空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

リアクション公開中!

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い
【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い 【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い 【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

リアクション

   第5章 闇黒饗団の魔術師

 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は小型飛空艇ヴォルケーノに乗り、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は熾天使の比翼を使い、そして雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)ウィラル・ランカスター(うぃらる・らんかすたー)はそれぞれの箒に跨り、上空から正気の魔法使いがまだ残っていないかを探していた。
 遺跡や街から離れ、深く黒い森を抜け、切り立った山々の上を飛ぶ。その果てにオーロラの壁が見えるが、かつてとは違って飛び込むことは出来ず、ゴム毬のように跳ね返されてしまった。
「きゃあ!」
 六花が箒から落ちそうになるのを、ウィラルが腕を掴んで救い上げた。
「あれは……!」
 ウィラルが六花の向こうに、人影を見つけた。
 一人を三人が追っている。どう見ても、襲っているとしか思えない。
「行くぞ!」
 宵一が声をかけるや、体勢を整え直した六花が、ヨルディアと共に弾けるように飛び出した。
 風を切り裂くような急降下。
 六花とヨルディアは、ほぼ同じスピードで地上の一点を目指す。その斜め前を宵一が、二人のすぐ後ろにはウィラルが続く。
「【ディフェンスシフト】!」
 宵一はあらゆる防御魔法を展開し、ウィラルが【ディフェンスシフト】を唱える。その間、六花とヨルディアは口の中で呪文を詠唱した。
 二人は急降下しながらも視線を交わし、無言で頷き合う。
「「【凍てつく炎】!!」」
 二人から放たれた炎熱と氷塊が、唸りを上げて螺旋状に猛スピードで突き進む。
 魔術師たちは咄嗟に身を庇ったが、少なからずダメージを受けたようだった。地面は大きく抉れ、クレーターが出来ている。
 魔術師たちが態勢を整え直し間に四人は降り立った。
「大丈夫ですか、六花、ヨルディア」
 ウィラルの言葉に、六花はかすかに微笑んだが、視線は敵を見据えたままだ。
「む……お前たちは……?」
 頭から血を流し、血染めのローブ――よく見れば乾いている――を着た魔術師は、目を瞠った。
「正気か!?」
 問いの意味を、魔術師は理解した。無論だ、と頷くと、宵一は魔術師を他の三人から庇うように立った。
「一体、どういうことだ!? こいつらが我らを憎むのは分かる。だが、これは、協会のやり方ではない!」
 ヨルディアは驚いた。彼女たちが助けたのは、魔法協会ではなく、闇黒饗団の魔術師であった。そして今、敵意を向けているのが、
「仮想世界の人間ということか」
 宵一は呟いた。
 三人の魔術師は呪文の詠唱に入った。
「させないわ! 【バニッシュ】!!」
 まばゆい光が魔術師たちを襲う。しかし、たじろいだのは一瞬で、すぐさま杖を向け、雷を呼び出した。
 宵一の【対電フィールド】がなければ、堪えきれなかったろう。
 六花は【禁じられた言葉】を使った。その間にウィラルが【アルティマ・トゥーレ】で攻撃するが、クレイモアは敵から逸れ、魔術師の一部が凍りつくだけで大きなダメージは与えられなかった。
 ヨルディアが【歴戦の魔術】を使い、魔術師たちが今度は炎を呼び出した。これは【ファイアプロテクト】でどうにか凌いだが、背後の饗団の魔術師が顔を歪めたのを見て、ここまでだと宵一は判断した。
「六花!」
「【天のいかづち】!!」
 魔術師の一人に、大きな雷が落ちた。魔術師は天へと口を開き、よろよろっと前へ進み出ると、そのままばたりと倒れた。
 六花が漆黒の杖を空に向けたのを見て、残る二人も杖を構えた。――と、饗団の魔術師の腕を引っ掴み、宵一が逃げ出した。ヨルディアも後を追い、六花は更に一発を二人の前に落すと、ウィラルと共に箒に跨った。
「【天のいかづち】を恐れて、すぐには追ってこないと思うわ。話してくれる?」
 しばらくして、六花は尋ねた。宵一の小型飛空艇に乗った魔術師は、ステイルと名乗った。闇黒饗団の幹部だという。
 ステイルは、魔法協会本部を襲った際に傷を負い、街中で治療をし、饗団の本部へ戻ったのは大分後になってからだった。その時、既に饗団は遺跡での戦いに敗れ、スタニスタスらが調査をしていたので、山の中へ逃げ込んだ。
 協会の魔術師に見つかったのは、ほんの少し前だ。正直言えば、とステイルは苦笑する。
「あいつらのことを侮っていた。あんなに力があるとは思わなかった」
 実際、魔法協会と闇黒饗団では、後者の方が圧倒的に実力があった。赤い月の影響で魔力が強まっているとはいえ、三人が相手とはいえ、そして手傷を負っているとはいえ、負けようなどと思いもしなかった。
 しかし、相手の容赦ない攻撃に危うく殺されるところだったという。
 魔力が上がっているだけではない。おそらく、仮想世界の住人であるあの三人には、人として最低限備わっている本能やストッパーのようなものがなかったに違いない。己の体も限界も顧みず、ひたすら「敵」を攻撃する。いずれ、魔力も体力も枯渇するだろう。
 ウィラルが簡潔に、今の状況を説明するとステイルは愕然となった。
「信じられないのも無理はありませんが、今はとにかく避難して……」
「……饗団は、饗団はどうなった? イブリス様は?」
 ウィラルはかぶりを振った。イブリスの生死も、饗団の他の人間についても、何も分からない。分かっているのは、メイザースが饗団を乗っ取ったことだけだが、それは言わない方がいい気がした。
「こんな……こんなことがあってたまるか……」
 ステイルは俯き、唇を噛んだ。小型飛空艇の床に、小さな染みがいくつも出来た。