛ぶシィシャをちらりと振り返った。
「……爺さんは自分を偽ってなかったわ。それがどんな目的であれ」
 なるほど、とシィシャは頷いた。グラルダはおそらく、自分とイブリスを重ねているのだろう。そうと分かれば、シィシャの取る行動はただ一つ。彼女の期待に応えるまでだ。
 シィシャは高度を落とし、イブリスを探した。――と、何者かが杖を大きく振り上げるのが見えた。
「グラルダ!」
 シィシャの鋭い声に、グラルダは咄嗟に【罪と死】を放っていた。続いてシィシャも、【雷術】を使う。
 地上に降りると、それは饗団でも協会の魔術師でもない、ただの木こりだった。見覚えはなく、恨まれる覚えもない。
 グラルダは殴って起こそうかとも思ったが、シィシャに止められた。
「どういうこと?」
 グラルダは街の方を見た。おかしい。何かおかしい。
 結界が張られている間、スプリブルーネはひっそりとして人の気配がなかった。しかしその前は、賑やかで明るい街だった。
 だが今は、まるで街全体が人を拒否しているかのようだった――。