空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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   第4章 地下水路の戦い

 透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)は、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の協力を得て、スプリブルーネの地理を確認した。
 遺跡の内部へ行く道は限られていた。地下水路及び、山中のどこか、であるらしい。闇黒饗団の魔術師であれば転送の術で一瞬にして移動できるが、契約者たちはそうはいかない。
 従って、契約者たちを第一世界へ向かわせるためには広範囲の安全を確保する必要があった。
 話し合いの結果、透玻たちは地下水路へ、他の契約者は街や山の中へと手分けして向かうことになった。
 山に降った雨や湧水を街へ送り、生活用水として使うための物――即ち水道の役割を果たしている――なので、地下水路の入り口は非常に狭かった。人一人が通るので精いっぱいといった広さだ。
 透玻と璃央がまず先に水路へ降りた。内部は思ったよりは広かった。――そしてそこに、魔術師がいた。
 いきなり吹雪が巻き起こった。透玻は【エンデュア】で堪え、瓜生 コウ(うりゅう・こう)らに「先へ行け!」と怒鳴った。
 黒いローブの魔術師がコウたちへ杖を向けるのを見るや、璃央は舌切り鋏で【面打ち】をかけた。光の文字列が魔術師の周囲に現れ、舌切り鋏を弾き返す。
「何のダメージも与えられないとは……!」
 ギリ、と璃央は歯噛みする。だがその隙に、コウたちは先へ進む。
「時間稼ぎにはなりますね」
 璃央は舌切り鋏を構えた。と、すとんと腰を落とし、目標を見失った魔術師へ向け、透玻が【凍てつく炎】を発動する。炎と氷が魔術師へ唸りを上げて突き進む。
 魔術師の目の前に炎の壁が現れ、術を跳ね返す。
 次いで璃央が【バーストダッシュ】で魔術師の目の前に立った。攻撃ではなく、魔術師の体を抱きしめる。
「透玻様!」
 動けなくなった魔術師に、透玻は【サンダーブラスト】を使った。魔術師と璃央に雷が降り注ぐ。
 ぐらり、と璃央の体が揺れ、水の中に落ちた。
「璃央!」
 透玻は璃央の体を抱き起こした。
「すまなかった……」
「……いいえ……透玻様がご無事なら……」
「貴様のおかげで倒せたぞ」
「ありがとうございます……」
 だが、二人の上に影が覆いかぶさる。
 はっと顔を上げた透玻の目に、魔法で体力を完全に回復した魔術師が立っていた。その手が、二人の頭上へ翳された――。


 コウは闇黒饗団の魔術師から、本部の場所とそこまでの行き方を聞き出していた。
 地下水路の入り口は狭かったが、内部は二メートルほどの水路と、人が歩くための狭い道が両側に作ってあった。ちなみに下水道は、別の場所を通っている。
 コウはパートナーのマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)と共に、饗団本部へ向かう者の案内を買って出た。この時は、森の魔女と呼ばれるコウより、マリザの名前が役に立った。
 しばらく進むと、案の定、闇黒饗団の魔術師が立ち塞がった。二人いる。
「ここは我らに任せて、先へ行くがよい」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がレールガンを構えるや、引き金を引く。
 発射された弾は、しかし、自動発動の防御術式によって跳ね返されてしまった。石造りの壁が、崩れる。
 コウの合図で、契約者たちは魔術師の横をすり抜けた。行かせまいとする魔術師たちに、今度はカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が【歴戦の魔術】を使う。
 魔術師たちは、ほとんど応えていないようだった。その杖から、それぞれ炎と吹雪がカレンたちを襲う。ジュレールがカレンの腕を引っ張った。
「こんなに強くなってるなんて!」
 髪の毛が焼け焦げ、服が凍りついた。カレンは「試薬20210126号」を飲むと、エンペラースタッフを強く握り締めた。背後に不死鳥の模様が浮かび上がる。
「もう一度!」
 全身全霊、全ての魔力を一人の魔術師へ叩きつけた。その魔術師は膝をついた。しかし、そこまでだった。
「二人とも離れろ!」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の怒鳴り声が響いた。【禁じられた言葉】で魔力を大幅に引き上げた「アウィケンナの宝笏」から、氷がブリザードのように飛び出した。
「!?」
 魔術師たちの足元が、ベキベキベキと音を立て、たちまち水路が凍っていく。
「クリティカルヒット!」
「もっと離れてください!!」
 狭い空間で離れようがなかったが、ジュレールは空飛ぶ箒に掴まり、水面から僅か一メートルのところでカレンと共に待機した。
「魔法陣展開、魔力開放! いきます!!」
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、両腕を水面に叩きつける。弾けるような光が水、そして氷を伝って魔術師たちを襲う。
「ぎゃああああ!」
【禁じられた言葉】で魔力の上がった【サンダーブラスト】が、彼らの体内を駆け抜け、身動きの取れない魔術師たちは絶叫した。
 箒から降りたジュレールは、魔術師たちの脈を取った。ぷすぷすと音を立て、ローブからは煙が上がっている。
「……生きてはいる。が、治療せねば遅かれ早かれ死ぬだろう」
「じゃ、縛ってから治療しようよ」
 たとえ操られているとはいえ――いや、だからこそ、命を取るのは忍びない。カレンがそう言うと、そうだなと涼介も頷いた。
 ジュレールと涼介が魔術師たちを縛り、「エイボンの書」が【ヒール】をかけ、ついでに【子守歌】でもう一度眠らせた。
 これからここをやってくる契約者たちがいれば、無事に通す必要がある。逆に操られた魔術師たちが来たら――、
「死守しなきゃね」
と、カレンは呟き、仲間たちが向かった方を心配げに見やった。