空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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   第11章 闇黒饗団本部

 闇黒饗団に客分として入り込んでいたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)は、前線で戦いたいと言うセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)禁書 『フォークナー文書』(きんしょ・ふぉーくなーぶんしょ)輝石 ライス(きせき・らいす)ミリシャ・スパロウズ(みりしゃ・すぱろうず)の四人を連れて遺跡の地下にある饗団本部にやってきていた。逃げ出した際に、「手記」はしっかり山中の出入り口を覚えていたのだ。
「こりゃ酷いな」
 前にも進めぬほどに壁や天井が崩落している。辛うじて一〜二人通れるほどの隙間があるのは、スタニスタスたちが調べた際に作ったのだろう。
 ちなみにその破壊活動に参加していた「手記」は知らん顔をしている。
 ライスは【破壊工作】で、崩れた瓦礫を破壊していった。少し小さめの物は、セシルが拳で砕いていく。
「人間ブルドーザーが二人……」
「フォークナー文書」が眠そうな顔で呟いた。彼女の目の前で道が出来上がっていく。
 ――と、そこに魔術師たちがいた。
「……二人か。任せてよいか?」
「手記」が尋ねると、「お任せください」とセシルが拳を手の平に叩きつけた。
「よおしっ、行くぞ!!」
 ライスは目一杯の大声を張り上げた。傍らのミリシャが、耳を塞ぐ。
 ブージを振り回し、「うおりゃあっ!!」という掛け声と共に【アルティマ・トゥーレ】や【クロスファイア】を放つ。が、冷気や炎に魔術師たちは顔をしかめるものの、ほとんど応えていないようだ。
 セシルも魔術師たちに突っ込んだ。その手前で大きく地面を踏みつける。ドン、という音と共に地面が大きく揺れ、壁や天井からぱらぱらと小さな石が崩れ落ちてきた。強度の弱ったこの場所では、【※震天駭地】は少々危険な技である。
 しかしその甲斐あって、驚いた魔術師たちの動きが一瞬止まった。
 セシルは【神速】で一気に距離を縮めた。すとん、と腰を落とし、魔術師の一人の脛を思い切り蹴る。更に腹部、米神と己が更迭の如き脚で打ち、更にその胸を蹴って後方に宙返り――しようとしたが、いきなり大きな力に弾かれ、地面に叩きつけられた。
 一瞬、息が止まる。鈍い音が体内を走った。
 ――これは、肋骨が……。
 魔術師の周囲から光の文字列が消えていく。自動発動の防御術式だ。意識がある限り、この世界の人間に物理的攻撃はまず通用しない。
 魔術師は両手を使って、長く鋭い氷の槍を精製し、セシルの胸を狙って振り下ろした。
 しかし氷の槍は、突如巻き起こった炎の嵐によって一瞬にして蒸発してしまった。
「フォークナー家は代々、優秀な魔術師を多く輩出した家よ。あまり舐めないことね」
「フォークナー文書」は、突き出した右腕をすっと戻した。「……流石第二世界。魔力が上がってるわ。興味深いわね」
 そして倒れているセシルに視線を移す。
「まったく、肝心の現当主は格闘マニアの脳筋娘だなんて」
 ――うるさいですわね!
 セシルはそう言いたかったが、息を吸おうとすると激痛が走るために出来なかった。
「フォークナー文書」は、すうっと、両手を交差させ、
「……だるいけど、しょうがないわ。セシルの代わりにあたしが相手になろうじゃないの」
と、魔術師を睨む。
 少し離れたところで戦いの様子を見守っていたミリシャは、潮時だろうか、と考えた。
 セシルはもはや戦えない。ライスもまた、物理攻撃という基本故に、魔術師に決定的なダメージを与えられないでいる。「フォークナー文書」だけは対等に戦えているが、早晩、そのバランスは崩れるだろう。
 体力がある内の撤退が望ましい、とミリシャは判断した。
 と、横に立つラムズと「手記」の会話が耳に入ってきた。
「隕石なんて落として、本当に大丈夫なんでしょうか? 世界が壊れたりしないでしょうか? いえ、それよりも中心地である私たちが無事で済むんでしょうか? 手記はどう思いますか?」
「大丈夫じゃ、まず間違いなく巻き込まれる」
「……大丈夫って言いませんよ、ソレ」
「黙っておれ。これは三日の準備が必要な術じゃ。少し前から準備をしてはいるが、このままでは間に合わん」
「まぁ……なるようになりますかね」
 三日の準備が必要な術、というと。
「【※メテオスウォーム】……?」
 ミリシャは青ざめた。【※メテオスウォーム】は、天から数個の隕石が降り注ぐ奥義だ。直撃すればイコンであろうと破壊させる威力を持つ。仮に直撃しなくても、周囲に爆風と熱波が広がるため、広範囲に被害が及ぶという。
 つまり、この遺跡内の本部全体が破壊されるということだ。
 当然――、
「や、やめんかっ!!」
「ぬ?」
「手記」は、ミリシャを見上げた。「何じゃ、聞いておったのか? 趣味が悪いの」
 堂々とすぐ傍で話しておきながら言うセリフではあるまいが、今は触れないでおく。
「そんな物を落としたりしたら!」
「少しでもシャンバラ側を有利にするためじゃ」
「第一世界に行けなくなるではないかっ!!」
「………………ああ」
 言われて、初めてそのことに思い至ったらしい。
「そうだった。そういえば、第一世界への入り口は、ここにあるんじゃった」
「……思い出してくれて何よりだ」
「となると――どうする?」
「どうもこうもない。このままでは全滅の可能性もある。一度撤退し、作戦を立て直すべきだろう。私が突っ込むから、援護を頼む」
「いや、それよりも耳を塞いでおれ」
「?」
 ミリシャは言われるまま、両手を耳に持って行った。
「ラムズ」
「はい?」
「叫べ」
 ラムズは首を傾げながら、言われるままに叫んだ。すさまじい音が発せられ、魔術師たちは耳を抑えた。ライスたちも驚いて、動きが止まる。
「今じゃ!」
 ミリシャは飛び出す。それに気づいたライスが、動けないセシルの襟首を引っ掴んだ。
 魔術師が杖を向ける。ミリシャが【ディフェンスシフト】を使い、「フォークナー文書」が【光術】で目晦ましをかけた。
 光が消え、魔術師たちの目が再び闇に慣れる頃、六人の姿はその場にはなかった。