空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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   第6章 ネイラ

 真上を飛んでいく小型飛空艇と箒に、月詠 司(つくよみ・つかさ)は目を細めた。第二世界に小型飛空艇があるわけがないから、契約者だろう。
「シオンくん、本当にこっちでいいんですか?」
 前を行くシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は、「知らないわ〜」と振り返りもせずに答えた。
「ええっ?」
「だって、一人で逃げるの大変だったんだものぉ〜」
 シオンは闇黒饗団にスパイとして潜入していたのだが、司のミスで正体がバレ、命からがら逃げだしたのだった。それを突かれ、司は体を小さくした。ちなみに司自身は魔法協会で捕虜になっていたが、一応身分を保証してくれた者がおり、釈放された。
 二人はイブリスとエレインを協力させよう、と考えていた。シオン曰く、
「情報を聞く限り、封印を守るにしろ解くにしろキーパーソンっぽいから」
というのがその理由だが、何しろ根深い恨みがあるようなので、説得のために側近のネイラを先に探すことになった。無論、彼には通訳をお願いするつもりでもある。
 饗団本部が遺跡の地下にあったことは既に分かっているが、山中の出入り口については知る者は少なかった。シオンはその一人だ。だが、上述の如く、逃げながらのことだったので、今一つ正確さに欠ける。
 そんなわけで山の中をウロウロしていたのだが、大体そんな都合よく見つけられるわけないと――、
「いた」
 ――都合よく見つかった。司は唖然とした。
 確かに薄汚れた黒いローブの若い男がいる。それがネイラであるか司には分からなかったが、シオンが言うからにはそうなのだろう。
「はぁ〜い、元スパイのシオンよ。別にもうワタシを信じろなんて言わないわよ〜、ただちょっと、イブリスの居場所が知りたいだけ。一緒に来てくれると助かるんだけど、どう?」
 ネイラはじっとこちらを睨んでいる。これはまずいんじゃないか、と司はシオンの服を引っ張った。
「別にイブリスをどうこうするつもりも、ないわよ〜。ただ、真実を確かめてもいいんじゃないかって思ったわけ」
 シオンは司の手をはたいた。
「シオンくん」
「ケガしてるなら、ワタシが治してあげるけどぉ〜?」
「シオンくんってば」
「何よツカサ、うるさい」
「あの人、目が変――」
 司の言葉が終わるより速く、ネイラの杖から火の弾が飛び出す。
「ちょっとちょっと、ネイラってば! ワタシたち、敵じゃないわよ!」
 しかし、ネイラは聞く耳を全く持たない。ただ、憎悪の目で二人を睨み、次から次へ火の弾を飛ばす。二人は辛うじて避けるが、背後の木に当たり、燃え移ってしまった。
 更に杖を振ろうとしたネイラの足元が弾ける。
「大丈夫ですかぁ〜?」
 鎧を纏った神代 明日香(かみしろ・あすか)が、煙を見て駆け付けてきた。
 胸部腹部と腰の側面を覆う胴部分。腕から手先を覆う腕部分。腿から足先を覆う脚部分。
 薄っすら赤い未知の金属のような物で出来たそれは、エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)だ。
「敵め!」
 木の陰に隠れたネイラが怒鳴った。
「敵じゃないって!!」
 シオンが怒鳴り返すが、返ってきたのは火の弾だ。
「どうやらあの人、仮想世界の人みたいですねぇ〜」
 明日香がのんびり言って、さてどうしようかと考えた。山の中なので、フェニックスを召喚するわけにはいかない。【※メテオスウォーム】は時間がかかりすぎる。魔力の消耗は避けたいし、力押しもしたくない。要は戦い方、使い方ですよね、と結論付ける。
「手伝ってもらえますかぁ?」
「もちろんです」
 司は【ミラージュ】を使い自分の幻影を出した。そこに向け、ネイラは再び火の弾を発射するが、効果がないと気づくや、杖を天に向け、何かを呼び出そうとした。
 させじと明日香が魔道銃を撃ち、詠唱を止めた。ネイラがすぐさま目標を変え、明日香へ向けて小さな雷を落とした。が、エイムの【風の鎧】が発動し、ほとんどダメージがない。
 ネイラは舌打ちし、今度は氷の嵐を呼び出した。「オスクリダ」の力場が明日香と司の身を守る。
「ね〜え、まだやるのぉ〜?」
 シオンの声に、ハッとネイラが振り返る。
「シオンくん!」
 司が【真空波】を使うが、光がそれを弾いてしまう。同時に、明日香は【光術】で目くらましをかけた。
「くそ!!! どこだあああ!」
 一時的に視力を失ったネイラが、火の弾を四方八方に撃ち始めた。明日香は素早くネイラに近づいた。「オスクリダ」は邪魔なので、置いていく。火の弾が腕を掠ると、エイムの【大地の祝福】がそれを治した。
 ――ここですよぉ〜。
 思いはしたが、口には出さない。
 ネイラの背に【神の審判】を落とす。
 文字通り、雷に打たれたようになり、ネイラは両手を広げ、一〜二歩ふらふら歩くと、そのままばったり倒れた。
「あ〜あ、イブリスの説得させたかったのにな〜」
 シオンががっくりと言った。
「この人が仮想世界の住人なら、無駄でしょう」
 司は肩を竦め、座り込んだ明日香に礼を言った。そして、
「それにしても、どうしてこんな山の中に?」
「それは情報があったからですわ」
 人の姿に戻ったエイムが言った。
「どんな情報ですか?」
「山の中に、古い古いお屋敷があるらしいということですわ」
「幽霊屋敷とも呼ばれているらしいですぅ〜」
「幽霊、見たいですわ」
 エイムは事態が分かっていないのか、ニコニコとしている。
 司は縛り上げたネイラを見下ろした。
「……じゃ、この人もそこへ行くつもりだったのでしょうか?」
 だが、目を覚ましたネイラに訊いても答えは得られないだろう。
 取り敢えずそれまでに、この男をどうするべきか考えないといけませんね、と司は思った。