空京

校長室

【重層世界のフェアリーテイル】重層世界、最後の戦い

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   第14章 メイザース

 金色の髪は、暗闇の中でも輝いていた。
 白いローブは穢れを知らないかのようだった。
 かつて“エレメンタル・クイーン”と呼ばれていた頃と同じように、美しかった。
 瓜生 コウらの案内と他の契約者が道を切り開いてくれたおかげで、十人の契約者がメイザースの元へ辿り着いた。
 彼女の傍にいるのはメニエス・レイン(めにえす・れいん)全能の書 『アールマハト』(ぜんのうのしょ・あーるまはと)のみ。
「目を覚ましてください! メイザースさん!!」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、玉座のような岩に座るメイザースに話しかけた。
「『大いなるもの』に操られている貴女ではなく、心の中にいる本当のメイザースさん、貴女に聞いているんです。心の隙を突かれて、操り人形になったままで良いんですか? 貴女自身でこの状況を変えたいと思わないのですか?」
「全くです」
と頷いたのは、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)だ。
「今からでも遅くはありません。こんなことはやめて『大いなるもの』を止めるために協力しませんか」
 しかしメイザースは応えない。ただ氷のような瞳で、契約者たちを見据えている。
「仮想世界の住人だろうが……んな事は関係ねぇ!」
 そう叫んだのはアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)である。
「俺様……いや俺も昔、力不足で悔しい思いも力を欲したこともある。だからこそ気持ちも分かるが……それに流され過ぎだ」
 ふっとメイザースの傍に人影が現れた。強盗 ヘル(ごうとう・へる)だ。【光学迷彩】で姿を隠していたのだが、悪意がなかったので「アールマハト」も気づかなかった。
「俺は細かいことはわからねえが、仮想世界だろうが何だろうが、確かにここにいて存在してるんだろ。なら俺たちと何ら変わりねえじゃねえか。な、腹を割って全てを吐き出してみねえか?」
 ゆっくりと、メイザースの頭が巡る。
「ヘル!!」
 ザカコが叫ぶと同時に、ヘルの体から火柱が上がった。
「ぎゃああああ!」
 玉座から転げ落ちたヘルに、レミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)が【氷術】を、南部 豊和(なんぶ・とよかず)が【ヒール】をかける。
「大丈夫です!」
 応急処置を済ませ顔を上げた豊和は、ぞっとした。
 人一人燃やしたところで、メイザースの感情はそよとも動いていない。
「メイザースさんっ!!」
 優希が【バーストダッシュ】を使うが、「アールマハト」の【凍てつく炎】で近づけない。
 メニエスは【ファイアストーム】を放った。レミリアの【氷術】が迎え撃つ。
 その隙にアレクセイが【サンダーブラスト】をメイザースへ叩き込む。
「目を覚ませてやる!!」
 激しい雷撃がメイザースの体を襲う。白いローブが焦げ、煙が上がった。
 しかしメイザースはうっすらと目を開け、アレクセイの顔を掴んだ。
「しまっ……!!」
 転げ落ちたアレクセイの上半身は、霜に覆われていた。
「アレク!!」
 優希は急いで【リカバリ】をかけた。「うっ……眠り姫……」
「メイザース様……あなたは祖父から一体何を学んだ!? その力は、世界を滅ぼすために振るわれるべき物なのか!? 目を覚ませ!あなたは誇り高き『エレメンタル・クイーン』だろう!」
 レミリアが叫び、【奈落の鉄鎖】を使った。メイザースの周囲が窪む。豊和は【バニッシュ】を放った。光がメイザースを包む。
「……メイザースさん。誰かを恨んだり嫉んだりするのは、仕方の無い事かもしれません。けど、だからって……誰かを憎むことで強くなるなんて、そんなの……哀し過ぎるじゃないですか……!」
 光が消え、メイザースはゆっくりと顔を上げた。
「魔法は……人を幸せにするために、あるんです……!」
 けれどメイザースは。
「去れ」
 豊和の全身に、電撃が走った。


「好き放題やってくれたわね」
 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)がメイザースを睨む。
「もう、いいでしょ? 後は私たちがやるわ」
 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)が続ける。
 ああ、とザカコは頷いた。メイザースが本心からこんなことをしているとは思えない。だから説得の時間をくれ、とザカコたちは頼んだのだった。
 だが、メイザースは彼らの言葉に耳を貸さない。いや、届いてすらいなかった。
「手伝わせて下さい」
 ザカコは「天のカタール」「地のカタール」を抜いた。
 レミリアがパイルバンカーで【アルティマ・トゥーレ】を放った。
 メニエスの前に出た「アールマハト」が【炎の聖霊】を呼び出し、それを防ぐ。
 ザカコが同時に、【グレイシャルハザード】でメニエスを攻撃する。メニエスはそれを【ファイアストーム】で相殺した。が、直後、優希の光条兵器「深き森の杭」が全力で打ち込まれる。
「くっ……!!」
 髪が焼け、頬の皮が剥ける。それでも優希は力を緩めなかった。
 せめて、この二人だけは――!!
 メニエスの体が地面に叩きつけられ、天井にまでバウンドした。
 ――興味があった。「大いなるもの」の封印が解けたとき、世界がどうなるのか、どう変わるのか。ただ、興味があったのだ。
 だからメイザースに味方をした。実に残念なことね、とそこまで考えて、メニエスの意識は飛んだ。
「アールマハト」が飛び上がり、落下する前にメニエスの体をキャッチした。素早く【ヒール】を使い、メニエスのダメージを確認すると、
「――戦闘不能と認識。退却します」
 空飛ぶ箒でその場を去った。それを追う体力も気力も、三人には残っていなかった。